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第7話・穢呪
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ライオットがバルスに駆け寄り、メルフとセイレンは少し遠くからバルスを眺めている。
ライオットがメルフとセイレンを手招きする。割れた窓ガラスを踏みしめたのか、メルフは足の裏から出血していた。メルフは靴底が薄手のくしゃくしゃのブーツを愛用していたから、地形によっては良くけがをしてしまう。
「回復の雫」
セイレンがメルフの傷を癒す。傷口は一瞬で塞がり、出血は止まった。
「こっちに、おいでよ。セイレン、メルフ」
ライオットがそう言うと、しぶしぶ二人はバルスとライオットに近づいた。
「今みたいに、回復魔法は簡易詠唱でも使いこなせるってことか。じゃぁ、セイレンはキチンと魔法を習得しているってことだな」
バルスはチロチロと舌を動かしながら言った。
「そうよ。私は、祖父から魔法を教えてもらった。でも」
「でも?」
「祖父から教わらなかった、教えてもらえなかった上位高等魔法は独学で学んだわ。それの何がいけないの?」
セイレンはバルスに食ってかかった。ライオットがセイレンをなだめる。
「まぁまぁ、セイレン落ち着いて」
「魔法は段階を経て覚えていくものだろ。数珠繋ぎというか、枝葉というか、小さい魔法からコツコツ覚えて。でも、セイレンは、回復の雫の上位にあたる高回復の誉は覚えていない。なのに、超上位高等魔法の蘇生魔法、エイム・リバウムは習得している。これは明らかに不自然だ」
バルスがセイレンの肩を掴んで言った。バルスなりの考えがあるのだろうと、ライオットは静観している。バルスは続けた。
「明らかに魔力が足りないんだ。エイム・リバウムを詠唱できる魔力は備わっていない。環境によって、たとえばマニューレーの花ば咲き誇る草原なんかだと魔力上限が上がることもあるが。図星かな」
「そうよ、マニューレーの花が咲く場所は万が一の時のために調べていたのよ。私たちみたいな弱小パーティーじゃぁ、それぐらいの準備しておいても問題ないはずよ」
セイレンが怒るのはなぜだろうと、ライオットは考えていた。誰も損をしていないのにバルスが正論で何かを暴こうとしているからなのか。それにセイレンが怒っている。いや、セイレンはメルフを護ろうとしているのか。
「先取魔法ってのは、まぁ、できる魔法使いや僧侶、賢者の類はアリだよ。魔法書を先読みして、習得して使えるところまでにはもっていく。どのみち魔力は足りないから使えっこないし、マニューレーの花があったとしても、魔力の上限値を解放できなければ、魔力も増えないからね。つまり、キミたちには才能があるとは思う。魔法の」
バルスは伏し目がちなメルフの目を探しながら言った。
「キミたちってどういうこと?」
セイレンの声は怒っていた。
「わかってるだろ、セイレンは血筋のせいか魔法の素養がある。だが、メルフは違うな。何かを奪って手に入れるというか、その魔力自体もメルフの中から涌いてるものとは違う」
バルスがそう言うと、不安げなメルフはぽつりぽつりと言葉を放った。
「そうよ…私は、盗人。セイレンに助けられたのよ。さっきのハーフリザードマンが言ってたとおり、魔物が持つ魔法書も片っ端から盗んだ。でもセイレンは悪くない、私に魔法の扱い方を教えてくれただけで。盗んだのは私」
ライオットはメルフの告白を訊いて、動揺した。セイレンからメルフを紹介されたとき、たしかに職業は魔法使いと訊いていた。ギルドの身分証明書も確認した。身分証明書の偽造、魔法書は盗品、それだけでも重罪だが。魔物の魔法書を盗んでいたとは、話がややこしい。さっきのハーフリザードマンのように見逃してくれるのはそうそうない。盗んだ魔法書で習得した魔法は、“ケガレ”とされている。
「メルフ、呪いの枷がどこかにかかっているんじゃないのか?」
ライオットが心配そうにメルフに言った。
メルフはゆっくりと首を縦に振った。
「ちょっと失礼するよ」
バルスはヌメヌメとした手を広げ、穢呪の解を唱えた。メルフの両足首が輝き、鎖が露になった。ゲゲゲと禍々しい音を発している。
バルスはメルフの両足に向かって三叉の槍で突いた。呪いの枷が粉々に散り、風に飲まれていった。
「足が、軽い!」
メルフは膝を曲げ、飛び跳ねた。
「だろ、両足ってのはなかなかだな。相当お宝をくすねてきたんだろうに」
バルスは三叉の槍に付いたケガレをつかみ取り、慣れた手つきで握りつぶした。ライオットはバルスの四肢、首、肩にも何か禍々しいケガレに祟られているように感じた。
「メルフ、僕が言うのもなんだが、キミは相当ケガレにやられてきたみたいだ」
「よくわかるのね」
セイレンが苦笑を浮かべて言った。メルフを護るという意思がにじみ出ていた。
「僕、ケガレまくりだからさ。勇者なんて言いうのは結果論でさ、リザードマンなら三種類の種族を滅ぼしただろ、他にもオーク、コボルト、オーガに、タイタン、オーガ、ドラゴンもな」
「それでケガレて呪われたってこと?」
セイレンは興味深そうに訊いた。その表情は素直さであふれている。勇者と話せる機会なんてそうない。
「あぁ、僕もメルフと同じく盗人上がりだ。倒して、奪った。盗んだのと同じだ。魔法書、剣、盾、兜に鎧。ガル・ハンも同じだ。あと、ルイもな」
バルスの表情は重い。
「ルイって?あの、ルイ・ドゥマゲッティ?ネクロマンサーの?」
メルフがじっとバルスを見つめて言った。
「あぁ、ガルとルイが僕のパーティーメンバ―だった。ガルは冒険が終わってからバンパイアになったが、ルイは最初からネクロマンサーだったな」
「バルスさんを殺した人って、相当な手練れじゃなきゃ無理でしょ。ガルさんやルイさんでも難しいでしょ」
メルフがそう言うとしんと音が消えた。
「どうかな。簡単に殺されるはずはないんだけど、ガルやルイは暗殺系ではないし。わかんないね。だから、知りたいってのもあるかな」
「私、バルスさんのことよく知ってます。盗人界ではやっぱり有名だったから」
「そうなの?なんだか、嬉しいようなそうでないような」
「いえ、盗み過ぎてケガレに覆われてるって」
「夜、勝手に髪が伸びるとか?」
「ブリッジして階段降りてくるとか?」
「首が一周するとか?」
皆が口々に、言い始めた。
「マテ、待て、待って!そういうのんじゃないから」
バルスは三人を制した。
「つまり、バルスさんはケガレの呪いによって、殺された可能性もあるのでは?物理的に殺害するのは不可能そうですし」
ライオットは小石をライオットに投げた。オートガードが発動して、小石を跳ね返す。
「ほら」
ライオットはメルフとセイレンに、ほらな、という顔をして言った。
メルフとセイレンも小石を手当たり次第に投げた。
「やめろよ、石を投げるんじゃない」
ライオットはレンガを掴んでいた、バルスと目が合い、そっとレンガをおろした。
「まぁ、コイツがケガレから呪われているのはわかってたことだし、勇者であることで中和していたんだけどね」
ジェムがふわーっと浮揚しながらやって来て言った。ゴード・スーが後ろから追いかけてくる。ジェムは続けた。
「あれだよ。ルイを捨てた呪いだ。アンタは東の王の娘ところに、婿入りしたんだからな」
「えーーーー」
ライオットとセイレン、メルフは声を上げた
ライオットがメルフとセイレンを手招きする。割れた窓ガラスを踏みしめたのか、メルフは足の裏から出血していた。メルフは靴底が薄手のくしゃくしゃのブーツを愛用していたから、地形によっては良くけがをしてしまう。
「回復の雫」
セイレンがメルフの傷を癒す。傷口は一瞬で塞がり、出血は止まった。
「こっちに、おいでよ。セイレン、メルフ」
ライオットがそう言うと、しぶしぶ二人はバルスとライオットに近づいた。
「今みたいに、回復魔法は簡易詠唱でも使いこなせるってことか。じゃぁ、セイレンはキチンと魔法を習得しているってことだな」
バルスはチロチロと舌を動かしながら言った。
「そうよ。私は、祖父から魔法を教えてもらった。でも」
「でも?」
「祖父から教わらなかった、教えてもらえなかった上位高等魔法は独学で学んだわ。それの何がいけないの?」
セイレンはバルスに食ってかかった。ライオットがセイレンをなだめる。
「まぁまぁ、セイレン落ち着いて」
「魔法は段階を経て覚えていくものだろ。数珠繋ぎというか、枝葉というか、小さい魔法からコツコツ覚えて。でも、セイレンは、回復の雫の上位にあたる高回復の誉は覚えていない。なのに、超上位高等魔法の蘇生魔法、エイム・リバウムは習得している。これは明らかに不自然だ」
バルスがセイレンの肩を掴んで言った。バルスなりの考えがあるのだろうと、ライオットは静観している。バルスは続けた。
「明らかに魔力が足りないんだ。エイム・リバウムを詠唱できる魔力は備わっていない。環境によって、たとえばマニューレーの花ば咲き誇る草原なんかだと魔力上限が上がることもあるが。図星かな」
「そうよ、マニューレーの花が咲く場所は万が一の時のために調べていたのよ。私たちみたいな弱小パーティーじゃぁ、それぐらいの準備しておいても問題ないはずよ」
セイレンが怒るのはなぜだろうと、ライオットは考えていた。誰も損をしていないのにバルスが正論で何かを暴こうとしているからなのか。それにセイレンが怒っている。いや、セイレンはメルフを護ろうとしているのか。
「先取魔法ってのは、まぁ、できる魔法使いや僧侶、賢者の類はアリだよ。魔法書を先読みして、習得して使えるところまでにはもっていく。どのみち魔力は足りないから使えっこないし、マニューレーの花があったとしても、魔力の上限値を解放できなければ、魔力も増えないからね。つまり、キミたちには才能があるとは思う。魔法の」
バルスは伏し目がちなメルフの目を探しながら言った。
「キミたちってどういうこと?」
セイレンの声は怒っていた。
「わかってるだろ、セイレンは血筋のせいか魔法の素養がある。だが、メルフは違うな。何かを奪って手に入れるというか、その魔力自体もメルフの中から涌いてるものとは違う」
バルスがそう言うと、不安げなメルフはぽつりぽつりと言葉を放った。
「そうよ…私は、盗人。セイレンに助けられたのよ。さっきのハーフリザードマンが言ってたとおり、魔物が持つ魔法書も片っ端から盗んだ。でもセイレンは悪くない、私に魔法の扱い方を教えてくれただけで。盗んだのは私」
ライオットはメルフの告白を訊いて、動揺した。セイレンからメルフを紹介されたとき、たしかに職業は魔法使いと訊いていた。ギルドの身分証明書も確認した。身分証明書の偽造、魔法書は盗品、それだけでも重罪だが。魔物の魔法書を盗んでいたとは、話がややこしい。さっきのハーフリザードマンのように見逃してくれるのはそうそうない。盗んだ魔法書で習得した魔法は、“ケガレ”とされている。
「メルフ、呪いの枷がどこかにかかっているんじゃないのか?」
ライオットが心配そうにメルフに言った。
メルフはゆっくりと首を縦に振った。
「ちょっと失礼するよ」
バルスはヌメヌメとした手を広げ、穢呪の解を唱えた。メルフの両足首が輝き、鎖が露になった。ゲゲゲと禍々しい音を発している。
バルスはメルフの両足に向かって三叉の槍で突いた。呪いの枷が粉々に散り、風に飲まれていった。
「足が、軽い!」
メルフは膝を曲げ、飛び跳ねた。
「だろ、両足ってのはなかなかだな。相当お宝をくすねてきたんだろうに」
バルスは三叉の槍に付いたケガレをつかみ取り、慣れた手つきで握りつぶした。ライオットはバルスの四肢、首、肩にも何か禍々しいケガレに祟られているように感じた。
「メルフ、僕が言うのもなんだが、キミは相当ケガレにやられてきたみたいだ」
「よくわかるのね」
セイレンが苦笑を浮かべて言った。メルフを護るという意思がにじみ出ていた。
「僕、ケガレまくりだからさ。勇者なんて言いうのは結果論でさ、リザードマンなら三種類の種族を滅ぼしただろ、他にもオーク、コボルト、オーガに、タイタン、オーガ、ドラゴンもな」
「それでケガレて呪われたってこと?」
セイレンは興味深そうに訊いた。その表情は素直さであふれている。勇者と話せる機会なんてそうない。
「あぁ、僕もメルフと同じく盗人上がりだ。倒して、奪った。盗んだのと同じだ。魔法書、剣、盾、兜に鎧。ガル・ハンも同じだ。あと、ルイもな」
バルスの表情は重い。
「ルイって?あの、ルイ・ドゥマゲッティ?ネクロマンサーの?」
メルフがじっとバルスを見つめて言った。
「あぁ、ガルとルイが僕のパーティーメンバ―だった。ガルは冒険が終わってからバンパイアになったが、ルイは最初からネクロマンサーだったな」
「バルスさんを殺した人って、相当な手練れじゃなきゃ無理でしょ。ガルさんやルイさんでも難しいでしょ」
メルフがそう言うとしんと音が消えた。
「どうかな。簡単に殺されるはずはないんだけど、ガルやルイは暗殺系ではないし。わかんないね。だから、知りたいってのもあるかな」
「私、バルスさんのことよく知ってます。盗人界ではやっぱり有名だったから」
「そうなの?なんだか、嬉しいようなそうでないような」
「いえ、盗み過ぎてケガレに覆われてるって」
「夜、勝手に髪が伸びるとか?」
「ブリッジして階段降りてくるとか?」
「首が一周するとか?」
皆が口々に、言い始めた。
「マテ、待て、待って!そういうのんじゃないから」
バルスは三人を制した。
「つまり、バルスさんはケガレの呪いによって、殺された可能性もあるのでは?物理的に殺害するのは不可能そうですし」
ライオットは小石をライオットに投げた。オートガードが発動して、小石を跳ね返す。
「ほら」
ライオットはメルフとセイレンに、ほらな、という顔をして言った。
メルフとセイレンも小石を手当たり次第に投げた。
「やめろよ、石を投げるんじゃない」
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「まぁ、コイツがケガレから呪われているのはわかってたことだし、勇者であることで中和していたんだけどね」
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