26 / 46
26
しおりを挟む
「・・・どうぞ」
正座から一先ず解放された史果は、ソファに腕と脚を組み座る基希と女装姿から基希に服を借着し胡坐をかき不機嫌な表情の歩生にそれぞれ座るテーブルの手前へ緊張の面持ちで珈琲を置いた。
「ども」
全く違う風貌で素はぶっきら棒だが、所作はやはり変わらず綺麗で育ちの良さを表していた。
「俺、そもそも史果の会社の人間じゃないんだ」
出された珈琲を一口啜った基希は、平然とした声色でテーブルの端辺りに座る史果に視線を向けた。
「へ?どういう・・・」
基希の話によれば、史果の会社のトップは彼の叔父にあたり、あることを調べるために数年前から社員として潜り込み、調査しつつ業務をこなしていたとのことだった。
「調べるって何をですか?」
「産業スパイ」
その言葉を聞き、史果は一気に心拍数が上がり、佐伯の顔が浮かび身震いした。
「元々、俺が本来籍を置いてる会社の関連会社が開発中のデータ抜き取られて大損害食らわされてね。ちょっとした裏ルートで調査してたら叔父の会社を含め業務提携している企業もちらほらリストに上がってる情報を突きとめてさ。とりあえず叔父に頼まれてしばらくの間、潜入して怪しい奴がいないか調査してたってわけ。外部の人間だとフィルターなく見れるし、俺だと動きやすいってことで頼まれたの」
「それってもしかして・・・佐伯さんですか?」
「あー、あいつは違う。そもそもあれは偶然の産物みたいなもので末端の中の末端で雑魚レベル。あいつの場合、情報より女喰い散らかしてるのがメインになってたから。それにさっき言った犯行グループは当たりがついてたし俺が動けないところはもう警察に任せてあるから解決まで時間の問題なんじゃないかな」
理解出来たような出来ないような、スッキリしない頭を働かせつつ史果は眉間に皺を寄せていた。
「基希さんは元々うちの会社に就職したわけではないんですよね?じゃあ、一体どこで働いていたんですか?」
「株式会社ビンアペックス」
基希が一瞬、声を詰まらせているとずっと無言でいた歩生が珈琲を啜りながら答えた。
「ビンアペックスって言ったら、大手も大手、超が付くほどの大手じゃないですか!確かうちも傘下に入ってますよね?!」
株式会社ビンアペックスは、戦前に成り上がりで大きくなった財閥企業で財閥解体後も幅広い視野を兼ね備え企業グループとしてのし上っていた。元々は電子部品などを主に着手し視野を置いた企業だったが、現在は娯楽関係、飲食など多種多様の企業を業務提携、経営統合などをし急成長を遂げている。史果の働くアプリゲーム会社もここの子会社として名を連ねていた。
「基希はそこの社長の息子で会長の孫。地位は専務取締役。ちなみに俺は基希が抜けた穴埋めで代理としてやってるけど仕事量半端ないしそろそろ戻って来てくんねーと回らねーんだよ」
「あのな、俺がいなくたって会社は回るし大差ねーよ。大体、歩生がいるんだし」
基希はソファから立ち上がり歩生の腕を引っ張ると無理やり立ち上がらせた。
「ってことで、今日は一先ず帰れっ!そもそも姑息な手使って、勝手に史果に近づきやがって」
「おいっ!俺はまだ話がっ!」
基希は、暴れ抵抗する歩生を玄関まで引っ張り無理やり部屋から追い出してしまった。
「あ、え・・・いいんですか?」
「あん?あー・・・問題ない。あいつとは付き合い長いし、こんなことで拗れるような関係じゃないから・・・って言うより自分の心配した方がいいんじゃないかなー?」
部屋に戻って来た基希は意地悪な笑みを浮かべ床にペタリと座る史果を見下ろした。
“ゾクゾク”と無意識に武者震いした史果は、後退り気を紛らわせようとヘラヘラと笑みを浮かべその場から立ち去ろうとするも基希にガッチリと腕を掴まれ動きを阻止されてしまった。
「はーい♡お仕置きタイムね♪」
外でよく見る天使の微笑だが、目の奥は全くそれとはかけ離れ吸い込まれそうな程の深淵が広がっていた。
正座から一先ず解放された史果は、ソファに腕と脚を組み座る基希と女装姿から基希に服を借着し胡坐をかき不機嫌な表情の歩生にそれぞれ座るテーブルの手前へ緊張の面持ちで珈琲を置いた。
「ども」
全く違う風貌で素はぶっきら棒だが、所作はやはり変わらず綺麗で育ちの良さを表していた。
「俺、そもそも史果の会社の人間じゃないんだ」
出された珈琲を一口啜った基希は、平然とした声色でテーブルの端辺りに座る史果に視線を向けた。
「へ?どういう・・・」
基希の話によれば、史果の会社のトップは彼の叔父にあたり、あることを調べるために数年前から社員として潜り込み、調査しつつ業務をこなしていたとのことだった。
「調べるって何をですか?」
「産業スパイ」
その言葉を聞き、史果は一気に心拍数が上がり、佐伯の顔が浮かび身震いした。
「元々、俺が本来籍を置いてる会社の関連会社が開発中のデータ抜き取られて大損害食らわされてね。ちょっとした裏ルートで調査してたら叔父の会社を含め業務提携している企業もちらほらリストに上がってる情報を突きとめてさ。とりあえず叔父に頼まれてしばらくの間、潜入して怪しい奴がいないか調査してたってわけ。外部の人間だとフィルターなく見れるし、俺だと動きやすいってことで頼まれたの」
「それってもしかして・・・佐伯さんですか?」
「あー、あいつは違う。そもそもあれは偶然の産物みたいなもので末端の中の末端で雑魚レベル。あいつの場合、情報より女喰い散らかしてるのがメインになってたから。それにさっき言った犯行グループは当たりがついてたし俺が動けないところはもう警察に任せてあるから解決まで時間の問題なんじゃないかな」
理解出来たような出来ないような、スッキリしない頭を働かせつつ史果は眉間に皺を寄せていた。
「基希さんは元々うちの会社に就職したわけではないんですよね?じゃあ、一体どこで働いていたんですか?」
「株式会社ビンアペックス」
基希が一瞬、声を詰まらせているとずっと無言でいた歩生が珈琲を啜りながら答えた。
「ビンアペックスって言ったら、大手も大手、超が付くほどの大手じゃないですか!確かうちも傘下に入ってますよね?!」
株式会社ビンアペックスは、戦前に成り上がりで大きくなった財閥企業で財閥解体後も幅広い視野を兼ね備え企業グループとしてのし上っていた。元々は電子部品などを主に着手し視野を置いた企業だったが、現在は娯楽関係、飲食など多種多様の企業を業務提携、経営統合などをし急成長を遂げている。史果の働くアプリゲーム会社もここの子会社として名を連ねていた。
「基希はそこの社長の息子で会長の孫。地位は専務取締役。ちなみに俺は基希が抜けた穴埋めで代理としてやってるけど仕事量半端ないしそろそろ戻って来てくんねーと回らねーんだよ」
「あのな、俺がいなくたって会社は回るし大差ねーよ。大体、歩生がいるんだし」
基希はソファから立ち上がり歩生の腕を引っ張ると無理やり立ち上がらせた。
「ってことで、今日は一先ず帰れっ!そもそも姑息な手使って、勝手に史果に近づきやがって」
「おいっ!俺はまだ話がっ!」
基希は、暴れ抵抗する歩生を玄関まで引っ張り無理やり部屋から追い出してしまった。
「あ、え・・・いいんですか?」
「あん?あー・・・問題ない。あいつとは付き合い長いし、こんなことで拗れるような関係じゃないから・・・って言うより自分の心配した方がいいんじゃないかなー?」
部屋に戻って来た基希は意地悪な笑みを浮かべ床にペタリと座る史果を見下ろした。
“ゾクゾク”と無意識に武者震いした史果は、後退り気を紛らわせようとヘラヘラと笑みを浮かべその場から立ち去ろうとするも基希にガッチリと腕を掴まれ動きを阻止されてしまった。
「はーい♡お仕置きタイムね♪」
外でよく見る天使の微笑だが、目の奥は全くそれとはかけ離れ吸い込まれそうな程の深淵が広がっていた。
0
お気に入りに追加
183
あなたにおすすめの小説

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

鬼上官と、深夜のオフィス
99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」
間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。
けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……?
「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」
鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。
※性的な事柄をモチーフとしていますが
その描写は薄いです。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。


【R18】仲のいいバイト仲間だと思ってたら、いきなり襲われちゃいました!
奏音 美都
恋愛
ファミレスのバイト仲間の豪。
ノリがよくて、いい友達だと思ってたんだけど……いきなり、襲われちゃった。
ダメだって思うのに、なんで拒否れないのー!!


【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる