甘い嘘と罪悪な恋

なかな悠桃

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5 追憶

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(あ、そういえばメッセ送ってないや。でもまぁ、もう着くし・・・いっか)

澪は返信し忘れたことに気づいたが返さず、階段を上り息を整えながら昇多が待つ教室へと一歩一歩近づく。



『・・・だ・・・な・・・の』

『で・・・した・・・から』


(・・・ん?)

階段を上りきり曲がり角になる廊下へ足を一歩踏み出すと教室近くの廊下から男女の姿が視界に入り、澪は咄嗟に隠れるように後ろに引き戻った。よりにもよって・・・という思いの中、何気なしにちらっと壁越しから気づかれないよう覗いてみた。


(あれって、昇多?しかも女バレの・・・)

背格好、声のトーンから昇多と察し澪の心臓は先程と違った鼓動で押し潰されそうになりながら二人の会話に聞き耳を立てる。だが、その場から声を聞くには少し距離があるため肝心の内容は聞き取りにくく少し気を揉みながら息を潜める。

『私の・・・が・・・・さい』

『別に・・・。・・・・・・だし・・・・・気にすんな』

『貴島くん・・・時間・・・そろそろ・・・見・・・』

上手く聞き取れないもどかしさの中、彼女は昇多の頬付近に手を伸ばしているのがわかった。普段の昇多なら拒絶する態度を見せるであろうに何故か受け入れているのが理解出来なかった。その次の瞬間、昇多の腕が彼女を優しく包み込んでいるのが暗がりの中、澪の瞳に勢いよく映り込んできた。

(え・・・、どういうこと?なんで昇多が・・・)

パニックになり声が出そうになるのを必死に手で押さえ行く末を不安な表情で見つめる。こちらからは女生徒が正面になっているため昇多の表情などは見れないが、顔を上げた彼女の表情が暗がりでも薄っすら笑みを浮かべていることは何故だか鮮明に理解できた。彼女の顔が昇多の方へと近づいたその瞬間、澪の視界は闇に包まれ口元を覆われた。

(えっ?!)

背後から誰かの手によって目と口を塞がれ藻掻いていると、耳元で聞き覚えのある声に抵抗を止めた。

「ごめん、気になって」

そっと目を覆った手元が離れ、澪は首を横に動かすと、気まずそうな表情を浮かべる倫の姿が目に入る。

「このまま黙って聞いて。実は澪に内緒にしてたんだけど・・・昇多あのと付き合ってると思う。もちろん本人から聞いたわけじゃないけどさ、何度か場面遭遇した。俺と違ってあいつが遊びであんなことしないのは・・・澪もわかるよな?でも、澪の想いも知ってたし言えなかった・・・ほんとごめん。もしかしたら昇多、彼女のこと紹介しようとして澪のこと待ってたのかもしれない」

思考がついていかない澪は、倫の話し声は全く入ってこなかった。ただ、わかるのは少し離れた場所で男女が抱き合っている姿だけ・・・。

(はは・・・笑える)

澪は口元を歪ませ倫に視線を向けぬまま、上った階段を今度は下りるため足を踏み出した。その傷心した姿を目の当たりにした倫は思わず澪の腕を掴んだ。

「ごめん、今は倫と話せそうにないや」

澪は倫の腕を振り解き階段を駆け下りて行った。





☆☆☆
「澪・・・」

薄暗くなった空からチラチラと雪が降り落ちていた。寒さからなのか別の理由からなのか校舎裏に立ち尽くす澪の鼻や頬、目元は赤く染まっていた。

「風邪ひくよ、家まで送るからもう帰ろ」

「・・・よくさー“初恋は実らない”って言うけどまさにその通りになっちゃった」

倫は自身が巻いていたマフラーを外し澪の首元にそっと巻き俯く澪を倫は抱き締めた。

「へへ、吃驚したね、まさか昇多のラブシーン見ることになるなんて・・・そりゃあ、あんな可愛い子ならあの堅物の昇多もコロッといっても仕方ないか。ってか倫ひどいなー、知ってたんなら言ってよね」

「・・・・・・」

澪は軽く笑いながら笑顔を作るが、倫は複雑な表情で無言のまま少し力を籠め抱き締めた。倫の心音と温もりが澪の身体中に染み渡り彼の胸元に顔を埋める。

「倫の言う通りにさ、もっと早く気持ち伝えれば良かったのかな・・・でも昇多、私にそう言った感情なかったろうから結局は振られるのか・・・はは」

「澪・・・今、俺しかいないから我慢しなくていいよ。声、出そうなら俺のコート噛んでいいから」

力なく自嘲すると倫に頭をポンポンと軽く手を添えられた。倫の優しい口調の言葉に一気に涕が溢れ出し声が漏れないように澪は倫の言う通り彼のコートを力いっぱい噛みしめた。震え泣く澪を抱き締めながら倫は自身の口から吐き出る白い息を眺め、そしてある言葉を澪に投げかける。







「俺でいいなら慰めてやろうか?」
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