猛毒天使に捕まりました

なかな悠桃

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基希と身体の関係になって数週間が過ぎようとしていた。隙あれば触れてくる基希に複雑な心境を拭えないにも関わらず跳ね除けることも出来ない史果はズルズルと彼の思うがままになっていた。


「ただいまー。なあー、今日の晩飯って何ー?」

「おかえりなさ・・・んっ、あ・・・、昨日の食材がまだ余って・・・っん、ので・・・はあ・・・って、ちょっ、」

キッチンで準備をしている史果の背後からふわりと嗅ぎ慣れた香りを漂わせた基希に抱きつかれ耳朶を食まれた。

「や、包丁ある・・・あぶな・・・」

「エプロン姿とか見るとさ、なんか新婚みたいでそそるな」

基希は史果の耳朶を甘噛みし軽く息を吹きかけた。直接耳許で話すため息がかかりその度に小さな身震いが全身を駆け巡る。我慢できず史果は憂いのある甘い声色が自然と洩れ、その姿に基希の喉元が波打った。

裾から基希の手が入り込むと直に彼の体温が自身の皮膚へと伝わる。それと同時に項や首元への甘い愛撫も加わってきたせいで史果は擽たさと情欲的な感度に侵され身を捩った。

「あ・・・んッ、だ、だめですって・・・昨日も・・・から・・・だ・・・もち・・・っん♡、ませ・・・」

「仕方ないだろ、抱いても抱いても足りないんだよ。ってかさ、ブラ付けてねーの?」

「はァッ、んんっ・・・キャミと一体型なの・・・で・・・んっ」

意地悪な手つきでブラトップの生地越しから突起のある部分を爪で掻くように攻められ、もどかしさと気持ち良さで頭が呆けてゆく。抵抗は勿論、逃げ出すことも出来ない史果は只々彼から与えられる愉悦に身を任せた。その様子に基希は、もう片方の手でスカートを捲ると厭らしい手つきで下からさわさわと撫でるように上へ移動し腿に触れてゆく。

徐々に内腿へ手を差し込みショーツ越しから滑るように撫で上げる。少し触れただけで湿っている生地の感触に気付いた基希は、わざと敏感な部分を避けるように周囲を弄び苦し気な表情で我慢している史果を煽った。

史果は、基希から受ける刺激や敏感な部分以外の間接的な快感に身体中が疼きに襲われ生理的な涕が零れ嬌声を上げる。

「どうする?キッチンここで最後までスルか、それともベッドあっちでスルか・・・それとも止めるか・・・史果に決めさせてやるよ。どうする?」

史果の顔を自分の方へと向けると意地悪そうな表情をした基希が視界いっぱいに入り込んだ。憎まれ口の一つでも言おうとした刹那、彼の唇に塞がれそれは失敗に終わった。



☆☆☆
「そんな怒んなって」

「・・・・・・」

後ろを向き肩まですっぽりと布団を被った史果に困ったように息を吐いた基希は、背後から抱き締め自分の方へ向き直させ胸元に引き寄せた。

「・・・俺ばっか好きなような気がする」

「え・・・?」

「何でもねー。それよりこっち向け」

史果は聞き取れず聞き返すもはぐらかすように顔を上げさせられ基希の綺麗な顔が近づいてくる。それに吸い寄せられるように史果も彼に近づいた刹那・・・

「もと、“ぐ~~~・・・”」

唇があと数センチで触れようとした時、史果のおなかから盛大な腹の虫が響き渡り二人は一瞬固まるも基希は思いっきり噴き出し笑いだした。

「ひ、ひどいっ!!誰のせいで・・・」

「あははは・・・悪い、悪い。そうだよな。史果が作ろうとした料理と違うかもしんねーけど、とりあえずさっきの途中になってる食材で適当にパパっと作るわ。先に準備してるから着替え終わったら来いよ」

ぽんと頭に手を置き、わしゃわしゃと史果の髪を乱すとそのままベッドから降り傍にあったシャツを手に取るとそのまま部屋を出て行ってしまった。

一人ベッドに残された史果はゆっくり起き上がり無言のまま自身もシャツを羽織った。

「はあ・・・」

彼の気持ちに嘘はないとわかっているつもりでも必ずしも彼を取り巻く環境がその想いと合致しているとは限らない。もし自分の気持ちを素直に言ったことで彼を間違った方向へ向かわせることは出来ない・・・そんな複雑に絡み合った基希への想い・・・。史果は、どうしても気持ちにブレーキを掛けざるをえなかった。



――――――――――
「今日はいいお天気だし、平日出来なかったお洗濯でもしちゃおうかなー」

目まぐるしい平日が過ぎ、待ちに待った週末。しかも金曜日から今日明日にかけ基希は実家の用事で留守にしているため初めてこの広い空間に史果ただ一人。久しぶりの一人寝に少し落ち着かなかったのか早めに目覚めた史果は、早速溜まった自身の洗濯物を洗う準備を始めた。

基希は普段からマンションのコンシェルジュにクリーニングを頼んでいるため基本溜まった洗濯物は部屋にはない。史果にも利用を進めてくれるものの気が咎め部屋の洗濯機を使用させてもらっていた。


ピンポーン・・・。ピンポーン・・・。

部屋のチャイムが鳴り、急いでインターフォンの液晶ディスプレイに目をやると仏頂面の歩生の姿が映し出されていた。

「えっと・・・今、基希さんいないです」

『知ってる、だから来たんだ。とりあえず開けろ』

相変わらずの態度に史果は軽く溜息をつくと気を取り直し冷静に応対する。

「・・・すみません。基希さんの留守中にいくら親戚とはいえ許可なしに勝手に部屋へ入れることは出来ません。すみませんが、彼が在宅中にお願します」

『・・・っち。俺が来たのはアンタのに関わってくることだから部屋に入れた方がいいと思うけど?』

「今後とは・・・」

『入れたら話す』

歩生の煮え切らない態度と表現に史果はどうしたものか悩むも、彼が自分を女として見ていないことや危機感を与えるような行動をしてくる可能性は低いと判断し渋々入れることを許可した。


「相変わらずしみったれた服着てんな」

「ほっといてください。家に居る時くらい楽な格好したいんですっ!ほんとあの女装の時の品のある歩生さんは何処へ行ってしまったんですか!?」

部屋に通すなり呆れたような口調でダメ出ししてくる歩生にムッとした表情を向けながら珈琲を出した。

「・・・で、さっきのどういう意味ですか?」

歩生は長い脚を厭味ったらしく組みソファに座り珈琲を啜る。史果は本題を聞くべくその向かいに正座した。

「そうだな・・・とりあえず外出れる恰好してこい。話はそれからだ。ほら、早くっ!!」

“パンッ!!”と勢いよく手を叩いた歩生に史果は、意味も分からず急かされるようにリビングから追い出された。納得できない状況のまま歩生の言われた通り不服ながらも着替えるため一旦部屋へと向かった。
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