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「あの・・・どこ向かってるんですか?」
「いいから♪いいから♪」
車に乗せられてから数分が経ち、碧が行先を何度も問い質すものらりくらりと交わされちゃんと答えてくれる素振りはなかった。そのやり取りに不毛を感じ半ば諦めた碧は、そのまま助手席のシートに背を預けた。
流れる景色を眺めながら今の貴斗との関係を智広にどう説明すればいいのか・・・そのことが碧の脳内を占める。もし今回のことを貴斗に知られまた迷惑に思われ再びあの表情を向けられたら・・・。そう考えるだけで胃がムカムカし碧は不快な感覚に襲われた。
(兎に角、着いたらちゃんと現状の説明しなくちゃ)
そう脳内で決断付けしていると走っていた車は気付けば敷地内の駐車スペースに停車しており智広はエンジンを切った。
「はい、着いたよー」
「ここって・・・」
助手席のドアを開け地面に足を付けた碧は大きな建物の棟が並ぶ情景を眺めた。
「俺の大学ーっ♪実はね、ちょっと会わせたい人物がいるんだあ」
「はあ・・・」
ご機嫌な様子で前を歩く智広と対照的に碧は趣旨不明のせいか憂わしげな表情を露わにしながらも彼の後を付いていく。
「あれ?智広帰ったんじゃ、・・・って、お前とうとうJKにまで手出したんか?」
「んなわけねーだろ。弟のカノジョだよ」
時折、学友に揶揄われ自分のことを紹介されるたびチクリと傷を抉られる気分になり苦しい感情が芽生えた。
(もう貴方の弟さんのカノジョではありません)
そう口にしようとするも声にならず吐き出せない言葉が口の中に広がり苦々しく喉元へと追いやった。
「はい、目的地到着ー♪」
サークルの部室なのか、とある部屋のドア前に到着するや否や智広はノックもしないまま遠慮なくドアノブを捻り開けた。綺麗に整頓された室内には大きな本棚がありそこには歴史の本らしき書物などが並べられていた。他にも目をやると近くの長机にはミニチュアで作られたどこかの日本の城が何点か置かれていた。
「“部外者は入って来ないでください”って何度も言ってるはずですけど」
死角になっていたから気付かなかったが既に先客がいたらしく碧は思わず驚き小さく身体をビクつかせた。碧が声のする方へ視線を向けると眼鏡を掛けた一つ結びの女性が二人掛けのソファから腰を上げ迷惑そうな表情で此方へと近づいてきた。
「いやだなー、部外者だなんて。ある意味関係者でしょ、俺は♡」
智広は足取り軽く声の主の元へ近づき抱き締めようと・・・する数秒前に彼女の掌が美しい顔目掛け押すとそのまま両頬を挟んだ。
「だーかーらー、何度も言ってるけど、こういうの外でされるの好きじゃないって言ってるよねー?何回言ったらその頭の良い頭脳は理解していただけるんですか?」
「ひぃどひぃー、あいひ合ふおてょこに対ひて」
「キモ」
二人のやり取りに碧は目を丸くしながらも微笑ましく思わず笑顔を洩らすとその光景に智広は優しく微笑んだ。
「良かった、やっと笑った。俺と二人だと緊張するだろ?なんせ、貴斗と似た顔だし」
「あ・・・」
その言葉にきっと智広は少なからず自分たちのことに気付いているのが理解できた。
「初めまして、私は高下亜子って言います。碧ちゃんだよね、急にこの馬鹿がごめんね・・・でも会えてよかった。間接的にだったけど智広から貴女のことは聞いてたから。“初めまして”なのに前から知ってる子みたいな感じになっちゃった。馴れ馴れしくなってごめなさいね」
「あ、いいえ」
亜子は気まずそうに下を向く碧にそっと近づきそのまま自身が座っていたソファに誘導し座らせた。亜子は小型のミニ冷蔵庫からペットボトルを取り出すと紙コップに注ぎ碧に手渡す。
「ありがとうございます」
碧は手渡された紙コップに視線を向け一口喉へと流すと冷たい液体がきゅっと喉元から胃へと流れていくのが伝わった。
「正直、貴斗からは何も聞いてないんだ。あの日、貴斗が帰って来たけど不思議だったんだ。外に碧ちゃんがいるはずなのに家にいれないし。直ぐ外へ行ったら碧ちゃんの姿はなくて・・・・」
智広は、近くにあったパイプ椅子に腰かけるも碧たちとは少し距離を取った。先ほどのおちゃらけた表情から一転し何故か思いつめた表情の智広に碧は違和感を覚えるも何も告げずそのまま彼を見据えた。
「俺のせいなんだ・・・貴斗を苛つかせてんのも碧ちゃんを暗い顔にさせてんのも。俺が原因でこんなことになった。まさかこんな状況になるなんてあの頃は思ってもみなかった・・・ほんとごめん」
「え、あ、智広さんのせいじゃあ・・・でも、なんで智広さんが謝るんですか?」
困惑し、隣に座る亜子に視線を向けると智広同様申し訳なさそうな表情の亜子が見受けられた。
「これは、私たちが付き合う頃の話なんだけど・・・」
先程の二人とは全く違う声色に戸惑いながら碧は亜子の声に耳を傾けた。
「いいから♪いいから♪」
車に乗せられてから数分が経ち、碧が行先を何度も問い質すものらりくらりと交わされちゃんと答えてくれる素振りはなかった。そのやり取りに不毛を感じ半ば諦めた碧は、そのまま助手席のシートに背を預けた。
流れる景色を眺めながら今の貴斗との関係を智広にどう説明すればいいのか・・・そのことが碧の脳内を占める。もし今回のことを貴斗に知られまた迷惑に思われ再びあの表情を向けられたら・・・。そう考えるだけで胃がムカムカし碧は不快な感覚に襲われた。
(兎に角、着いたらちゃんと現状の説明しなくちゃ)
そう脳内で決断付けしていると走っていた車は気付けば敷地内の駐車スペースに停車しており智広はエンジンを切った。
「はい、着いたよー」
「ここって・・・」
助手席のドアを開け地面に足を付けた碧は大きな建物の棟が並ぶ情景を眺めた。
「俺の大学ーっ♪実はね、ちょっと会わせたい人物がいるんだあ」
「はあ・・・」
ご機嫌な様子で前を歩く智広と対照的に碧は趣旨不明のせいか憂わしげな表情を露わにしながらも彼の後を付いていく。
「あれ?智広帰ったんじゃ、・・・って、お前とうとうJKにまで手出したんか?」
「んなわけねーだろ。弟のカノジョだよ」
時折、学友に揶揄われ自分のことを紹介されるたびチクリと傷を抉られる気分になり苦しい感情が芽生えた。
(もう貴方の弟さんのカノジョではありません)
そう口にしようとするも声にならず吐き出せない言葉が口の中に広がり苦々しく喉元へと追いやった。
「はい、目的地到着ー♪」
サークルの部室なのか、とある部屋のドア前に到着するや否や智広はノックもしないまま遠慮なくドアノブを捻り開けた。綺麗に整頓された室内には大きな本棚がありそこには歴史の本らしき書物などが並べられていた。他にも目をやると近くの長机にはミニチュアで作られたどこかの日本の城が何点か置かれていた。
「“部外者は入って来ないでください”って何度も言ってるはずですけど」
死角になっていたから気付かなかったが既に先客がいたらしく碧は思わず驚き小さく身体をビクつかせた。碧が声のする方へ視線を向けると眼鏡を掛けた一つ結びの女性が二人掛けのソファから腰を上げ迷惑そうな表情で此方へと近づいてきた。
「いやだなー、部外者だなんて。ある意味関係者でしょ、俺は♡」
智広は足取り軽く声の主の元へ近づき抱き締めようと・・・する数秒前に彼女の掌が美しい顔目掛け押すとそのまま両頬を挟んだ。
「だーかーらー、何度も言ってるけど、こういうの外でされるの好きじゃないって言ってるよねー?何回言ったらその頭の良い頭脳は理解していただけるんですか?」
「ひぃどひぃー、あいひ合ふおてょこに対ひて」
「キモ」
二人のやり取りに碧は目を丸くしながらも微笑ましく思わず笑顔を洩らすとその光景に智広は優しく微笑んだ。
「良かった、やっと笑った。俺と二人だと緊張するだろ?なんせ、貴斗と似た顔だし」
「あ・・・」
その言葉にきっと智広は少なからず自分たちのことに気付いているのが理解できた。
「初めまして、私は高下亜子って言います。碧ちゃんだよね、急にこの馬鹿がごめんね・・・でも会えてよかった。間接的にだったけど智広から貴女のことは聞いてたから。“初めまして”なのに前から知ってる子みたいな感じになっちゃった。馴れ馴れしくなってごめなさいね」
「あ、いいえ」
亜子は気まずそうに下を向く碧にそっと近づきそのまま自身が座っていたソファに誘導し座らせた。亜子は小型のミニ冷蔵庫からペットボトルを取り出すと紙コップに注ぎ碧に手渡す。
「ありがとうございます」
碧は手渡された紙コップに視線を向け一口喉へと流すと冷たい液体がきゅっと喉元から胃へと流れていくのが伝わった。
「正直、貴斗からは何も聞いてないんだ。あの日、貴斗が帰って来たけど不思議だったんだ。外に碧ちゃんがいるはずなのに家にいれないし。直ぐ外へ行ったら碧ちゃんの姿はなくて・・・・」
智広は、近くにあったパイプ椅子に腰かけるも碧たちとは少し距離を取った。先ほどのおちゃらけた表情から一転し何故か思いつめた表情の智広に碧は違和感を覚えるも何も告げずそのまま彼を見据えた。
「俺のせいなんだ・・・貴斗を苛つかせてんのも碧ちゃんを暗い顔にさせてんのも。俺が原因でこんなことになった。まさかこんな状況になるなんてあの頃は思ってもみなかった・・・ほんとごめん」
「え、あ、智広さんのせいじゃあ・・・でも、なんで智広さんが謝るんですか?」
困惑し、隣に座る亜子に視線を向けると智広同様申し訳なさそうな表情の亜子が見受けられた。
「これは、私たちが付き合う頃の話なんだけど・・・」
先程の二人とは全く違う声色に戸惑いながら碧は亜子の声に耳を傾けた。
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