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第1章
第3話・十二聖騎士ロベルト
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ラルフォンの弟子ロベルトは、そのずば抜けた剣技・体術・知力・呪文詠唱の才を買われて異例の早さで十二聖騎士に任命された。ジャンヌより一歳年下の十四歳であるが、少年らしさというよりも壮年のような老獪ささえ感じる男であった。
先日の戦いでは、城内の警護を切り上げ、城下町へオークたちの討伐に力を尽くした。討伐したオークは百体を越えていた。ロベルトの剣技には情け容赦はなかった。敵ならば降伏した相手でも斬り捨てた、関節をいとも簡単に粉砕した、城内・城下町では禁止されている火炎呪文で焼き払った。敵を殲滅するためには、手段を選ばなかった。むしろ、その手段を戦闘時に確認しているようでもあった。
ロベルトはジャンヌのことを心底嫌っていた。優柔不断でひ弱、自分よりも一つ年上で恵まれた家系にあるにも関わらず、戦いを嫌う。いつもジャンヌではなく自分がラルフォンの息子であればよかったのにと妄想ばかりしていた。
アルガンがジャンヌによってアンデッドとして蘇生されたころ、ちょうどラルフォンへの報告にやってきていた。
「師匠!ラルフォン師匠!オークの処理について報告です」
まるで自分の家のように、ズカズカとラルフォンの家に入っていく。離れで声がした。嫌なニオイがする。アンデッドだ!
「ロベルトか!」
「師匠、どうしたんです?」
「オヤジがアンデッドになった」
「蘇生の儀を?なぜ」
ロベルトはジャンヌの存在に気づいていたが目もあわせようとしない。ジャンヌはアルガンをアンデッドにしてしまったことで、パニックになっている。
「やっちまったんだよ、ジャンヌが」
「そ、そんな馬鹿な」
ロベルトは信じられなかった。蘇生の儀は自分はもちろん、師匠ラルフォンでも詠唱不可の呪文だ。それを、あの弱虫ジャンヌが。なぜ!
「細かい話はあとだ。アンデットとはいえ元俺のオヤジだ。なまじ強いから困る」
「お任せください。僕が殲滅してみせましょう」
アルガンが両手を掲げ襲いかかる。筋骨隆々のアルガンは武器が無くても強かった。アンデッドになって生前のスキルが引き継がれているかは不明だったが。
ロベルトは双剣の使い手。右手には【憤怒の剣】左手には【背信のダガー】を装備していた。どちらも、先代十二聖騎士から引き継いだ秘匿武器だった。左手のダガーでリズムを刻む。踏み込むタイミングを正確に測っている。独特の構えから右足がすっと前に出た。
「やめろ!!!!」
ジャンヌはロベルトに飛び掛かった。迂闊だった、ジャンヌが襲いかかってくるとは。いつもなら、襲いかかられたとしても、下半身を動かすことなく上体の揺らぎだけで、いなせる。
だが、違った。こいつは今まで知っているジャンヌじゃない。タックルのようにして腰を掴まれた。その手が外せない。
「じいちゃんを殺すな!!」
ジャンヌの目から大粒の涙がこぼれ落ちる。
「ジャンヌ!ロベルトを離せ!」
「こ、こいつ。力が。強すぎる」
ロベルトはジャンヌの腕をてこの原理で、外した。その隙を狙って、アルガンがロベルトに襲いかかる。
「グウッゥウウわぁッつ!」
アルガンは人語を話せないのか、正気を保てていない。生きていた時よりも身体が一回り大きい。
「ロベルト、ジャンヌ下がれ」
ラルフォンは呪文を詠唱した。
「ルルド・ルルガ。永続する精霊よ、その御霊、我に。ルルド・ルルーシュ」ラルフォンの左手から【高回復の誉】が放たれる。アルガンは全身で【高回復の誉】を受けた。アンデッドには回復呪文が有効なのだ。
アルガンの身体がみるみる崩れていく。右腕が枯れ葉のように落ちた。左腕も朽ち果てた柱のように、今にも抜け落ちそうだった。
「じいちゃん!!!」
「ジャンヌ!アルガンさんはお前がアンデッドにしたんだ!お前がとどめをさせ!」
ロベルトはジャンヌの心を撃ち抜くような言葉を放った。
「できないなら、僕がやる!いいなジャンヌ!いいですよね!師匠!!!」
ラルフォンはロベルトの人間らしさ、情のなさ、にかねてから不安を感じていた。なぜこいつは私を師と仰ぐのか、なぜこいつはここまで非情なのか。
アンデッドになったアルガンが落ちた右腕を、朽ちかけの左手で拾う。次の瞬間、その右腕をジャンヌめがけて投げつけた。【無情のナイフ】が青く光る。今度の青は、悲しげな青だった。
【無情のナイフ】はジャンヌの右手を意思をもって動かすように、右から左、そのまま左から右へと折り返した。アルガンの右腕は空中でバラバラになった。
ロベルトが左手に構えていた【背信のダガー】をアルガンに投げつけた。そのダガーと同じ速さで、ロベルト自身がアルガンの目の前まで一気に踏み込んだ。
ダガーがアルガンの喉元に刺さる。同時にロベルトは右手に構えていた【憤怒の剣】でアルガンを一刀両断した。
アルガンは真っ二つになった。同時にロベルトは【回復の雫】を詠唱した。詠唱時間ならラルフォンより速い。【回復の雫】は【高回復の誉】には劣るが、真っ二つになったアルガンは跡形もなく消え去った。
「じいちゃーん!!!」
ジャンヌは泣き崩れた。ロベルトはジャンヌの胸ぐらを掴んだ。ジャンヌはその手を払った。
「こいつ、今までにない反抗的な目。師匠の血を引くだけある。しかし、なぜここまでこいつは強くなれたんだ」
ロベルトはジャンヌの右手親指を見た。見慣れない指輪、瞬時にジャンヌが強くなった理由が頭のなかをかけめぐった。【エクスペリエンスの指輪】か。ロベルトは全てを理解した。ラルフォンはある事実を確認していた。
ロベルトがアルガンを倒したとき、ジャンヌの指輪が経験値を吸収していなかったということだ。指輪は経験値を吸収するとき、わずかだが呼吸するかのような動きをする。息を切らしたときのようなイメージだ。
その動きがなかった。経験値を吸収する条件は、味方が敵を倒したときだけだ。敵が自分の味方を倒したり、見知らぬものを倒してもそれは経験値とならず、指輪に吸収されない。
アンデットとなったアルガンは明確に敵だった。そして味方であるロベルトが敵であるアルガンを倒した。なのに、ジャンヌの指輪が経験値を吸収していない。
アンデッドとはいえ、アルガンを倒したなら経験値は相当入手できるはず。
ラルフォンとロベルトは十二聖騎士だ。戦力を分散させるためにも、同じフィールドで戦うことはない。今日のように戦闘をともにすることは彼が十二聖騎士になる前だけだった。今日の戦闘、少なくとも自分には経験値が入るはずと。
ジャンヌは戦闘には参加していない。アルガンとの戦闘を拒否していたからだ。しかしラルフォン自身は戦闘に参加していた。アルガンに【高回復の誉】を放っていたからだ。
ラルフォンはひとつの仮説が事実としてようやく確信できた。ロベルトは我々の味方ではない。こいつは、敵だ。
「ジャンヌ、ロベルト。ここを焼き払う。父アルガンは【高回復の誉】で倒さなければならかった。ロベルトの【回復の雫】では、父の魂が浄化されたとは思えない。焼き払ったあと、浄化の儀を行い、父を弔う」
ロベルトの口元が心なしか緩んだのをジャンヌは見逃さなかった。ジャンヌとロベルト、この二人が生涯をかけた因縁の敵となるだろう、ラルフォンは不吉な未来を予感していた。
先日の戦いでは、城内の警護を切り上げ、城下町へオークたちの討伐に力を尽くした。討伐したオークは百体を越えていた。ロベルトの剣技には情け容赦はなかった。敵ならば降伏した相手でも斬り捨てた、関節をいとも簡単に粉砕した、城内・城下町では禁止されている火炎呪文で焼き払った。敵を殲滅するためには、手段を選ばなかった。むしろ、その手段を戦闘時に確認しているようでもあった。
ロベルトはジャンヌのことを心底嫌っていた。優柔不断でひ弱、自分よりも一つ年上で恵まれた家系にあるにも関わらず、戦いを嫌う。いつもジャンヌではなく自分がラルフォンの息子であればよかったのにと妄想ばかりしていた。
アルガンがジャンヌによってアンデッドとして蘇生されたころ、ちょうどラルフォンへの報告にやってきていた。
「師匠!ラルフォン師匠!オークの処理について報告です」
まるで自分の家のように、ズカズカとラルフォンの家に入っていく。離れで声がした。嫌なニオイがする。アンデッドだ!
「ロベルトか!」
「師匠、どうしたんです?」
「オヤジがアンデッドになった」
「蘇生の儀を?なぜ」
ロベルトはジャンヌの存在に気づいていたが目もあわせようとしない。ジャンヌはアルガンをアンデッドにしてしまったことで、パニックになっている。
「やっちまったんだよ、ジャンヌが」
「そ、そんな馬鹿な」
ロベルトは信じられなかった。蘇生の儀は自分はもちろん、師匠ラルフォンでも詠唱不可の呪文だ。それを、あの弱虫ジャンヌが。なぜ!
「細かい話はあとだ。アンデットとはいえ元俺のオヤジだ。なまじ強いから困る」
「お任せください。僕が殲滅してみせましょう」
アルガンが両手を掲げ襲いかかる。筋骨隆々のアルガンは武器が無くても強かった。アンデッドになって生前のスキルが引き継がれているかは不明だったが。
ロベルトは双剣の使い手。右手には【憤怒の剣】左手には【背信のダガー】を装備していた。どちらも、先代十二聖騎士から引き継いだ秘匿武器だった。左手のダガーでリズムを刻む。踏み込むタイミングを正確に測っている。独特の構えから右足がすっと前に出た。
「やめろ!!!!」
ジャンヌはロベルトに飛び掛かった。迂闊だった、ジャンヌが襲いかかってくるとは。いつもなら、襲いかかられたとしても、下半身を動かすことなく上体の揺らぎだけで、いなせる。
だが、違った。こいつは今まで知っているジャンヌじゃない。タックルのようにして腰を掴まれた。その手が外せない。
「じいちゃんを殺すな!!」
ジャンヌの目から大粒の涙がこぼれ落ちる。
「ジャンヌ!ロベルトを離せ!」
「こ、こいつ。力が。強すぎる」
ロベルトはジャンヌの腕をてこの原理で、外した。その隙を狙って、アルガンがロベルトに襲いかかる。
「グウッゥウウわぁッつ!」
アルガンは人語を話せないのか、正気を保てていない。生きていた時よりも身体が一回り大きい。
「ロベルト、ジャンヌ下がれ」
ラルフォンは呪文を詠唱した。
「ルルド・ルルガ。永続する精霊よ、その御霊、我に。ルルド・ルルーシュ」ラルフォンの左手から【高回復の誉】が放たれる。アルガンは全身で【高回復の誉】を受けた。アンデッドには回復呪文が有効なのだ。
アルガンの身体がみるみる崩れていく。右腕が枯れ葉のように落ちた。左腕も朽ち果てた柱のように、今にも抜け落ちそうだった。
「じいちゃん!!!」
「ジャンヌ!アルガンさんはお前がアンデッドにしたんだ!お前がとどめをさせ!」
ロベルトはジャンヌの心を撃ち抜くような言葉を放った。
「できないなら、僕がやる!いいなジャンヌ!いいですよね!師匠!!!」
ラルフォンはロベルトの人間らしさ、情のなさ、にかねてから不安を感じていた。なぜこいつは私を師と仰ぐのか、なぜこいつはここまで非情なのか。
アンデッドになったアルガンが落ちた右腕を、朽ちかけの左手で拾う。次の瞬間、その右腕をジャンヌめがけて投げつけた。【無情のナイフ】が青く光る。今度の青は、悲しげな青だった。
【無情のナイフ】はジャンヌの右手を意思をもって動かすように、右から左、そのまま左から右へと折り返した。アルガンの右腕は空中でバラバラになった。
ロベルトが左手に構えていた【背信のダガー】をアルガンに投げつけた。そのダガーと同じ速さで、ロベルト自身がアルガンの目の前まで一気に踏み込んだ。
ダガーがアルガンの喉元に刺さる。同時にロベルトは右手に構えていた【憤怒の剣】でアルガンを一刀両断した。
アルガンは真っ二つになった。同時にロベルトは【回復の雫】を詠唱した。詠唱時間ならラルフォンより速い。【回復の雫】は【高回復の誉】には劣るが、真っ二つになったアルガンは跡形もなく消え去った。
「じいちゃーん!!!」
ジャンヌは泣き崩れた。ロベルトはジャンヌの胸ぐらを掴んだ。ジャンヌはその手を払った。
「こいつ、今までにない反抗的な目。師匠の血を引くだけある。しかし、なぜここまでこいつは強くなれたんだ」
ロベルトはジャンヌの右手親指を見た。見慣れない指輪、瞬時にジャンヌが強くなった理由が頭のなかをかけめぐった。【エクスペリエンスの指輪】か。ロベルトは全てを理解した。ラルフォンはある事実を確認していた。
ロベルトがアルガンを倒したとき、ジャンヌの指輪が経験値を吸収していなかったということだ。指輪は経験値を吸収するとき、わずかだが呼吸するかのような動きをする。息を切らしたときのようなイメージだ。
その動きがなかった。経験値を吸収する条件は、味方が敵を倒したときだけだ。敵が自分の味方を倒したり、見知らぬものを倒してもそれは経験値とならず、指輪に吸収されない。
アンデットとなったアルガンは明確に敵だった。そして味方であるロベルトが敵であるアルガンを倒した。なのに、ジャンヌの指輪が経験値を吸収していない。
アンデッドとはいえ、アルガンを倒したなら経験値は相当入手できるはず。
ラルフォンとロベルトは十二聖騎士だ。戦力を分散させるためにも、同じフィールドで戦うことはない。今日のように戦闘をともにすることは彼が十二聖騎士になる前だけだった。今日の戦闘、少なくとも自分には経験値が入るはずと。
ジャンヌは戦闘には参加していない。アルガンとの戦闘を拒否していたからだ。しかしラルフォン自身は戦闘に参加していた。アルガンに【高回復の誉】を放っていたからだ。
ラルフォンはひとつの仮説が事実としてようやく確信できた。ロベルトは我々の味方ではない。こいつは、敵だ。
「ジャンヌ、ロベルト。ここを焼き払う。父アルガンは【高回復の誉】で倒さなければならかった。ロベルトの【回復の雫】では、父の魂が浄化されたとは思えない。焼き払ったあと、浄化の儀を行い、父を弔う」
ロベルトの口元が心なしか緩んだのをジャンヌは見逃さなかった。ジャンヌとロベルト、この二人が生涯をかけた因縁の敵となるだろう、ラルフォンは不吉な未来を予感していた。
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