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喫煙所で、平和は遠いなとつぶやく
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有事の際は、迎撃ミサイルを陸上はもちろん海上、加えて空中からも発射する用意ができています。もちろん、核対策としても有効です。
街頭でもらったビラには、ふざけたことが書かれていた。
「ばかかっつーの。核が発射されたら、そりゃもう本気の殺し合いだろ。だったら、それ迎撃し損なったら終わりだぜ」
小早川はタバコに火をつけながら、ビラをくしゃくしゃと丸めて投げた。
「まぁ、万一さぁ、迎撃できたとして、反撃に核使ったらホントに終わりだよな」
本田は小早川のタバコから一本拝借して、火を付けた。
「核で仕返ししなくても、反撃したらダメだな。世紀末救世主フラグ立つの待ちだぜ」
ふぅーとため息交じりの、煙を吐き出した。その時小早川のスマホから着信音が鳴る。
「あ。はい。あぁ、はい明日。大丈夫です。場所は?はい、○×港ですか。はい、わかりました」
「お、明日、バイトか?いいな。金欠なんだよなぁ、俺。今月代わりに入りたいくらいだわ」
本田はチビチビとタバコを吸いながら聞いた。
「いいだろ~。でもさ、港だって。漁業のショーかなにかかな」
翌朝、小早川は○×港へ行った。電車とバスを乗り継いで一時間。この移動時間もバイト代から出るのだろうか?大学の授業が休講だったから、じっと家にいるのももったいない。
「小早川さんですね」
黒いスーツに黒いネクタイ、白いシャツに、黒いベルトに、黒い靴の逆パンダみたいな男が声をかけてきた。
「ピースフルメイカー企画の森です。今日はどうもありがとうございます。では、これがチケットでこれが衣装の着ぐるみです」
小早川はチケットとスーツケースに入った着ぐるみを受けとった。
「あの、このチケットって船に乗るってことですか?大学、明日は授業なんですよ。帰って来れますよね」
「それは、小早川さん次第ですよ。さぁ、船が出ます。急いで」
小さな漁船のような、イカの夜釣りで乗ったことがあるような船だった。
小早川は言われるがまま、船へ乗った。二時間後には、小さな無人島に着いた。船長は一言も発さず、小早川に船から降りるようにジェスチャーで伝えた。
「なんなんだ、ここはどこですか?」
「お待ちしていました、ピースフルメイカー企画の岸です。ここからは、スーツケースの着ぐるみを着てください。危険ですから」
「き、危険ってどういうこと……」
周囲で火薬のにおいがする。遮蔽物のない砂浜では、風がよく通る。火薬だけじゃない、何かが燃えているにおいがする。小早川は口に入った砂を取り除こうとしたとき、ドン!という大きな爆発音がした。立て続けに火柱がキノコ状にあがった。砂浜の奥にある古い建物が燃えている。遠くから人の声もする。
「ここって、もしかして戦場とかなにかですか」
「そうですよ、危険ですから頭下げて。そう、戦場です。私はピースフルメイカー、平和をいーっぱい作りたいという会社のものでして」
「で、どうして僕がここに」
「小早川さん、ピックリンポックリンの着ぐるみアクターですよね」
「アクターって、単にバイトですよ。登録制ですから、友達の本田もこのバイトしてますよ」
「本田さん、彼はあなたがダメだったら、お願いしようと思いますので」
「どういうことですか」
岸は仕方ないなぁとため息混じりで、小早川に説明した。このピックリンポックリンは、海外で大人気のキャラクターらしい。子どもショーではイマイチの声援だったが、海外ではその愛くるしい目とアンバランスな体つき、長いシッポがチャーミングと評判だ。
そしてここは、戦場。A国とB国が小競り合いをしている互いの領土境界線のような場所だった。
早い話が、この着ぐるみを着て、平和の使者をしろってことらしい。どうやって、このドンパチを止めたらいいんだ。
「着ぐるみは脱いじゃダメですからね。絶対!」
その時だった、ピースフルメイカー企画の岸の頭を銃弾が貫通した。膝からタバコの灰のようにぐしゃっと崩れた。
「えぇ!」
人の最期の言葉ってのは、意外としょうもないものだなと小早川は息絶える岸をスローモーションで眺めていた。
小早川は大急ぎでピックリンポックリンの着ぐるみを着て、ともかく生き延びることを考えた。
いつのまにか砂浜の東と西に分かれて、両国の兵士が小早川を挟んでいた。銃弾が飛び交う、ロケット弾が炸裂する。互いに遮蔽物がない砂浜だけあって、サバゲーのようにガンガンと銃弾が互いの兵士に当たりまくる。
その時だった、A国の兵士がピックリンポックリンの存在に気づいた。その後、B国の斥候部隊もピックリンポックリンの存在に気づいた。
両国の司令官が「打ち方やめ」の合図を出した。あれほど激しかった銃弾やロケット弾の音がなくなった。静寂な時間が流れた。激しい爆裂音のあとからの無音は静寂さをより一層引き立てていた。
両軍の司令官がピックリンポックリン・小早川にかけよる。手にはカメラとペンを持っている。
B国の司令官が先に着いた。言葉がわからないが、写真を一緒に撮りたいらしい。ペンで軍服にサインも求めてきた。少し遅れて、
A国の司令官はスマホでテレビ電話をしながら娘と話をしてほしいと言ってきた。
「あの、ぉ!!」
両国の司令官はにらみ合いを始めた。互いに腰に携えた銃を抜いて互いの急所めがけて発砲しそうだった。
「あの、ぉ!!ノー、ウォー、ピース、ストップ戦争!ってえーと、ストップウォー!」
小早川はあれほど英語を勉強してきたのに、こんなときに気の利いたジョーク交じりの英語が話せたら、いいのにと、自分の英語力の拙さを悔やんだ。生きて帰ったら、英語を死ぬほど勉強しよう、と誓った。
ピックリンポックリン・小早川の言葉は偉大だった。両国の司令官は、自軍に向かって撤退指示を出し始めた。たったひとこと、小早川のつたない英語で、小競り合いを、このあと起こりうる戦争を、人類を破滅へと導く核の使用も止めることができたのだ。
もうすぐ夕方とはいえ、暑かった。着ぐるみの中のファンは砂を吸い込んで動かない。小早川は、ピックリンポックリンの頭を外した。汗でびっしょびっしょだった。
チューン!チューン!
小早川の頬を銃弾がかすめた。とっさにピックリンポックリンの頭をかぶる。
(な、なにが起こったんだ)
続けざまに、両国のスナイパーがピックリンポックリン・小早川を狙った。銃弾が着ぐるみの頭、腰、腕、太腿、つま先に当たる。
ロケットランチャーを抱えた男たちから、放たれるロケット弾。対戦車用の火力が大きいものだ。
両国は互いの戦闘を再開するのではなく、ピックリンポックリン・小早川を狙い始めた。火炎に包まれ、銃弾を浴び続ける。
「うぁあああ、あつうううくない。熱くない!痛くない」
銃弾は弾き、ロケット弾が着弾しても衝撃を受け止め、大きな火炎はたちまち沈火した。
この着ぐるみは、鎧?プロテクター?なんなんだ?ピックリンポックリン・小早川は、腕を振り上げた。放たれた銃弾が跳ね返り、A国の兵士を貫く。
そのあとは、惨状だった。ピックリンポックリン・小早川は着ぐるみの力を確信した。A国・B国問わず、皆殺しにした。悲惨な光景だった。砂浜は地獄絵図と化していた。
両国が争っていた理由、それは領土問題ではなかった。戦争兵器としてのピックリンポックリン着ぐるみを手中に収めることだった。
「ってストーリーで、どうですか?ヒーロの誕生のエピソードとしては、サイコーだと思うんですよ」
「ハナちゃん、怖いこと考えるよねぇ」
着ぐるみショーの控え室で、ハナは今度の漫画のストーリーを仲間の谷口に説明していた。
出番を終えた男が控え室に戻ってきた。
「ねぇ、ほら、小早川さんの名前使わせてもらっちゃった。いいでしょ」
「俺のこと、漫画に?ダメですよ。やめてください」
「あ、うん、ごめんね。わかったわかった」
小早川は休憩せずに控え室を出て行った。
「あいつ、感じわるいよな」
「小早川くんのこと?そうなんだよね、この前、泥だらけのピックリンポックリン着て事務所に来たらしいのよね。泥だらけだから、洗ってもらおうかって言ったんだけど、脱がないのよ。着ぐるみ」
「変なヤツだな」
「それから、ずっとよ。ずっと脱がないのよ」
「だからこんな話を思いついたのか?」
「そうでもなきゃ、ずっと着ぐるみ着てることの説明つかないもの」
谷口はタバコに火をつけた。
「谷口さん、ここ禁煙。タバコは喫煙所よ」
谷口はタバコの火を消して、そのまま口にくわえた。
「単に、ピックリンポックリンがすきなだけじゃないの」
そう言い放ち、谷口は喫煙所に向かった。
小早川は、喫煙所で着ぐるみを着たまま器用にタバコを吸っていた。遠くから、小早川を狙う狙撃兵から銃弾が放たれた。谷口の頭に命中しそうになった。間一髪で、ピックリンポックリン・小早川が谷口を隠すように抱き寄せた。銃弾はピックリンポックリン・小早川の背中に命中したが、弾き返した。
「な、なんだよ。おまえ」
谷口は咥えていたタバコを落とした。
「なんでもないっす」
ピックリンポックリン・小早川は谷口が落としたタバコを拾って、渡した。
「いらねぇよ、落ちたタバコは」
「谷口さん、エリミネイト ウォーって意味わかります」
「知らねぇよ、俺に英語聞くなよ」
「戦争をなくす、って意味ですよ」
ピックリンポックリン・小早川は二本目のタバコに火をつけた。
「次のショー始まるよ、早く早く」
ハナは、二人を喫煙所まで迎えに来た。谷口は着ぐるみの頭をかぶるために、急いで控え室に戻った。
ピックリンポックリン・小早川は吸い始めたタバコの火を消した。
「Peace is far away だな」
「どういう意味よ」
ハナは言った。
「平和は遠いなぁ、ってことだよ」
小早川はポツリとつぶやき、喫煙所を後にした。
「Peace is hard to come by よ。」
ハナは消え切っていないタバコをもみ消して、小早川のあとを追いかけた。
(おわり)
街頭でもらったビラには、ふざけたことが書かれていた。
「ばかかっつーの。核が発射されたら、そりゃもう本気の殺し合いだろ。だったら、それ迎撃し損なったら終わりだぜ」
小早川はタバコに火をつけながら、ビラをくしゃくしゃと丸めて投げた。
「まぁ、万一さぁ、迎撃できたとして、反撃に核使ったらホントに終わりだよな」
本田は小早川のタバコから一本拝借して、火を付けた。
「核で仕返ししなくても、反撃したらダメだな。世紀末救世主フラグ立つの待ちだぜ」
ふぅーとため息交じりの、煙を吐き出した。その時小早川のスマホから着信音が鳴る。
「あ。はい。あぁ、はい明日。大丈夫です。場所は?はい、○×港ですか。はい、わかりました」
「お、明日、バイトか?いいな。金欠なんだよなぁ、俺。今月代わりに入りたいくらいだわ」
本田はチビチビとタバコを吸いながら聞いた。
「いいだろ~。でもさ、港だって。漁業のショーかなにかかな」
翌朝、小早川は○×港へ行った。電車とバスを乗り継いで一時間。この移動時間もバイト代から出るのだろうか?大学の授業が休講だったから、じっと家にいるのももったいない。
「小早川さんですね」
黒いスーツに黒いネクタイ、白いシャツに、黒いベルトに、黒い靴の逆パンダみたいな男が声をかけてきた。
「ピースフルメイカー企画の森です。今日はどうもありがとうございます。では、これがチケットでこれが衣装の着ぐるみです」
小早川はチケットとスーツケースに入った着ぐるみを受けとった。
「あの、このチケットって船に乗るってことですか?大学、明日は授業なんですよ。帰って来れますよね」
「それは、小早川さん次第ですよ。さぁ、船が出ます。急いで」
小さな漁船のような、イカの夜釣りで乗ったことがあるような船だった。
小早川は言われるがまま、船へ乗った。二時間後には、小さな無人島に着いた。船長は一言も発さず、小早川に船から降りるようにジェスチャーで伝えた。
「なんなんだ、ここはどこですか?」
「お待ちしていました、ピースフルメイカー企画の岸です。ここからは、スーツケースの着ぐるみを着てください。危険ですから」
「き、危険ってどういうこと……」
周囲で火薬のにおいがする。遮蔽物のない砂浜では、風がよく通る。火薬だけじゃない、何かが燃えているにおいがする。小早川は口に入った砂を取り除こうとしたとき、ドン!という大きな爆発音がした。立て続けに火柱がキノコ状にあがった。砂浜の奥にある古い建物が燃えている。遠くから人の声もする。
「ここって、もしかして戦場とかなにかですか」
「そうですよ、危険ですから頭下げて。そう、戦場です。私はピースフルメイカー、平和をいーっぱい作りたいという会社のものでして」
「で、どうして僕がここに」
「小早川さん、ピックリンポックリンの着ぐるみアクターですよね」
「アクターって、単にバイトですよ。登録制ですから、友達の本田もこのバイトしてますよ」
「本田さん、彼はあなたがダメだったら、お願いしようと思いますので」
「どういうことですか」
岸は仕方ないなぁとため息混じりで、小早川に説明した。このピックリンポックリンは、海外で大人気のキャラクターらしい。子どもショーではイマイチの声援だったが、海外ではその愛くるしい目とアンバランスな体つき、長いシッポがチャーミングと評判だ。
そしてここは、戦場。A国とB国が小競り合いをしている互いの領土境界線のような場所だった。
早い話が、この着ぐるみを着て、平和の使者をしろってことらしい。どうやって、このドンパチを止めたらいいんだ。
「着ぐるみは脱いじゃダメですからね。絶対!」
その時だった、ピースフルメイカー企画の岸の頭を銃弾が貫通した。膝からタバコの灰のようにぐしゃっと崩れた。
「えぇ!」
人の最期の言葉ってのは、意外としょうもないものだなと小早川は息絶える岸をスローモーションで眺めていた。
小早川は大急ぎでピックリンポックリンの着ぐるみを着て、ともかく生き延びることを考えた。
いつのまにか砂浜の東と西に分かれて、両国の兵士が小早川を挟んでいた。銃弾が飛び交う、ロケット弾が炸裂する。互いに遮蔽物がない砂浜だけあって、サバゲーのようにガンガンと銃弾が互いの兵士に当たりまくる。
その時だった、A国の兵士がピックリンポックリンの存在に気づいた。その後、B国の斥候部隊もピックリンポックリンの存在に気づいた。
両国の司令官が「打ち方やめ」の合図を出した。あれほど激しかった銃弾やロケット弾の音がなくなった。静寂な時間が流れた。激しい爆裂音のあとからの無音は静寂さをより一層引き立てていた。
両軍の司令官がピックリンポックリン・小早川にかけよる。手にはカメラとペンを持っている。
B国の司令官が先に着いた。言葉がわからないが、写真を一緒に撮りたいらしい。ペンで軍服にサインも求めてきた。少し遅れて、
A国の司令官はスマホでテレビ電話をしながら娘と話をしてほしいと言ってきた。
「あの、ぉ!!」
両国の司令官はにらみ合いを始めた。互いに腰に携えた銃を抜いて互いの急所めがけて発砲しそうだった。
「あの、ぉ!!ノー、ウォー、ピース、ストップ戦争!ってえーと、ストップウォー!」
小早川はあれほど英語を勉強してきたのに、こんなときに気の利いたジョーク交じりの英語が話せたら、いいのにと、自分の英語力の拙さを悔やんだ。生きて帰ったら、英語を死ぬほど勉強しよう、と誓った。
ピックリンポックリン・小早川の言葉は偉大だった。両国の司令官は、自軍に向かって撤退指示を出し始めた。たったひとこと、小早川のつたない英語で、小競り合いを、このあと起こりうる戦争を、人類を破滅へと導く核の使用も止めることができたのだ。
もうすぐ夕方とはいえ、暑かった。着ぐるみの中のファンは砂を吸い込んで動かない。小早川は、ピックリンポックリンの頭を外した。汗でびっしょびっしょだった。
チューン!チューン!
小早川の頬を銃弾がかすめた。とっさにピックリンポックリンの頭をかぶる。
(な、なにが起こったんだ)
続けざまに、両国のスナイパーがピックリンポックリン・小早川を狙った。銃弾が着ぐるみの頭、腰、腕、太腿、つま先に当たる。
ロケットランチャーを抱えた男たちから、放たれるロケット弾。対戦車用の火力が大きいものだ。
両国は互いの戦闘を再開するのではなく、ピックリンポックリン・小早川を狙い始めた。火炎に包まれ、銃弾を浴び続ける。
「うぁあああ、あつうううくない。熱くない!痛くない」
銃弾は弾き、ロケット弾が着弾しても衝撃を受け止め、大きな火炎はたちまち沈火した。
この着ぐるみは、鎧?プロテクター?なんなんだ?ピックリンポックリン・小早川は、腕を振り上げた。放たれた銃弾が跳ね返り、A国の兵士を貫く。
そのあとは、惨状だった。ピックリンポックリン・小早川は着ぐるみの力を確信した。A国・B国問わず、皆殺しにした。悲惨な光景だった。砂浜は地獄絵図と化していた。
両国が争っていた理由、それは領土問題ではなかった。戦争兵器としてのピックリンポックリン着ぐるみを手中に収めることだった。
「ってストーリーで、どうですか?ヒーロの誕生のエピソードとしては、サイコーだと思うんですよ」
「ハナちゃん、怖いこと考えるよねぇ」
着ぐるみショーの控え室で、ハナは今度の漫画のストーリーを仲間の谷口に説明していた。
出番を終えた男が控え室に戻ってきた。
「ねぇ、ほら、小早川さんの名前使わせてもらっちゃった。いいでしょ」
「俺のこと、漫画に?ダメですよ。やめてください」
「あ、うん、ごめんね。わかったわかった」
小早川は休憩せずに控え室を出て行った。
「あいつ、感じわるいよな」
「小早川くんのこと?そうなんだよね、この前、泥だらけのピックリンポックリン着て事務所に来たらしいのよね。泥だらけだから、洗ってもらおうかって言ったんだけど、脱がないのよ。着ぐるみ」
「変なヤツだな」
「それから、ずっとよ。ずっと脱がないのよ」
「だからこんな話を思いついたのか?」
「そうでもなきゃ、ずっと着ぐるみ着てることの説明つかないもの」
谷口はタバコに火をつけた。
「谷口さん、ここ禁煙。タバコは喫煙所よ」
谷口はタバコの火を消して、そのまま口にくわえた。
「単に、ピックリンポックリンがすきなだけじゃないの」
そう言い放ち、谷口は喫煙所に向かった。
小早川は、喫煙所で着ぐるみを着たまま器用にタバコを吸っていた。遠くから、小早川を狙う狙撃兵から銃弾が放たれた。谷口の頭に命中しそうになった。間一髪で、ピックリンポックリン・小早川が谷口を隠すように抱き寄せた。銃弾はピックリンポックリン・小早川の背中に命中したが、弾き返した。
「な、なんだよ。おまえ」
谷口は咥えていたタバコを落とした。
「なんでもないっす」
ピックリンポックリン・小早川は谷口が落としたタバコを拾って、渡した。
「いらねぇよ、落ちたタバコは」
「谷口さん、エリミネイト ウォーって意味わかります」
「知らねぇよ、俺に英語聞くなよ」
「戦争をなくす、って意味ですよ」
ピックリンポックリン・小早川は二本目のタバコに火をつけた。
「次のショー始まるよ、早く早く」
ハナは、二人を喫煙所まで迎えに来た。谷口は着ぐるみの頭をかぶるために、急いで控え室に戻った。
ピックリンポックリン・小早川は吸い始めたタバコの火を消した。
「Peace is far away だな」
「どういう意味よ」
ハナは言った。
「平和は遠いなぁ、ってことだよ」
小早川はポツリとつぶやき、喫煙所を後にした。
「Peace is hard to come by よ。」
ハナは消え切っていないタバコをもみ消して、小早川のあとを追いかけた。
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