2 / 28
第1章
第2話・蘇生の儀【エイム・リバウム】の功罪
しおりを挟む
明け方、ジャンヌの父ラルフォンが帰ってきた。床屋から帰ってきたのかというくらい、こざっぱりとしており、無傷そのものだった。城下町はオークたちが放った火により、街は大きくダメージを受けていた。
十二聖騎士は父と弟子以外、国境付近での戦闘から抜け出せなかった。抜け出せるどころの話でもなく、城内と同様に激しい戦闘が繰り広げられていた。城内に十二騎士が全員がいれば、ここまで酷い状況にはならなかっただろう。
ウッドバルト王国は南側は海に面しているが、東に巨人族が支配するサグ・ヴェーヌ共和国との戦争が長く続いている。西には大賢者リム・ウェルが治めるリム王国、北にはかつて勇者だったバルス・テイトが治めるオーギュスター公国がある。
リム王国とオーギュスター公国とは不戦の契りを交わし、平和条約も結ばれている。だが、最近は国境付近にアンデッドたちがあらわれ、街が襲われる事案が発生していた。密偵によると、リム王国がアンデッド達に呪いの儀を交わし、国境付近を襲わせているという報告が入っていた。十二騎士のうち十騎士達がこの国境付近のアンデッド案件の事実確認および、鎮圧に向かっていたのであった。
「おい、ジャンヌ。じいちゃんは、死んじまったって本当か?」
「うん、隣のサムスさん達を助けにいったら、オークたちにやられて」
「そうか、じいちゃんの亡骸はどこだ?」
「頭だけが残って、身体はオークたちに…」
ラルフォンは怒りで我を忘れそうになっていた。冷静さを保てたのは、唯一ジャンヌが生きていたからかもしれない・
「お前は、どうしたんだ?」
「僕は、オーク三体を倒した」
「どこで?」
「じいちゃんの書斎で」
ラルフォンは離れにある父アルガンの書斎編と向かった。そこには、無残に切り刻まれたオーク三体の屍《しかばね》があった。全てアゴから喉を一突きしている。首と胴体が切断されており、アルガンのハンマーではこのような傷跡にはならない。
「ジャンヌ、これはお前がやったのか?」
「そうみたいなんだけど、よく覚えてなくて」
ラルフォンはジャンヌがベルト通しに携えていたナイフカバーに目をやった。ナイフの柄は黒光鉱で装飾されている。
「これは、【無情のナイフ】か。じいちゃんからもらったのか?」
「うん、護身用にって。机の下に隠れてたら、オークたちが入ってきて。そしたら、ナイフが青く光って。それで、ぼく」
ラルフォンはジャンヌを抱きしめた。臆病者のジャンヌ、まだ十五になったばかりの少年には凄惨《せいさん》な事件だった。祖父が殺され、自分も敵とはいえ、オークを三体も仕留めたのだから。ラルフォンはジャンヌを抱きしめた時に違和感を感じていた。ジャンヌの内側から溢れる波動、それは強さのオーラだった。
「このオーラ。ジャンヌのレベルが異様に高い。俺がかけた、秘術【駕籠《かご》の鳥】を無効にしちまうほどなのか」
ラルフォンはジャンヌと父アルガンにこの秘術をかけていた。レベルが50を越えるとこの秘術は無効化される。アルガンはレベル60。この秘術はジャンヌのためにかけたようなものだった。レベル60のアルガンがオークごときにやられたのは、やつらは何か補助魔法をかけらえていたのだろう。一時的にステータスが向上する、魔法だ。
ということは、レベル60のアルガンでも敵わなかったオーク三体を倒したってことは軽く見てもジャンヌのレベルは70以上。しかも戦闘経験はゼロ。学校でもいじめられてる程だ。そしてあの【無情のナイフ】。能力を最大に発揮するには、ナイフに認められるレベルや技量が必要だ。一体ジャンヌはどうなってしまった。
「じいちゃんから、ナイフ以外に預かったものがあるのか?」
ラルフォンはジャンヌに目をやった。
「ナイフ以外には、そうこれ。【エクスペリエンスの指輪】ってのをもらった」
「【エクスペリエンスの指輪】か!そいつは驚きだ。そんなものがウチにあったのか」
ラルフォンはこの指輪の存在は知っていた。だが秘匿財宝《ひとくざいほう》のひとつとして都市伝説のように言われてきた指輪だ。それが、我が子の指に嵌められている。
「お前は、今おそらくかなりレベルが高くなっている。この戦闘で相当量の経験値を手に入れたと思われるな。だが、レベルの高さと戦闘技量は別物。大きな器を手に入れただけだ。使い方を知らぬものは、その器を活かすことはできん」
ラルフォンはジャンヌの右手親指をじっと見た。それは今なお、鈍く光っていた。
「そういえばじいちゃんは、蘇生しないの?まだ四十八時間経ってないから、リブイング様にお願いすればなんとかなるんじゃないの?」
「残念だが、蘇生はやめておこう。じいちゃんも望んではいないだろう。もう十分戦った男だ。静かに眠らせてやろう、ジャンヌ」
ジャンヌは父の思いもよらない言葉に驚いた。そして、大粒の涙がこぼれ落ちる。涙は止まらない。
「いやだ!いやだ!じいちゃんを生き返らせる!」
ジャンヌはアルガンの頭部が入った棺桶に向かって叫んだ。
「よせ!生き返らせてはいけない」
ウッドバルト王国には、リム王国が操術しているアンデッドたちの不死の霞が充満していた。高僧リブイングも近年蘇生術の際は、結界を二重に貼り、北側に塩を五芒《ごぼう》の配置で盛り、不死の呪いが近づけないように細心の注意を払っていた。
ジャンヌは祖父アルガンを生き返らせたいその一途な想いで、無意識に蘇生の術【エイム・リバウム】を詠唱していた。
「ヌ・ムラモ・ベルト・グ・スレイド。アルガンの血と肉、そのすべて、その骨、そのすべて、皮膚と心、そのすべて」
「ダメだ!!!」
ラルフォンの叫びが虚しく響く。そして、棺桶《かんおけ》が開く。棺桶のフタは10キロ以上ある。あの体制では中から開けられるものではない。だが、棺桶はゆっくりと開き、持ち上がった。そこからあらわれたのは、アルガンだった。頭部だけだったのに、全身が修復再生され、蘇生したのだ。
アルガンは手をじっと見つめ、しばらくすると深々と一礼した。そして、頭をあげるとジャンヌたちに襲いかかった!
十二聖騎士は父と弟子以外、国境付近での戦闘から抜け出せなかった。抜け出せるどころの話でもなく、城内と同様に激しい戦闘が繰り広げられていた。城内に十二騎士が全員がいれば、ここまで酷い状況にはならなかっただろう。
ウッドバルト王国は南側は海に面しているが、東に巨人族が支配するサグ・ヴェーヌ共和国との戦争が長く続いている。西には大賢者リム・ウェルが治めるリム王国、北にはかつて勇者だったバルス・テイトが治めるオーギュスター公国がある。
リム王国とオーギュスター公国とは不戦の契りを交わし、平和条約も結ばれている。だが、最近は国境付近にアンデッドたちがあらわれ、街が襲われる事案が発生していた。密偵によると、リム王国がアンデッド達に呪いの儀を交わし、国境付近を襲わせているという報告が入っていた。十二騎士のうち十騎士達がこの国境付近のアンデッド案件の事実確認および、鎮圧に向かっていたのであった。
「おい、ジャンヌ。じいちゃんは、死んじまったって本当か?」
「うん、隣のサムスさん達を助けにいったら、オークたちにやられて」
「そうか、じいちゃんの亡骸はどこだ?」
「頭だけが残って、身体はオークたちに…」
ラルフォンは怒りで我を忘れそうになっていた。冷静さを保てたのは、唯一ジャンヌが生きていたからかもしれない・
「お前は、どうしたんだ?」
「僕は、オーク三体を倒した」
「どこで?」
「じいちゃんの書斎で」
ラルフォンは離れにある父アルガンの書斎編と向かった。そこには、無残に切り刻まれたオーク三体の屍《しかばね》があった。全てアゴから喉を一突きしている。首と胴体が切断されており、アルガンのハンマーではこのような傷跡にはならない。
「ジャンヌ、これはお前がやったのか?」
「そうみたいなんだけど、よく覚えてなくて」
ラルフォンはジャンヌがベルト通しに携えていたナイフカバーに目をやった。ナイフの柄は黒光鉱で装飾されている。
「これは、【無情のナイフ】か。じいちゃんからもらったのか?」
「うん、護身用にって。机の下に隠れてたら、オークたちが入ってきて。そしたら、ナイフが青く光って。それで、ぼく」
ラルフォンはジャンヌを抱きしめた。臆病者のジャンヌ、まだ十五になったばかりの少年には凄惨《せいさん》な事件だった。祖父が殺され、自分も敵とはいえ、オークを三体も仕留めたのだから。ラルフォンはジャンヌを抱きしめた時に違和感を感じていた。ジャンヌの内側から溢れる波動、それは強さのオーラだった。
「このオーラ。ジャンヌのレベルが異様に高い。俺がかけた、秘術【駕籠《かご》の鳥】を無効にしちまうほどなのか」
ラルフォンはジャンヌと父アルガンにこの秘術をかけていた。レベルが50を越えるとこの秘術は無効化される。アルガンはレベル60。この秘術はジャンヌのためにかけたようなものだった。レベル60のアルガンがオークごときにやられたのは、やつらは何か補助魔法をかけらえていたのだろう。一時的にステータスが向上する、魔法だ。
ということは、レベル60のアルガンでも敵わなかったオーク三体を倒したってことは軽く見てもジャンヌのレベルは70以上。しかも戦闘経験はゼロ。学校でもいじめられてる程だ。そしてあの【無情のナイフ】。能力を最大に発揮するには、ナイフに認められるレベルや技量が必要だ。一体ジャンヌはどうなってしまった。
「じいちゃんから、ナイフ以外に預かったものがあるのか?」
ラルフォンはジャンヌに目をやった。
「ナイフ以外には、そうこれ。【エクスペリエンスの指輪】ってのをもらった」
「【エクスペリエンスの指輪】か!そいつは驚きだ。そんなものがウチにあったのか」
ラルフォンはこの指輪の存在は知っていた。だが秘匿財宝《ひとくざいほう》のひとつとして都市伝説のように言われてきた指輪だ。それが、我が子の指に嵌められている。
「お前は、今おそらくかなりレベルが高くなっている。この戦闘で相当量の経験値を手に入れたと思われるな。だが、レベルの高さと戦闘技量は別物。大きな器を手に入れただけだ。使い方を知らぬものは、その器を活かすことはできん」
ラルフォンはジャンヌの右手親指をじっと見た。それは今なお、鈍く光っていた。
「そういえばじいちゃんは、蘇生しないの?まだ四十八時間経ってないから、リブイング様にお願いすればなんとかなるんじゃないの?」
「残念だが、蘇生はやめておこう。じいちゃんも望んではいないだろう。もう十分戦った男だ。静かに眠らせてやろう、ジャンヌ」
ジャンヌは父の思いもよらない言葉に驚いた。そして、大粒の涙がこぼれ落ちる。涙は止まらない。
「いやだ!いやだ!じいちゃんを生き返らせる!」
ジャンヌはアルガンの頭部が入った棺桶に向かって叫んだ。
「よせ!生き返らせてはいけない」
ウッドバルト王国には、リム王国が操術しているアンデッドたちの不死の霞が充満していた。高僧リブイングも近年蘇生術の際は、結界を二重に貼り、北側に塩を五芒《ごぼう》の配置で盛り、不死の呪いが近づけないように細心の注意を払っていた。
ジャンヌは祖父アルガンを生き返らせたいその一途な想いで、無意識に蘇生の術【エイム・リバウム】を詠唱していた。
「ヌ・ムラモ・ベルト・グ・スレイド。アルガンの血と肉、そのすべて、その骨、そのすべて、皮膚と心、そのすべて」
「ダメだ!!!」
ラルフォンの叫びが虚しく響く。そして、棺桶《かんおけ》が開く。棺桶のフタは10キロ以上ある。あの体制では中から開けられるものではない。だが、棺桶はゆっくりと開き、持ち上がった。そこからあらわれたのは、アルガンだった。頭部だけだったのに、全身が修復再生され、蘇生したのだ。
アルガンは手をじっと見つめ、しばらくすると深々と一礼した。そして、頭をあげるとジャンヌたちに襲いかかった!
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
世界(ところ)、異(かわ)れば片魔神
緋野 真人
ファンタジー
脳出血を発症し、右半身に著しい麻痺障害を負った男、山納公太(やまのこうた)。
彼はある日――やたらと精巧なエルフのコスプレ(?)をした外国人女性(?)と出会う。
自らを異世界の人間だと称し、同時に魔法と称して不可思議な術を彼に見せたその女性――ミレーヌが言うには、その異世界は絶大な魔力を誇る魔神の蹂躙に因り、存亡の危機に瀕しており、その魔神を封印するには、依り代に適合する人間が必要……その者を探し求め、彼女は次元を超えてやって来たらしい。
そして、彼女は公太がその適合者であるとも言い、魔神をその身に宿せば――身体障害の憂き目からも解放される可能性がある事を告げ、同時にその異世界を滅亡を防いだ英雄として、彼に一国相当の領地まで与えるという、実にWinWinな誘いに彼の答えは……
※『小説家になろう』さんにて、2018年に発表した作品を再構成したモノであり、カクヨムさんで現在連載中の作品を転載したモノです。
フィフティドールは笑いたい 〜謎の組織から支援を受けてるけど怪し過ぎるんですけど!?〜
狐隠リオ
ファンタジー
偉大なる魔女の守護者、それが騎士。
大勢の若者たちがその英雄譚に魅了され、その道へと歩み始めていた。
だけど俺、志季春護は騎士を目指しながらも他とは少し違かった。
大勢を護るために戦うのではなく、残された二人の家族を護るために剣を振るう。
妹の夏実と姉の冬華。二人を護るために春護は努力を続けていた。
だけど……二人とも失ってしまった。
死の淵を彷徨った俺は一人の少女と出会い、怪しげな彼女と契約を交わしたんだ。
契約によって得た新たな力を使い俺は進む。騎士の相棒である水花と共に。
好意的だけど底の知れないナニカの助力を受け、少年は強さを求める。
家族の仇を取るために、魔族を討滅するために。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
僕達の世界線は永遠に変わらない 第一部
流川おるたな
ファンタジー
普通の高校生だった僕はあることが理由で一ヶ月のあいだ眠りにつく。
時間が経過して目を覚ました僕が見た世界は無残な姿に変わり果てていた。
その要因は地球の衛星である月にあったのだが...
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる