猛毒天使に捕まりました

なかな悠桃

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本日は朝から晴天に恵まれ、そのお陰で史果は朝から屋上に上がりコンビニのおにぎりを食べていた。

「・・・ねむ」

一応先に出勤することをメモ書きに残し基希が眠っている隙に出勤した史果は、朝早かったのと眠りが浅かったせいで思考がスッキリしない状態となっていた。

「あんなこと聞いて流石に平気な顔で挨拶なんて出来るほど器用じゃないよ」

かと言いつつも職場、住む場所が一緒だと嫌でも顔を合わさなきゃいけないため史果は気が重く、晴天とは真逆の心内に大きな溜息を吐いた。

「・・・いや、今の対応だと絶対怪しまれるしやっぱり普通にしようっ!あとは、家だよね。会社の借り上げ賃貸の方が安いけど基希さんの耳に入らないわけないし・・・とりあえず時間のある時は不動産屋巡って情報収集しなくちゃっ!」

目覚め用の栄養ドリンクを一気に流し込み気合を入れるため両頬をパチンッと叩き大きく息を吐いた。


フロアに戻った史果は、先ほどまでいなかった同僚たちがちらほらと出勤しており、女性社員と話しながら基希もフロアに入って来た。

「史果、おはよう」

「おはようございます」

史果はこれでもかという程、笑顔を振りまき基希に挨拶をした。一瞬、彼の眉がピクっと動くもいつもの天使の微笑を史果に向けてきた。だが、史果にはその張り付いた笑顔の奥に潜む怪訝な表情が見え隠れし、思わず背筋がゾッとした。

そうこうしている内に他の女性社員たちが基希に挨拶しにやって来たため、史果はそっと彼らから離れ自席へと向かった。

(はあ。一先ず“普通の接し方”は出来たかな。今は歩生さんのことは気付かれないよう、ん?)

脳内独り言をしていると鞄に入っているスマートフォンから振動音が聞こえディスプレイを確認すると歩生からのメッセージトークの通知が届いていた。

“昨日は色々とすみませんでした。週末なんですが、お時間頂けませんか?出来れば、基希に気付かれないようにお願いしたいんですが”

(いやいやいや、一緒に住んでるのに無理でしょうーっ!!歩生さん無茶言わないでーっ)

頭を抱えたいのをグッと我慢し返事をどうするか考えていると背後から基希が覗き込むように近づいてきた。

「なーにしてんの?そうそう、ちょっと確認したい資料あるからちょっと時間いいかな?」

史果は咄嗟にスマホをスリープにしディスプレイを消した。背後でニコニコしながら話しかけてきた基希に畏怖し表情を引き攣らせながら頷いた。


「昨日の『たらしの大バカ野郎』って何かなー?ずーっと何のことか聞きたかったのにさー朝いないしさー。俺、見当つかないから出来ればきちんと説明して欲しくて」

「ひっ!!」

人気のない資料室、鍵を閉められ史果を壁端に追いやり彼女を閉じ込めるように基希は両手で挟むように壁へ勢いよく手を付いた。

「え?私そんなこと言いましたっけ?昨日はちょっと体調も悪かったし何か口走っただけで意図はないのでお気になさらず」

そう誤魔化すようにヘラヘラと笑いながら基希から離れようとするもなかなかその場から脱出出来ず気まずい空気が流れた。

「史果、お前が何か隠していようとわかるし俺から離れることは絶対許さないからな。それだけ」

「痛っ!!」

基希は史果が着ているボートネックの薄手のニットシャツの首元を引っ張ると鎖骨辺りに思いっきり歯を立て噛みつくように痕を残した。

基希の行動に驚倒した史果は、噛まれた場所を手で押さえながら腰が砕けたように床へと崩れ落ちた。

「じゃあ、早く戻っておいでね。あ、ちゃんと服で隠した方がいいよ♪」

作り笑顔で自分の鎖骨部分に指でトントンと身振りし、鼻で笑いながら資料室を出て行った。史果は心臓がバクバクと鳴り響きながらも悔しさから下唇を噛みしめ恨めしそうに誰もいないドアを睨みつけた。



――――――――――
「おはようございます。今日、友人と買い物へ行くので帰りは遅くなると思います」

「ふーん」

約束の週末。史果はリビングのソファで新聞を読みながら珈琲を啜る素っ気ない態度の基希に声を掛けた。

「友人て総務の子?」

「え、あ、違います。大学の時の知り合いでこの前久しぶりに会ってゆっくり話したいねってなって・・・」

尋問のように基希の眇めるような視線が史果を射貫きまるで蛇に睨まれた蛙のような気分になるが、ここでバレてはいけないため冷静な佇まいを装った。

「あっそ。まっ、気を付けて」

「・・・はい。行って来ます」

関心が全くないのか史果を見ず掌だけひらひらと振る基希に少し憂わしげな気分になりながら史果はマンションを出て、待ち合わせ場所へと向かった。


「こんにちは」

待ち合わせ時間、5分前に到着するも既に待っていた歩生が座るベンチに近づき史果は挨拶をした。

“こんにちは。お久しぶりです・・・と言ってもあの日からメッセージのやり取りしてるから会話の新鮮味はないですね”

「確かに」

歩生は穏やかな笑みを溢し史果を見つめ、そんな表情に戸惑いながら史果もつられ笑顔を向けた。

“今日お呼びしたのは、ちょっとお付き合いして欲しい場所があるんです。私、こういう感じなので友人が少なくて・・・。史果さんは正直嫌かもしれないんですが”

「そ、そんな!そんなことないですよ。私みたいなのがお役に立てれるならいくらでもお付き合いします」

とは、言うもののやはり基希の深い関係の女性。しかも自分は彼女にとっては邪魔な存在であるにも関わらず親しみを持って接する歩生の言動に複雑になりながらも史果は彼女の目的の場所へと向かった。


「美味しい」

最近オープンしたのか、若い女性客で順番がつくほどの人気のクレープ屋に到着し二人はそれぞれ好みのクレープを注文し近くのベンチで食べることにした。

歩生はかなりの甘党らしく人気店のスイーツなどお取り寄せできるものはいいのだが、こういったスイーツはその場でしか食べれないため声が出せない歩生の代わりに史果が頼むことをお願いされていた。

嬉しそうに頬張る歩生を一瞥しながら史果は、悶々とした気持ちを彼女にぶつけることにした。

「あの、何で私を誘ったんですか?私、基希さんと一緒に住んでるんですよ。普通、そんな女と仲良く隣でクレープ食べるなんてちょっとあり得ないっていうか・・・」

史果は視線を逸らしたかったが、口元がわからないと彼女が理解できないと思い歩生の目を見ながらゆっくり話した。歩生は、少し口元が弧を描きスマートフォンで文字を入力した。

“基希は、幼い頃から特定の人物以外あまり自分を出す人じゃないんです。自分を殺すと言うか、それは身内にも。でも、貴女には何故か猫かぶりではなくを見せていた。それが、不思議で瀬尾史果という人間に少し興味が湧いたんです。”

「興味・・・いや、あれは単に私を玩具にしているとしか、っ?※!★」

歩生は、史果が持っていたクレープを落とし口をパクパクしている様子を不思議にしていると何かに視線を感じ振り向いた瞬間、彼女の持っていたクレープが地面に落ち、史果の膝の上には何故か歩生の艶のある髪の毛がドサッと降り落ち固まった。

「よおーっ、お二人さん。俺の知らないところでコソコソしやがって」

意地悪そうな笑顔で腕を組み仁王立ちしている姿はまさに天使ではなく、魔王そのものの基希が視界に入った。史果はこの状況が全く呑み込めずポカンと口を開けたまま隣に座る茶髪のアップバングヘアの歩生とを交互に視線を動かすだけで精一杯だった。

、これはどういうことか説明してくれるよなー」

苦笑いを浮かべ逃げ出そうとする歩生の腕を基希は掴み上げニコニコと笑顔を向けるがかなりの怒りを秘めているのが歩生には痛い程わかり諦め小さく頷いた。
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