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いつもの帰り道。貴斗の隣を歩く碧は、横目でチラチラと表情を窺っていた。
(最近どうしたんだろ・・・)
アミューズメントパークでのデートから数週間が経ち、特に変わった出来事はなかったはずなのにその日を境に貴斗の様子がおかしい事に碧は薄々感じていた。
(そういえばあの日、いつもならすぐ連絡あるのになかなか来なかったし心配でメッセ送ってすぐ既読は付いたけど返信すごく遅かったんだよなー。そんなこと今までなかったのに)
普段と変わらない表情、仕草の中でも少しずつ感じる違和感。それが何なのか気になっていた碧は、意を決して足を止めると貴斗の制服の袖を摘まんだ。
「ん?どした?」
いきなりの碧の行動に戸惑ったような表情で此方を見据える貴斗に碧は軽く咳ばらいをし言葉を吐露した。
「何かあった?なんとなくだけど貴斗の様子が変ていうか・・・んー、ほんと何となくなんだけど。何もないならいいんだけど、もし何かあるなら相談して欲しいっていうか」
不安げな表情で見上げる碧に一瞬、貴斗は小さく口を開き何か言おうとするもすぐさま唇を引き締め微笑み碧の頭に軽くポンと手を置いた。
「何もないよ。まあ、強いて言えば親に頼まれ事されててそれが面倒くさいなってことくらいかな。ったく、こっちは受験生だってのにさ。ほら、うちブライダル関係に手出して今男性モデル探してるみたいなんだけど決まるまでしばらくやってくれって頼まれてさ」
「そうなんだ」
貴斗は心底煩わしそうな表情を露骨に表しながら碧の頬に手を添えた。
「だからさ・・・もしかしたら会える時間とかこうやって帰る時間なくなるかもしれない」
「おうちの方の頼まれ事じゃあ仕方ないよ。うんっ!私は大丈夫だから気にしないで」
「・・・ごめん」
ふわりと嗅ぎ慣れた香水と共に一瞬別の甘い香りを纏う貴斗の身体に包まれた碧は、この時彼に感じた違和感をのちに目の当たりすることになった。
※※※
貴斗に告げられてから一カ月が過ぎ、宣言通り二人の時間はめっきり減っていた。
(こんな全く会わないとは思わなかったな。最初の頃は電話とかしてたけど最近じゃあメッセの頻度も減りつつあるし・・・ま、仕方ないか)
休み時間、窓側に席がある碧は机に突っ伏しながら開いた窓へと視線を向けていた。今日は朝から天気良く中庭から生徒たちの燥ぐような声が聞こえていた。
「桐野さん、最近元気ないけど大丈夫?」
聞き覚えのある声色に顔を上げると相変わらずの太い黒縁眼鏡と目元までかかる前髪姿の徳田に話し掛けられた。何度見ても慣れないON、OFFの徳田の姿を交互に思い浮かべ頭の中でクスリと笑いながら碧は小さく横に頭を振った。
「ううん、大丈夫だよ」
「ねえ!ねえ!見て見て!!SNSに芽久がイケメンと抱き合ってる画像拡散されてるの見つけたんだけどっ!!これって阿部くんぽくない!?マジでヤバいよっ!!ほら、これなんて絶対キスしてるでしょー!!!!あー、校内のイケメンは更に手の届かないところへと羽ばたいて行ってしまったよー」
徳田と話している最中、興奮しながら大きな声で他クラスの女生徒が碧の教室に入って来るなり友人の女生徒へスマートフォンのディスプレイを見せていた。
「んー、夜だしよくわかんないけど言われてみれば阿部くんっぽいよね」
その声に周りにいた生徒たちも興味深そうに彼らが写っている画像を眺めていた。そこには少し荒めの数枚程度の画像が貼られており、その中に芽久と貴斗らしき人物が身体を寄り添い、時には芽久が彼の頬に手を添え見つめ合うものがいくつかアップされていた。
半信半疑、そういった表情で声の主たちを眺めていた徳田は我に返り、碧に視線を戻した。
「あの阿部がこんなことするとは思えないし他人の空似だよ。本人に聞いても笑って否定すると思うよ」
「うん、そうだね。・・・ごめんね、ちょっとトイレ行ってくる」
「あ、うん」
小声で周囲に聞こえないよう耳元で囁く徳田にニコリと笑顔を向けた碧は、腰を上げ一旦教室から出て行った。
碧は思い出し気づいてしまっていた。貴斗から嗅ぎ慣れない香りがたまに鼻腔を掠めていたのを・・・。それが、ある人物がつけていた香りだったということも・・・。
(最近どうしたんだろ・・・)
アミューズメントパークでのデートから数週間が経ち、特に変わった出来事はなかったはずなのにその日を境に貴斗の様子がおかしい事に碧は薄々感じていた。
(そういえばあの日、いつもならすぐ連絡あるのになかなか来なかったし心配でメッセ送ってすぐ既読は付いたけど返信すごく遅かったんだよなー。そんなこと今までなかったのに)
普段と変わらない表情、仕草の中でも少しずつ感じる違和感。それが何なのか気になっていた碧は、意を決して足を止めると貴斗の制服の袖を摘まんだ。
「ん?どした?」
いきなりの碧の行動に戸惑ったような表情で此方を見据える貴斗に碧は軽く咳ばらいをし言葉を吐露した。
「何かあった?なんとなくだけど貴斗の様子が変ていうか・・・んー、ほんと何となくなんだけど。何もないならいいんだけど、もし何かあるなら相談して欲しいっていうか」
不安げな表情で見上げる碧に一瞬、貴斗は小さく口を開き何か言おうとするもすぐさま唇を引き締め微笑み碧の頭に軽くポンと手を置いた。
「何もないよ。まあ、強いて言えば親に頼まれ事されててそれが面倒くさいなってことくらいかな。ったく、こっちは受験生だってのにさ。ほら、うちブライダル関係に手出して今男性モデル探してるみたいなんだけど決まるまでしばらくやってくれって頼まれてさ」
「そうなんだ」
貴斗は心底煩わしそうな表情を露骨に表しながら碧の頬に手を添えた。
「だからさ・・・もしかしたら会える時間とかこうやって帰る時間なくなるかもしれない」
「おうちの方の頼まれ事じゃあ仕方ないよ。うんっ!私は大丈夫だから気にしないで」
「・・・ごめん」
ふわりと嗅ぎ慣れた香水と共に一瞬別の甘い香りを纏う貴斗の身体に包まれた碧は、この時彼に感じた違和感をのちに目の当たりすることになった。
※※※
貴斗に告げられてから一カ月が過ぎ、宣言通り二人の時間はめっきり減っていた。
(こんな全く会わないとは思わなかったな。最初の頃は電話とかしてたけど最近じゃあメッセの頻度も減りつつあるし・・・ま、仕方ないか)
休み時間、窓側に席がある碧は机に突っ伏しながら開いた窓へと視線を向けていた。今日は朝から天気良く中庭から生徒たちの燥ぐような声が聞こえていた。
「桐野さん、最近元気ないけど大丈夫?」
聞き覚えのある声色に顔を上げると相変わらずの太い黒縁眼鏡と目元までかかる前髪姿の徳田に話し掛けられた。何度見ても慣れないON、OFFの徳田の姿を交互に思い浮かべ頭の中でクスリと笑いながら碧は小さく横に頭を振った。
「ううん、大丈夫だよ」
「ねえ!ねえ!見て見て!!SNSに芽久がイケメンと抱き合ってる画像拡散されてるの見つけたんだけどっ!!これって阿部くんぽくない!?マジでヤバいよっ!!ほら、これなんて絶対キスしてるでしょー!!!!あー、校内のイケメンは更に手の届かないところへと羽ばたいて行ってしまったよー」
徳田と話している最中、興奮しながら大きな声で他クラスの女生徒が碧の教室に入って来るなり友人の女生徒へスマートフォンのディスプレイを見せていた。
「んー、夜だしよくわかんないけど言われてみれば阿部くんっぽいよね」
その声に周りにいた生徒たちも興味深そうに彼らが写っている画像を眺めていた。そこには少し荒めの数枚程度の画像が貼られており、その中に芽久と貴斗らしき人物が身体を寄り添い、時には芽久が彼の頬に手を添え見つめ合うものがいくつかアップされていた。
半信半疑、そういった表情で声の主たちを眺めていた徳田は我に返り、碧に視線を戻した。
「あの阿部がこんなことするとは思えないし他人の空似だよ。本人に聞いても笑って否定すると思うよ」
「うん、そうだね。・・・ごめんね、ちょっとトイレ行ってくる」
「あ、うん」
小声で周囲に聞こえないよう耳元で囁く徳田にニコリと笑顔を向けた碧は、腰を上げ一旦教室から出て行った。
碧は思い出し気づいてしまっていた。貴斗から嗅ぎ慣れない香りがたまに鼻腔を掠めていたのを・・・。それが、ある人物がつけていた香りだったということも・・・。
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