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第1章

第2話・蘇生の儀【エイム・リバウム】の功罪

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 明け方、ジャンヌの父ラルフォンが帰ってきた。床屋から帰ってきたのかというくらい、こざっぱりとしており、無傷そのものだった。城下町はオークたちが放った火により、街は大きくダメージを受けていた。

 十二聖騎士は父と弟子以外、国境付近での戦闘から抜け出せなかった。抜け出せるどころの話でもなく、城内と同様に激しい戦闘が繰り広げられていた。城内に十二騎士が全員がいれば、ここまで酷い状況にはならなかっただろう。

 ウッドバルト王国は南側は海に面しているが、東に巨人族が支配するサグ・ヴェーヌ共和国との戦争が長く続いている。西には大賢者リム・ウェルが治めるリム王国、北にはかつて勇者だったバルス・テイトが治めるオーギュスター公国がある。

 リム王国とオーギュスター公国とは不戦の契りを交わし、平和条約も結ばれている。だが、最近は国境付近にアンデッドたちがあらわれ、街が襲われる事案が発生していた。密偵によると、リム王国がアンデッド達に呪いの儀を交わし、国境付近を襲わせているという報告が入っていた。十二騎士のうち十騎士達がこの国境付近のアンデッド案件の事実確認および、鎮圧に向かっていたのであった。

「おい、ジャンヌ。じいちゃんは、死んじまったって本当か?」
「うん、隣のサムスさん達を助けにいったら、オークたちにやられて」
「そうか、じいちゃんの亡骸はどこだ?」
「頭だけが残って、身体はオークたちに…」

 ラルフォンは怒りで我を忘れそうになっていた。冷静さを保てたのは、唯一ジャンヌが生きていたからかもしれない・
「お前は、どうしたんだ?」
「僕は、オーク三体を倒した」
「どこで?」
「じいちゃんの書斎で」
 
 ラルフォンは離れにある父アルガンの書斎編と向かった。そこには、無残に切り刻まれたオーク三体の屍《しかばね》があった。全てアゴから喉を一突きしている。首と胴体が切断されており、アルガンのハンマーではこのような傷跡にはならない。
「ジャンヌ、これはお前がやったのか?」
「そうみたいなんだけど、よく覚えてなくて」

 ラルフォンはジャンヌがベルト通しに携えていたナイフカバーに目をやった。ナイフの柄は黒光鉱で装飾されている。
「これは、【無情のナイフ】か。じいちゃんからもらったのか?」
「うん、護身用にって。机の下に隠れてたら、オークたちが入ってきて。そしたら、ナイフが青く光って。それで、ぼく」
 
 ラルフォンはジャンヌを抱きしめた。臆病者のジャンヌ、まだ十五になったばかりの少年には凄惨《せいさん》な事件だった。祖父が殺され、自分も敵とはいえ、オークを三体も仕留めたのだから。ラルフォンはジャンヌを抱きしめた時に違和感を感じていた。ジャンヌの内側から溢れる波動、それは強さのオーラだった。
「このオーラ。ジャンヌのレベルが異様に高い。俺がかけた、秘術【駕籠《かご》の鳥】を無効にしちまうほどなのか」

 ラルフォンはジャンヌと父アルガンにこの秘術をかけていた。レベルが50を越えるとこの秘術は無効化される。アルガンはレベル60。この秘術はジャンヌのためにかけたようなものだった。レベル60のアルガンがオークごときにやられたのは、やつらは何か補助魔法をかけらえていたのだろう。一時的にステータスが向上する、魔法だ。
 ということは、レベル60のアルガンでも敵わなかったオーク三体を倒したってことは軽く見てもジャンヌのレベルは70以上。しかも戦闘経験はゼロ。学校でもいじめられてる程だ。そしてあの【無情のナイフ】。能力を最大に発揮するには、ナイフに認められるレベルや技量が必要だ。一体ジャンヌはどうなってしまった。

「じいちゃんから、ナイフ以外に預かったものがあるのか?」
 ラルフォンはジャンヌに目をやった。
「ナイフ以外には、そうこれ。【エクスペリエンスの指輪】ってのをもらった」
「【エクスペリエンスの指輪】か!そいつは驚きだ。そんなものがウチにあったのか」

 ラルフォンはこの指輪の存在は知っていた。だが秘匿財宝《ひとくざいほう》のひとつとして都市伝説のように言われてきた指輪だ。それが、我が子の指に嵌められている。

「お前は、今おそらくかなりレベルが高くなっている。この戦闘で相当量の経験値を手に入れたと思われるな。だが、レベルの高さと戦闘技量は別物。大きな器を手に入れただけだ。使い方を知らぬものは、その器を活かすことはできん」
 
 ラルフォンはジャンヌの右手親指をじっと見た。それは今なお、鈍く光っていた。
「そういえばじいちゃんは、蘇生しないの?まだ四十八時間経ってないから、リブイング様にお願いすればなんとかなるんじゃないの?」
「残念だが、蘇生はやめておこう。じいちゃんも望んではいないだろう。もう十分戦った男だ。静かに眠らせてやろう、ジャンヌ」

 ジャンヌは父の思いもよらない言葉に驚いた。そして、大粒の涙がこぼれ落ちる。涙は止まらない。
「いやだ!いやだ!じいちゃんを生き返らせる!」
ジャンヌはアルガンの頭部が入った棺桶に向かって叫んだ。
「よせ!生き返らせてはいけない」

 ウッドバルト王国には、リム王国が操術しているアンデッドたちの不死の霞が充満していた。高僧リブイングも近年蘇生術の際は、結界を二重に貼り、北側に塩を五芒《ごぼう》の配置で盛り、不死の呪いが近づけないように細心の注意を払っていた。

 ジャンヌは祖父アルガンを生き返らせたいその一途な想いで、無意識に蘇生の術【エイム・リバウム】を詠唱していた。
「ヌ・ムラモ・ベルト・グ・スレイド。アルガンの血と肉、そのすべて、その骨、そのすべて、皮膚と心、そのすべて」
「ダメだ!!!」
 ラルフォンの叫びが虚しく響く。そして、棺桶《かんおけ》が開く。棺桶のフタは10キロ以上ある。あの体制では中から開けられるものではない。だが、棺桶はゆっくりと開き、持ち上がった。そこからあらわれたのは、アルガンだった。頭部だけだったのに、全身が修復再生され、蘇生したのだ。

 アルガンは手をじっと見つめ、しばらくすると深々と一礼した。そして、頭をあげるとジャンヌたちに襲いかかった!
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