上 下
1 / 10

荒地にたった1人

しおりを挟む
時々風の音が聞こえる。それ以外の音は聞こえない。
少しずつと意識がハッキリしてくる。眠っていたのかな? 眩しいけど目を開けてみよう。
目の前に赤茶けた荒地がどこまでも広がっている。周りを見るが誰もいない。

荒地にポツンと1人で座っているようだ。
ここにいるのは俺だけのようだな。

見回しても草も木も生えていない。まさにザ荒地なのだ。
川や池らしいものも見当たらない。空気は乾燥している。水気がなければ木や草は育たないはずだ。
見たところ、木や草どころかサボテンすら生えていない。

とにかく生き物の気配はしない。
誰かいませんか……生き物いませんか……

生き物は俺だけなのか……嫌だな。
木や草も生えていないぐらいだから、生き物がいる訳ないか。

ずっと遠くに、僅かに緑が見えている。森がある!
森なら水があるはずだ。しかしここから森まではかなり距離があるな。

とにかく人間、水がないと生きていけない。食い物もね!
水なし食い物なし……このままでは……死ぬな……
一先ず落ち着いて、冷静に考えた方がいいな。

生きるためには、頑張って森まで歩いて行くしかない! 
森まで行けば、食べられる木の実や野草なんかがありそうだ。
少なくとも、木の実で水分補給はできるはず。

食べられる木の実や野草があるのなら、それに集まるウサギや鳥なんかを捕まえれば、肉も食べられる。

そうなると生き残るためには、森で暮らせということが結論になるのかな?

それにしても……道具も武器もないのに、サバイバル生活とかできるのだろうか? 
石斧とか作って、縄を編んでとか無理だぞ! それって原始人だよな!

俺はこの先、森で原始人みたいに生きていくことになるのか! 
サバイバルできたとしても、その生活はどうなのだ!

辛そうな生活だな……でも慣れれば楽しいのかな? 
いや絶対楽しくないと思う。強く思う!

今のこの状況はなんだろう? 何かの罰ゲームなのか? 
俺、何か悪いことしたかな?
自問自答を続けてみたけど、いい考えは浮かばない。堂々巡りと言うやつだ。

考えを整理しよう……
ここにいて死ぬか? 森でサバイバル生活をするか? 
この2択だな……どちらも嫌だけど……

そう思いながら森をじっと見る。あそこに行かないとダメなのか……
もう一度、森をじっと見る。ため息が出てくる。

あの森を見る度に『森は危険! 危険! 行けば死ぬ! 死ぬ!』という言葉が頭の中で警鐘を鳴らす。
たしかに森からは禍々しく危険オーラが出ているのだ。
こういう時は、森に行くという選択肢は捨てた方がいいのだが……

じゃあ……どうする!

森は危険だし、ここに留まっても水も食べる物もない。
それがなければ生きられない。打開策は浮かばない。
そうなると結論はシンプルだ。死亡確定だ。出てもらいたくない結論だけど……

結論が出たからには、これ以上生き残る方法について、あれこれ考えても意味がない。
考える方向性を変えよう。

そもそも俺は、なぜこんな荒地に座っているのだろう? 

まずはそこだな。そこに生き残れるチャンスがあるかもしれない。考えろ! 考えろ!
何事も視点を変えて思考することは大事だ。

何にも思いつかない……ダメか……
では、別の視点だ。

どうやってここまで移動して来たのだろう? 

そもそも自分が移動している記憶がないというのはおかしい。
それにこんな荒地に来る目的なんか、まったく思いつかない。ある訳ない!
そもそも水も食料も持たないで、こんなところに来るか……という話だよ!

いろいろ疑問が浮かぶ。

自身の手とか足とかを見ると人間のものだし、服も着ていて、靴も履いている。
やっぱり人間だよな……

しかしこの状況においては、残念な事実なのだよ。
人間じゃなくて鳥とかだったら、別の場所に飛んで行けるのに……残念だ。

いろいろ考えてみると、自分の意思でここに歩いて来たという可能性は低い。
そうなると、この場所に瞬間移動、たとえば転生したという可能性が高いのではないだろうか。

もしも俺が転生者なら、希望の光が見えてくるよな!
転生者特典みたいなものをもらっていないか調べてみる必要がある。
たとえば魔法が使えるとか、特殊なスキルを持っているとかだよ。

もしもそういうのが使えるなら、この厳しい環境でも生きていける可能性がでてくるぞ。
何か希望が湧いてきた。

『火』、『氷』、『水』、『風』、『雷』、『飛行』……考えつく限りの言葉を唱えてみた。結果は反応なしだ。
言葉の代わりに頭の中で強く念じる方式も試してみたが反応なし。
唱える回数に問題があるのかと、いろんな組合せパターンを試してみたが全部反応なし。

少しずつ希望が絶望に変わっていく。

全くダメだ…… 
俺は、まるっきり普通の人間じゃないか! 
ダメだ……生きていけない……という結論になっていく。

死ぬなら餓死か……骨と皮になって……
ここにいる理由すら分からないのに!

転生しました! すぐに死にました! アホでしょ!
こんなの間抜けな死に方は絶対嫌だぞ。

死に方もいろいろあるでしょ!
そういえば、飢えて死ぬのが一番苦しいと、何かで読んだことがある。

心の中を恐怖と怒りがぐるぐる駆け巡る。
もうダメだ。

ここは落ち着け! 深呼吸するか。
よし! 死ぬことは受け入れた! しかし死ぬにしてもだ……
せめて転生した理由ぐらいは知ってから死にたい。

必死に記憶を思い起こしていくと、美しい女神様と話をしている場面が浮かんでくる。

「私と仲のいい神がいてね。あなたのことをすごく褒めていたのよ。前世でたくさんの民を助けてくれたようですね。そなたが望む転生先があるなら希望を叶えましょう」

そうだ! そうなのだ!
そんな話を、女神様が仰っていた! 思い出してきたぞ!

その言葉を女神様から聞いた俺は、それならば、のんびりと幸せに暮らせる転生先をお願いしますと、答えたと記憶がある。絶対にそう伝えたはずだ!

なのに……
この状況はどういうことなの?

目の前に広がる荒地と、のんびりと幸せには、どこがどうすれば結びつくのだろう?
転生にも当たりと外れがあるということか!
俺は騙されたのか! 転生詐欺か!

たくさんの民を助けた理由は思い出せないけど、人助けは良いことだよな……
何でこうなった!

座るのに丁度いい石に腰掛けたまま途方に暮れる。
ため息しか出てこない。悔しい! 怒りも湧いてくる!

「女神様! 聞こえているなら答えて下さい! いくらなんでもこれは酷いです! 転生者を誰かと間違えていませんか? 絶対間違えていますよ! このままでは俺は死んでしまいます!」と、大声で空に向かって叫ぶ。

何の反応もなし。荒地には風の音しかしない。女神様からも返事なし。

水も食料もない、そのうち文句を言う元気もなくなるだろう。
元気がなくなる前に、10回は叫んでおいてやる!

女神様の返事はない。もう馬鹿らしくなったので叫ぶのを止める。
声が枯れてきた。喉も渇くし、腹も減る。

もう止めた。この世界で俺がやったことは、女神様に文句をいったことだけか!
アホらしすぎる! もうどうでもいい。
でも死んだら女神様のところに戻って苦情申し立てだ!

死ぬことを受け入れ覚悟を決めたら、なんだか眠くなってきた。もう寝よ。
このまま目覚めないでもいい。眠っている間に死ぬなら、それでいい。

その時、腰掛けていた石が動き始める。
なんで石が動く? 
石が動こうが何が起ころうが、もうどうでもいいや!

これ以上、状況が悪くなることはないはずだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜

平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。 だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。 流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!? 魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。 そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…? 完結済全6話

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

婚約破棄は結構ですけど

久保 倫
ファンタジー
「ロザリンド・メイア、お前との婚約を破棄する!」 私、ロザリンド・メイアは、クルス王太子に婚約破棄を宣告されました。 「商人の娘など、元々余の妃に相応しくないのだ!」 あーそうですね。 私だって王太子と婚約なんてしたくありませんわ。 本当は、お父様のように商売がしたいのです。 ですから婚約破棄は望むところですが、何故に婚約破棄できるのでしょう。 王太子から婚約破棄すれば、銀貨3万枚の支払いが発生します。 そんなお金、無いはずなのに。  

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

怖いからと婚約破棄されました。後悔してももう遅い!

秋鷺 照
ファンタジー
ローゼは第3王子フレッドの幼馴染で婚約者。しかし、「怖いから」という理由で婚約破棄されてしまう。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

侯爵令嬢として婚約破棄を言い渡されたけど、実は私、他国の第2皇女ですよ!

みこと
恋愛
「オリヴィア!貴様はエマ・オルソン子爵令嬢に悪質な虐めをしていたな。そのような者は俺様の妃として相応しくない。よって貴様との婚約の破棄をここに宣言する!!」 王立貴族学園の創立記念パーティーの最中、壇上から声高らかに宣言したのは、エリアス・セデール。ここ、セデール王国の王太子殿下。 王太子の婚約者である私はカールソン侯爵家の長女である。今のところ はあ、これからどうなることやら。 ゆるゆる設定ですどうかご容赦くださいm(_ _)m

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

処理中です...