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第39話 お引越しとJLJの始動
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斎藤社長とホタルと三人で、不動産屋さんの案内により引っ越し先の見学に訪れている。
山手線の外側にはなるが、都内で百五十坪の土地と事務所として使えるスペース。
二世帯住宅仕様で、二階部分が二軒の住居となっている。
それぞれ2LDKでとても広く綺麗だ。
駐車場も五台分のスペースがあるので、俺もホタルも一目で気に入った。
「斎藤社長、ここは家賃どれくらいするんですか?」
「一月辺りは百二十万円ですね。購入すれば二億五千万円です」
「当面は賃貸でお願いします。様子を見て購入するかどうかは考えましょう」
「解りました。賃貸の場合初期費用が総額で一千二百万円ほどになります」
「了解です。斎藤社長に一億円ほど預けておきますので適宜使って下さい」
一階部分は事務所スペースとしても使える三十畳ほどもあるリビングルームと書斎が二部屋とトイレとキッチンがある。
書斎のうちの一部屋は斎藤社長に使ってもらうことにしたけど、基本は今までの司法書士事務所に滞在するんだって。
いきなり今までの顧客との契約を全部一方的に打ち切る訳にもいかないので、当面は司法書士としての業務も継続するためだ。
一応、顧客にはすべて連絡をして、更新のタイミングで順次、他の司法書士さんを紹介するそうだ。
会社としての登記などは、それこそ斎藤社長の得意分野だから何も問題無く契約を終える。
「社長、とりあえず会社の口座でFXの取引を実行できるように準備していただけますか?」
「了解しました。勝算は? あるんでしょうね……」
「勿論です。その辺りは一応内緒で……」
「解りました。JLJとして行う事業ですが、当面はそのFX取引以外には何をやるんでしょうか?」
「カージノ王国に家電製品を流通させたいと思います。その為にはカージノに発電設備から整えなければならないんですが、あの国には魔石と言うモンスターから取れる動力源があるので、それを使った発電を考えています」
「いきなり、凄い大事業ですね。それなら、ジョイントベンチャーにするべきです」
「それって、他の企業と一緒にやるって事ですよね?」
「そうです」
「主導権を取れないんじゃ意味がないから、あんまり他の企業と一緒っていうのは考えて無いんですよね」
「仰ることは凄く理解できますが、発電事業の実現となると、もっとも重要なのは、送電設備を整えることになります。電気を生み出して終わりではありませんから、その辺りのノウハウを持つ所の協力は必須だとは思いませんか?」
「斎藤社長! 既存の仕組みにとらわれ過ぎですね」
「えっ? と、言われると」
「あの国では、既に動力源としての魔石の活用は現実化しています。俺の見たことがあるのは、川を移動する客船に搭載してある、魔石エネルギーで動く船なんですけど、とても静かで五十人ほどの乗客を乗せても、川を下流から上流へ向けて、結構な速度で運行していました。しかもその魔石エンジンとも言える部分のサイズは、精々原付バイクのエンジンほどの大きさでした。それを日本でも普通に売っているような、簡易発電機で置き換えて考えれば、百アンペア程度の能力を出す発電機は十分に作れると思ってます」
「それは、凄いですね。それなら各家庭でその発電機を導入すれば、インフラの整備は必要無いということですか?」
「そうなりますね。外観を損なう電柱や電線も変圧施設も必要がなくなれば、一気に広めることもできるし、大規模停電などのリスクも考えなくていいのでは無いでしょうか?」
「逆にこちらの世界にその常識を持ち込めば、エネルギー事情は根本的に変わりますよ……」
「でしょ? 石油だ原子力だという時代は終わります。そして、それを世界に広げるのがJLJになるんです」
「しかし……一つ問題があります。その魔石ですが現状ではカージノ王国でしか産出されないわけですよね? 世界の需要を満たせるほどの魔石は確保できるのでしょうか?」
「そこは未知数ですが恐らくカージノ大陸に限定した場合は何も問題は無いと思います」
「では当面はカージノでの電力の普及と家電製品の流通を考えていくという方向性でいいですね。しかし……日本を含めて世界に流通するとなると、既得権益を所持する電力会社などはパニックになるかも知れませんね。何十兆円もかけてきた配電設備が全て無用の長物になるのですから」
「後は先程、島長官から連絡があった内容なのですが、フィリピン海でサメ型のモンスターが現れたらしいのです。今後地球上にモンスターが現れる可能性は非常に高いと思われます。それは、とても危険な状況ではありますが、魔石の事を思えば凄い可能性でもあるんじゃないでしょうか?」
「ですが……その事実は、カージノ王国を悪者にしてしまう事態になりませんか? 地球外生物を連れて来て、地球を危機に陥れたと」
「カージノを悪者にすることは簡単ですが、モンスターを退治していくためには、スキルの能力は必須になります。その能力は現状ではカージノでしか成長させることはできません、そうなると地球の各国はカージノと協力体制を築くしか生き残れないんじゃないでしょうか? カージノ大陸では遥か昔から、モンスターは存在しています。その中でモンスターと戦いながらも、人々は生活をしています。例えばアフリカの大地で野獣と戦いながら暮らしている民族と比べればそんなに違いは無いのではないでしょうか?」
「理屈では、確かに間違っていないのでしょうが、平和に慣れ親しんだ文明社会のど真ん中にモンスターが現れるとなれば、随分と条件も変わってきますよ? カージノ大陸の街のようにモンスターが現れることを前提とした街づくりは地球では行っていませんから」
「た、確かに……しかし、すでに事態は動き始めているので、起こった現象に対して対応していくしか無いのではないでしょうか」
「先輩……なんだか、先輩ってそんな難しい事考えるような性格じゃ無かった気がしますけど、変わりましたよね?」
「ホタル、それはやっぱりって言うか、恐らくステータスの上昇が、そんな考えを巡らさせてるんだと思うな。どうせなら、出来るだけ多くの人が幸せになれる手段を考えなきゃな」
「小栗さん。少なくとも日本は、いえ、日本人はカージノを受け入れる土台があると思います」
「それは、ファンタジー世界としてでしょうか?」
「そうですね。エルフや獣人達と実際に出会えることを、積極的にアピールして、友好的な関係を民間レベルで築き上げれば、状況は好転できます。小栗さんの持つコネクションで、その辺りも取り掛かれないでしょうか?」
「なるほど……それは全く不可能というわけでは無さそうですね。『ダービーキングダム』のジョンソン船長や、俺が船で出会った爺ちゃん達を仲間に出来れば、カージノツアーも現実的になるかも知れません」
「とりあえずは、小栗さんが船で出会って名刺交換をされた方達と、一度話されてみれば、いいヒントがいただけるかもしれません。あの方々は企業のトップとして長年社会に貢献されてきたのですから、お話しをされれば必ずヒントは浮かぶと思います」
「解りました。早速連絡を取りたいと思います」
事務所の契約が終わり、一度、斎藤社長も司法書士事務所に戻られたので、俺はホタルと、それぞれの家の引っ越し準備を始めることにした。
俺の部屋へは、転移でそのまま行けばいいが、ホタルの家には行った事が無いので、荷物を取りに行くのは一度行かなきゃならないんだよな。
「ホタル、実家はお母さんだけなんだろ? 荷物は持ってこなきゃならない物とかあるのか?」
「うーん。あると言えばあるんですけど、昨日の電話した感じだと、行けば面倒ごとも付いてくるような気がするんですよね。この際だから、必要なものはすべて買い替えるじゃ駄目ですか?」
「あー、そうだったな。ホタルは個人のFX口座って持ってるのか?」
「はい、一応ありますよ。ポジションは持って無いです」
「とりあえずホタルの必要なものは、俺が立て替えて置くから、FXで稼いでから返してくれればいいぞ。JLJの口座で始める前の実験もかねてやってみよう」
「解りました。楽しみですね。でも先輩もこの部屋の荷物は全部新しく買い替えたほうがいいんじゃないですか? 一応住民票なんかは今までのマンションにしたままの方が、足がつきにくいって言うか不要な突撃を回避できそうだし」
「それもそうだな。じゃぁ必要なものは全部新しく買っちまおう。でも、買い物とか出回ると、俺達の顔って結構テレビとかでも放送されてたから面倒な事にならないかな?」
「うーん……どうでしょ? 無いとは言えないですね。でも、それだったら、コーディネーターの人に丸投げで頼むっていうのもありかも知れませんね」
「コーディネーターとかいう職業に、俺は全然心当たりがないから、ホタルに任せていいか?」
「解りました。それこそネットで検索すればすぐに見つかりますよ」
「じゃぁ、俺は船で知り合った爺ちゃん達に連絡を取って置くな」
「はーい」
俺が連絡を取ったのは、先日のテレビの特別番組にも呼ばれていた大崎さんという建設会社の元会長だ。
年齢は七十歳だったかな?
『もしもし大崎さんでしょうか? 『ダービーキングダム』でお世話になった小栗です。覚えてらっしゃいますか?』
『おお、勿論覚えているとも。小栗君。無事に帰って来られたようで、安心しておったぞ。わしも連絡をつけたいと思っていたところだ』
『少し、相談したい事がありまして、お会いできないでしょうか』
『勿論構わんぞ。今日でも構わないが、そうだ夕食を一緒に取ろうじゃないか』
『はい、構いません。何時にどこに向かえばいいでしょうか?』
『君は一人か? それとも、あのお嬢さんも一緒かな?』
『一緒に伺わせて頂こうと思います』
『そうか、それではグランドハイアットのレストランで予約をしておこう。時間はそうだな十八時からで構わないかね?』
『はい、大丈夫です』
『一人だけ連れて行っても構わないか? 君にどうしても会いたいと言って、わしの所にも頻繁に連絡をくれる人物が居てな』
『えーと、どのような方ですか? 島長官と色々約束してますので、国外の絡みがあったりすると、無理なんですが』
『それは大丈夫だ。前にテレビ番組で出会った、創作作家の青年でな。夢幻というペンネームで活動している者だ。中々に良い奴だぞ』
『夢幻さんですか。私も著作は何冊か拝見しています。ぜひお会いしたいですね』
『そりゃよかった。それでは今日の夜は楽しみにしているぞ』
電話を終えて、ホタルに知らせると、ホタルもびっくりしていた。
「夢幻さんと一緒にお食事ですか? 本にサインして貰わなきゃ。新しい本何冊か買って行きましょう!」
「ホタルも意外にミーハーなんだな」
「だって、この間の番組で姿見たけど、カッコよかったじゃないですか。あ、コーディネーターの人もすぐに見つかったんで、昼過ぎに、こちらに伺われるそうです。部屋を見てコーディネートを決めたいということですから」
「随分話が早いな。コーディネーターって暇なのかな?」
「どうなんでしょ? そんなに忙しそうには無いですけど……」
昼過ぎに、コーディネーターの人が家へと訪れた。
真っ赤なポルシェカイエンに乗った中々の美人さんだ。
年齢は俺と同じか少し上くらいかな?
出来る女っぽいメークと派手過ぎないビジネススーツに身を包んでいる。
「初めまして、空間コーディネーターの藤崎と申します」
「あ、初めまして小栗です」
「蘭です。よろしくお願いしますね」
俺は、不動産賃貸業の名刺を差し出した。
「えーと、どんな風に頼んだらいいんでしょうか?」
「大体の、イメージとご予算を言って頂ければ、後はお任せで構いませんよ? 勿論、イメージが纏まれば一度、確認をしていただいてから、購入と設置は行いますので」
「俺、全然解んないですから、藤崎さんがこの家を見たイメージでまとまりのある感じにコーディネートしてくだされば構いません。予算は……検討つかないんですけど、どれくらいが妥当ですか? 松、竹、梅で提示して貰えば解りやすいです」
「先輩……松竹梅って、何時代の人ですか……えーと私は、白が基調の地中海風なイメージでお願いしますね」
「かしこまりました。それでは、先にお部屋の確認をさせていただきますね。先輩と呼ばれてましたが、お二人は婚約者だとか恋人関係とかでは無いのでしょうか?」
「「違います!」」
なぜか声が揃ってしまった。
「解りました。でも、息はピッタリのようですね」とほほ笑んでいた。
藤崎さんが一時間程メジャーでサイズを計ったりしながら、メモに書き込んで行っていた。
「一応の目安の金額が出ましたので、お伝えしますね、松で三千万円、竹で千五百万円、梅で五百万円というところでしょうか。高級住宅三軒分に匹敵する広さがありますから、その辺りが妥当な所だと思います」
俺はその金額を聞いて「松でお願いします!」と頼んだ。
藤崎さんは、ちょっとびっくりした感じだったが「かしこまりました。早速手配させていただきます」と素敵な笑顔で返事をしてくれた。
「先輩、藤崎さん好みのタイプなんでしょ? 目がいやらしいですよ?」
「な……確かに好みのタイプではあるが、下心なんか無いからな少ししか……」
「あら、私はまだ独身ですので、お誘いいただければ、お食事程度でしたら喜んでご一緒させて頂きますわ」
「先輩! 脈ありそうですよ。頑張ってください」
「ホタル、絶対からかってるなお前……」
俺が頼んだ松コースにあわせて、コーディネートを一日で纏めて来ると言われて、藤崎さんは帰って行かれた。
山手線の外側にはなるが、都内で百五十坪の土地と事務所として使えるスペース。
二世帯住宅仕様で、二階部分が二軒の住居となっている。
それぞれ2LDKでとても広く綺麗だ。
駐車場も五台分のスペースがあるので、俺もホタルも一目で気に入った。
「斎藤社長、ここは家賃どれくらいするんですか?」
「一月辺りは百二十万円ですね。購入すれば二億五千万円です」
「当面は賃貸でお願いします。様子を見て購入するかどうかは考えましょう」
「解りました。賃貸の場合初期費用が総額で一千二百万円ほどになります」
「了解です。斎藤社長に一億円ほど預けておきますので適宜使って下さい」
一階部分は事務所スペースとしても使える三十畳ほどもあるリビングルームと書斎が二部屋とトイレとキッチンがある。
書斎のうちの一部屋は斎藤社長に使ってもらうことにしたけど、基本は今までの司法書士事務所に滞在するんだって。
いきなり今までの顧客との契約を全部一方的に打ち切る訳にもいかないので、当面は司法書士としての業務も継続するためだ。
一応、顧客にはすべて連絡をして、更新のタイミングで順次、他の司法書士さんを紹介するそうだ。
会社としての登記などは、それこそ斎藤社長の得意分野だから何も問題無く契約を終える。
「社長、とりあえず会社の口座でFXの取引を実行できるように準備していただけますか?」
「了解しました。勝算は? あるんでしょうね……」
「勿論です。その辺りは一応内緒で……」
「解りました。JLJとして行う事業ですが、当面はそのFX取引以外には何をやるんでしょうか?」
「カージノ王国に家電製品を流通させたいと思います。その為にはカージノに発電設備から整えなければならないんですが、あの国には魔石と言うモンスターから取れる動力源があるので、それを使った発電を考えています」
「いきなり、凄い大事業ですね。それなら、ジョイントベンチャーにするべきです」
「それって、他の企業と一緒にやるって事ですよね?」
「そうです」
「主導権を取れないんじゃ意味がないから、あんまり他の企業と一緒っていうのは考えて無いんですよね」
「仰ることは凄く理解できますが、発電事業の実現となると、もっとも重要なのは、送電設備を整えることになります。電気を生み出して終わりではありませんから、その辺りのノウハウを持つ所の協力は必須だとは思いませんか?」
「斎藤社長! 既存の仕組みにとらわれ過ぎですね」
「えっ? と、言われると」
「あの国では、既に動力源としての魔石の活用は現実化しています。俺の見たことがあるのは、川を移動する客船に搭載してある、魔石エネルギーで動く船なんですけど、とても静かで五十人ほどの乗客を乗せても、川を下流から上流へ向けて、結構な速度で運行していました。しかもその魔石エンジンとも言える部分のサイズは、精々原付バイクのエンジンほどの大きさでした。それを日本でも普通に売っているような、簡易発電機で置き換えて考えれば、百アンペア程度の能力を出す発電機は十分に作れると思ってます」
「それは、凄いですね。それなら各家庭でその発電機を導入すれば、インフラの整備は必要無いということですか?」
「そうなりますね。外観を損なう電柱や電線も変圧施設も必要がなくなれば、一気に広めることもできるし、大規模停電などのリスクも考えなくていいのでは無いでしょうか?」
「逆にこちらの世界にその常識を持ち込めば、エネルギー事情は根本的に変わりますよ……」
「でしょ? 石油だ原子力だという時代は終わります。そして、それを世界に広げるのがJLJになるんです」
「しかし……一つ問題があります。その魔石ですが現状ではカージノ王国でしか産出されないわけですよね? 世界の需要を満たせるほどの魔石は確保できるのでしょうか?」
「そこは未知数ですが恐らくカージノ大陸に限定した場合は何も問題は無いと思います」
「では当面はカージノでの電力の普及と家電製品の流通を考えていくという方向性でいいですね。しかし……日本を含めて世界に流通するとなると、既得権益を所持する電力会社などはパニックになるかも知れませんね。何十兆円もかけてきた配電設備が全て無用の長物になるのですから」
「後は先程、島長官から連絡があった内容なのですが、フィリピン海でサメ型のモンスターが現れたらしいのです。今後地球上にモンスターが現れる可能性は非常に高いと思われます。それは、とても危険な状況ではありますが、魔石の事を思えば凄い可能性でもあるんじゃないでしょうか?」
「ですが……その事実は、カージノ王国を悪者にしてしまう事態になりませんか? 地球外生物を連れて来て、地球を危機に陥れたと」
「カージノを悪者にすることは簡単ですが、モンスターを退治していくためには、スキルの能力は必須になります。その能力は現状ではカージノでしか成長させることはできません、そうなると地球の各国はカージノと協力体制を築くしか生き残れないんじゃないでしょうか? カージノ大陸では遥か昔から、モンスターは存在しています。その中でモンスターと戦いながらも、人々は生活をしています。例えばアフリカの大地で野獣と戦いながら暮らしている民族と比べればそんなに違いは無いのではないでしょうか?」
「理屈では、確かに間違っていないのでしょうが、平和に慣れ親しんだ文明社会のど真ん中にモンスターが現れるとなれば、随分と条件も変わってきますよ? カージノ大陸の街のようにモンスターが現れることを前提とした街づくりは地球では行っていませんから」
「た、確かに……しかし、すでに事態は動き始めているので、起こった現象に対して対応していくしか無いのではないでしょうか」
「先輩……なんだか、先輩ってそんな難しい事考えるような性格じゃ無かった気がしますけど、変わりましたよね?」
「ホタル、それはやっぱりって言うか、恐らくステータスの上昇が、そんな考えを巡らさせてるんだと思うな。どうせなら、出来るだけ多くの人が幸せになれる手段を考えなきゃな」
「小栗さん。少なくとも日本は、いえ、日本人はカージノを受け入れる土台があると思います」
「それは、ファンタジー世界としてでしょうか?」
「そうですね。エルフや獣人達と実際に出会えることを、積極的にアピールして、友好的な関係を民間レベルで築き上げれば、状況は好転できます。小栗さんの持つコネクションで、その辺りも取り掛かれないでしょうか?」
「なるほど……それは全く不可能というわけでは無さそうですね。『ダービーキングダム』のジョンソン船長や、俺が船で出会った爺ちゃん達を仲間に出来れば、カージノツアーも現実的になるかも知れません」
「とりあえずは、小栗さんが船で出会って名刺交換をされた方達と、一度話されてみれば、いいヒントがいただけるかもしれません。あの方々は企業のトップとして長年社会に貢献されてきたのですから、お話しをされれば必ずヒントは浮かぶと思います」
「解りました。早速連絡を取りたいと思います」
事務所の契約が終わり、一度、斎藤社長も司法書士事務所に戻られたので、俺はホタルと、それぞれの家の引っ越し準備を始めることにした。
俺の部屋へは、転移でそのまま行けばいいが、ホタルの家には行った事が無いので、荷物を取りに行くのは一度行かなきゃならないんだよな。
「ホタル、実家はお母さんだけなんだろ? 荷物は持ってこなきゃならない物とかあるのか?」
「うーん。あると言えばあるんですけど、昨日の電話した感じだと、行けば面倒ごとも付いてくるような気がするんですよね。この際だから、必要なものはすべて買い替えるじゃ駄目ですか?」
「あー、そうだったな。ホタルは個人のFX口座って持ってるのか?」
「はい、一応ありますよ。ポジションは持って無いです」
「とりあえずホタルの必要なものは、俺が立て替えて置くから、FXで稼いでから返してくれればいいぞ。JLJの口座で始める前の実験もかねてやってみよう」
「解りました。楽しみですね。でも先輩もこの部屋の荷物は全部新しく買い替えたほうがいいんじゃないですか? 一応住民票なんかは今までのマンションにしたままの方が、足がつきにくいって言うか不要な突撃を回避できそうだし」
「それもそうだな。じゃぁ必要なものは全部新しく買っちまおう。でも、買い物とか出回ると、俺達の顔って結構テレビとかでも放送されてたから面倒な事にならないかな?」
「うーん……どうでしょ? 無いとは言えないですね。でも、それだったら、コーディネーターの人に丸投げで頼むっていうのもありかも知れませんね」
「コーディネーターとかいう職業に、俺は全然心当たりがないから、ホタルに任せていいか?」
「解りました。それこそネットで検索すればすぐに見つかりますよ」
「じゃぁ、俺は船で知り合った爺ちゃん達に連絡を取って置くな」
「はーい」
俺が連絡を取ったのは、先日のテレビの特別番組にも呼ばれていた大崎さんという建設会社の元会長だ。
年齢は七十歳だったかな?
『もしもし大崎さんでしょうか? 『ダービーキングダム』でお世話になった小栗です。覚えてらっしゃいますか?』
『おお、勿論覚えているとも。小栗君。無事に帰って来られたようで、安心しておったぞ。わしも連絡をつけたいと思っていたところだ』
『少し、相談したい事がありまして、お会いできないでしょうか』
『勿論構わんぞ。今日でも構わないが、そうだ夕食を一緒に取ろうじゃないか』
『はい、構いません。何時にどこに向かえばいいでしょうか?』
『君は一人か? それとも、あのお嬢さんも一緒かな?』
『一緒に伺わせて頂こうと思います』
『そうか、それではグランドハイアットのレストランで予約をしておこう。時間はそうだな十八時からで構わないかね?』
『はい、大丈夫です』
『一人だけ連れて行っても構わないか? 君にどうしても会いたいと言って、わしの所にも頻繁に連絡をくれる人物が居てな』
『えーと、どのような方ですか? 島長官と色々約束してますので、国外の絡みがあったりすると、無理なんですが』
『それは大丈夫だ。前にテレビ番組で出会った、創作作家の青年でな。夢幻というペンネームで活動している者だ。中々に良い奴だぞ』
『夢幻さんですか。私も著作は何冊か拝見しています。ぜひお会いしたいですね』
『そりゃよかった。それでは今日の夜は楽しみにしているぞ』
電話を終えて、ホタルに知らせると、ホタルもびっくりしていた。
「夢幻さんと一緒にお食事ですか? 本にサインして貰わなきゃ。新しい本何冊か買って行きましょう!」
「ホタルも意外にミーハーなんだな」
「だって、この間の番組で姿見たけど、カッコよかったじゃないですか。あ、コーディネーターの人もすぐに見つかったんで、昼過ぎに、こちらに伺われるそうです。部屋を見てコーディネートを決めたいということですから」
「随分話が早いな。コーディネーターって暇なのかな?」
「どうなんでしょ? そんなに忙しそうには無いですけど……」
昼過ぎに、コーディネーターの人が家へと訪れた。
真っ赤なポルシェカイエンに乗った中々の美人さんだ。
年齢は俺と同じか少し上くらいかな?
出来る女っぽいメークと派手過ぎないビジネススーツに身を包んでいる。
「初めまして、空間コーディネーターの藤崎と申します」
「あ、初めまして小栗です」
「蘭です。よろしくお願いしますね」
俺は、不動産賃貸業の名刺を差し出した。
「えーと、どんな風に頼んだらいいんでしょうか?」
「大体の、イメージとご予算を言って頂ければ、後はお任せで構いませんよ? 勿論、イメージが纏まれば一度、確認をしていただいてから、購入と設置は行いますので」
「俺、全然解んないですから、藤崎さんがこの家を見たイメージでまとまりのある感じにコーディネートしてくだされば構いません。予算は……検討つかないんですけど、どれくらいが妥当ですか? 松、竹、梅で提示して貰えば解りやすいです」
「先輩……松竹梅って、何時代の人ですか……えーと私は、白が基調の地中海風なイメージでお願いしますね」
「かしこまりました。それでは、先にお部屋の確認をさせていただきますね。先輩と呼ばれてましたが、お二人は婚約者だとか恋人関係とかでは無いのでしょうか?」
「「違います!」」
なぜか声が揃ってしまった。
「解りました。でも、息はピッタリのようですね」とほほ笑んでいた。
藤崎さんが一時間程メジャーでサイズを計ったりしながら、メモに書き込んで行っていた。
「一応の目安の金額が出ましたので、お伝えしますね、松で三千万円、竹で千五百万円、梅で五百万円というところでしょうか。高級住宅三軒分に匹敵する広さがありますから、その辺りが妥当な所だと思います」
俺はその金額を聞いて「松でお願いします!」と頼んだ。
藤崎さんは、ちょっとびっくりした感じだったが「かしこまりました。早速手配させていただきます」と素敵な笑顔で返事をしてくれた。
「先輩、藤崎さん好みのタイプなんでしょ? 目がいやらしいですよ?」
「な……確かに好みのタイプではあるが、下心なんか無いからな少ししか……」
「あら、私はまだ独身ですので、お誘いいただければ、お食事程度でしたら喜んでご一緒させて頂きますわ」
「先輩! 脈ありそうですよ。頑張ってください」
「ホタル、絶対からかってるなお前……」
俺が頼んだ松コースにあわせて、コーディネートを一日で纏めて来ると言われて、藤崎さんは帰って行かれた。
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