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第26話 ポーラ王女
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「この星の文明や人々を自分の眼で見て、その上でどう付き合っていくのがいいのかを考えたいと思うのです。同じ星に暮らす以上お父様の仰るように、完全に付き合いを断つということは難しいのでは無いでしょうか?」
「それは、一理あるとは思うが、アズマはどう思う」
「知ることは良い事だと思いますが、王女がこの大陸の外に出た場合、各国が放っておくわけもないと思います。必ずしも友好的に接してくる国ばかりでもありませんので」
「アズマよ。ポーラを守って、世界を見せて回る事はアズマなら可能なのではないか?」
「出来なくはないですが、俺の立ち位置が難しくないですか?」
「どういうことだ?」
「公的には俺はただの日本人の一般庶民です。その俺がカージノ王国の王女をエスコートして世界を見て回るのは、不自然すぎます」
「それならば、この国の貴族としてならどうだ? アズマはこの世界の陞爵基準は満たしておるのだし、勇者のスキルを女神から直接に授かった、カージノの建国の父であるイースト王と同じ存在だ。ポーラと共にこの国の貴族としてであれば、他の国もそれなりに遇するのではないか?」
「そうですね……私のパートナーであるホタルと言う女性がいるのですが、彼女を通訳として付き添わせて、私は日本人のアズマ・オグリとしれでなく、この国の貴族として護衛を行うのであれば、不自然ではないかもしれませんね」
「アズマ? そのホタルはアズマの恋人なの? パートナーって事は奥さん?」
「ポーラ王女。残念ながらどちらでもなく、ただの後輩です」
「後輩? どういう意味かな?」
「後輩は、同じ学校や職場で自分より後に入って来た者を示す言葉ですね。この国にはない表現でしたか?」
俺がそう伝えると、ポーラ王女は少し表情が嬉しそうだった。
「アズマ、私、ホタルに会いたいわ。連れて来てもらえるかしら?」
「私からも頼もう。ポーラと一緒に行動をしてもらう者を、私が知らないというわけにもいかないのでな」
ポーラ王女とシリウス王から頼まれたので「一応、本人に伝えて見ますが、必ずいい返事が貰えるというわけでも無いですよ?」
「じゃぁ、私をホタルの所へ連れて行って。私がちゃんとお願いするわ」
「シリウス陛下、構わないですか?」
「うむ、連れて行ってくれ。話が決まれば一度ここにホタルも連れて来てくれ、出発前にアズマの陞爵と共に、ホタルにも公的な立場を用意しよう」
俺はポーラ王女の手を取り、ギャンブリーの街の屋敷へと転移を行った。
ポーラ王女には俺の部屋で少し待っていてもらう事にして、俺はリビングへと顔を出す。
六人が全員揃っていて、それぞれの立場で必要な場所への連絡などを行っていた。
「アズマ。戻って来たのか。どうだった? 王と話は出来たのか?」
「はい。この国としては当面、地球の他の国家との公的な接触を行うつもりはないという事でした」
「そうか……だが世界のリーダーとして振舞いたい国からしてみたら『はい、そうですか』というわけには行かないだろうな。俺達が国の考え方をどうするべきだ、とか言うわけにもいかないが……」
「隊長たちは、今後どうするのかは決めたのですか?」
「俺とミッシェルは『パーフェクトディフェンダーズ』社が、この国に対しての連絡員として残ってくれと言ってきているので、その要請を受けようと思う。アズマが居ればこの国の王と連絡を取る事も不可能ではないだろうし、カールとダニエルはここを出たいそうだ。アダムはこの国に美味い料理を広めたいと言っている」
「アダムさんは助かりますね。こっちにいると味気足りない料理が多いので、調味料なんかは俺が用意できるから。ダニエルさんとカールさんはどうやって戻りますか? 俺が送ると簡単ですけど、それだと能力の問題で少し話がめんどくさそうなので」
「結界はどうなってるんだ? 外から入って来る事は出来なくても、中から出て行く事は出来るのか?」
「どうでしょう。ちょっとこの国の人に聞きましょう。一人お客さん連れて来てますので」
そう言って俺は部屋からポーラ王女を連れて来た。
「初めまして。カージノ王国の第一王女。ポーラです」
「先輩……王女様さらって来たんですか?」
「人聞きの悪い事を言うな。王女が自分の意志でホタルに会いたいと言ってついて来たんだ」
「なんで私?」
「あなたがホタルね。勇者アズマのパートナーに会いたくて付いてきました」
「先輩? なんか面倒な話にならないでしょうね?」
「なかなか鋭いな。だがその話はあとだ。先にさっきの結界の事とか聞こう。ポーラ王女、結界はこっちから外に出るのは問題無いのか?」
「大陸を覆う結界は、お告げカードの所持者であれば、通り抜ける事ができます」
「ポーラ王女。結界の発動は、オグリーヌがしたんじゃないの?」
「今回はオグリーヌ様が、自らのご意志で施されていますが、普段はというか今までは、結界の発動の必要が起こった場合、オグリーヌ様の血を引く王族が神殿に結界の発動を頼みに伺っいました」
「それってどう言う時?」
「カージノ大陸以外の国家と戦争が起こりそうな状況になった時ですね。初代様の時代からカージノ王国は、一度も他国との戦争を起こしていませんので、侵略を受けそうになれば、結界を張って国を閉ざすことで戦争を避けていました」
「王女? 一つ聞いていいか?」
「なんでしょう」
「オグリーヌってあの星全体でなくて、カージノ大陸だけの神様なのか?」
「元々は、あの星『ターフスタリオン』の創造神様でしたが、カージノ王国を先代勇者であるイースト様が建国する際に一度、人になられたのです。イースト様の子を成すために。その時に神の居ない状況を作るのは良くないと、ご自身の骨から創造された十二人の使徒に神格を持たされました。しかし、イースト様が寿命を迎えられる頃には、十二人の使徒が互いに争いを始める世界になっていたのです。イースト様が亡くなられてからは、神格を取り戻され、十二人の使徒たちに『そんなに争いたいなら生涯競争していればよい、人に迷惑をかけるな』と言われ、現在の馬獣人の使徒たちの始祖にされたのです」
「元は全てオグリーヌの一部だって事か」
「カージノ大陸以外の国々は、その時に各国が争う戦国の世に突入したまま、使徒であった十二神がオグリーヌ様によって競走馬獣人にされた後も、争い続けました。中には戦力を広げカージノ大陸に挑む国もありましたので「相手にするのも馬鹿らしい」と言われて、結界を張られて侵入を妨げるようになったのです」
「今の神殿で行われてる競争が十二頭立てなのは、それが理由?」
「そうですね。三千年の間に血統は混ざり合っていますが、元々は各使徒の血を色濃く継ぐ者が、それぞれの担当した地域の誇りをかけて競争をしていたのです」
「へぇ。思ったよりも、ちゃんとした理由があったんだな」
「現在は大陸は王都を中心にして、十二の地域に別れています。それぞれの地域に厩舎と神殿があり、各地区のチャンピオンになった使徒が集まって年末のグランプリ競争が行われるのです。その結果により地域の税制優遇が変わったりしますので、それぞれの地区で使徒である馬娘たちの育成に力を入れるのです」
「なるほどねぇ、俺が思っていた以上に馬娘たちの競争が大きなイベントなんだな」
結局、カールさんとダニエルさんの二人はこの大陸からでて、祖国へ帰還すると決まり、その際にダニエルさんの持ち物であった、イリジウム電話機はこちらに残していってくれる事になった。
スマホのGPSで座標を調べるとギャンブリーの街は大陸の中で緯度的には中央部分の西の端に当たる事になる。
外洋まで漕ぎ出す訳ではないので、川を上るための魔動機関を搭載した客船に乗り込み、アメリカ艦体の空母と巡洋艦二隻が、近海を巡行していたので、陸地から二海里(三.七四キロメートル)ほどの距離に来てもらうことになった。
結界が新たに定まったカージノ大陸の陸地から三キロメートルほどの距離までを覆っているからだ。
高さは。陸地の形に合わせてプラス千メートルの位置に覆いかぶさるような形で、結界が展開しているらしい。
現時点では二人とも、あいさつ程度しか言葉は理解できないのでこの国との交渉などは不可能だと言い切る事にすると言っていた。
アンドレ隊長とミッシェルが一応船の中に付き添い、ダニエルさんとカールさんの二人を送って行く。
現時点でこちらに残る事を決めている、俺とホタルとアダムさんは、顔を出さない方がいいだろうと、アンドレ隊長が言ったので、その言葉に従う形になった。
アンドレ隊長が、『パーフェクトディフェンダーズ』社を通じて、アメリカ海軍に要望を出していて、イリジウム電話機を追加で四台ほど仕入れてくるそうだから、一応こちらに残る全員分は行き渡る様になる。
まぁかかって来る電話は面倒な案件しか無さそうだから、発信以外では使わない気がするけどな……
「ホタル。私に協力してくれますよね?」
「ポーラ王女。王女と私と先輩だけで、この星の国々を見て回るつもりですか?」
「そうですね。交渉などは私がするべき事ではないと思っていますので、大人数にならない方が望ましいです」
「先輩は確かにチート野郎ですけど、私は言葉がわかる以外の能力は何もないので、護衛で腕の立つ人がもう一人か二人は欲しいですね」
「それは王国の騎士団から優秀な者を連れて行きましょう」
「ホタル。本当いいのか?」
「なんか楽しそうじゃないですか? 新大陸の王女を護衛しながら、世界を巡る旅とか。そんな時代劇が昔ありましたよね? それにヤバいと思えばいつでも転移は出来るんでしょ?」
「大丈夫だとは思うけどな」
「でも、私と先輩の見た目がちょっとダメですね。ぱっと見で小栗東と蘭蛍とわかるような感じだと流石にまずいでしょ?」
「まぁそうだな」
「先輩の家から郊外のショッピングセンターまでって結構近かったですよね?」
「あー、車で三十分はかからなかったな」
「少し買い物に行きましょう」
「何をだよ」
「まぁ任せて下さいって」
「だが流石に王女を連れて行くわけには行かないから、一度王都へ寄ってからだぞ?」
とりあえず屋敷はアダムさんと奴隷の四人に任せて、俺はホタルとポーラ王女を連れて王都へ戻った。
シリウス陛下へ、ホタルを紹介する。
「陛下。彼女が俺のパートナーで『ホタル・アララギ』と言います。戦力はほぼゼロですが、言葉と文字をどこの国のものでも理解できます」
「ふむ。その能力は今までのこの国であれば重要度は低かったが、これからのこの世界では、とても貴重な能力となるな」
「陛下、王女とホタルの二人を守るのでは咄嗟の時に、一人では無理な状況があるかも知れませんので、もう一名人を預けていただけませんか? 出来れば俺の入れない場所、例えば風呂やトイレなどでも護衛の出来る、腕の立つ女性が好ましいのですが」
「そうだな。それでは最初に城に案内させた騎士ザックと、その妹でアインをつけよう。それでよいな?」
「陛下。騎士だと剣を持って付いてくるのですか?」
「当然そうだが?」
「この世界では、ほとんどの国で出歩くときに見えるように武器を持っている人間などいません。モンスターはいませんので。ですので目立たないナイフでの格闘や、魔法を得意とする人間にして欲しいのですが」
「この世界では剣や槍を持ち歩けないのか?」
「そうですね、ほとんどの国で警官、この国では憲兵隊になるのでしょうか? によって武器を押収され拘束されます。態々目立つ必要もありませんので。出来るだけ地球を歩いても不自然でない格好で、お願いしたいので服装も俺達が用意する物に着替えていただきますが、構いませんか?」
「ザックこれへ」
シリウス王に呼ばれて側に控えていたザックがそばへ寄ってきた。
「短剣術と魔法は、アインも問題無いな?」
「はい。アインは暗殺術も極めており、水魔法と風魔法を操りますので条件にはピッタリかと。私も火魔法はレベル三まで扱えますので問題ありません」
物騒な発言が聞こえたけど……大丈夫だよな?
「それは、一理あるとは思うが、アズマはどう思う」
「知ることは良い事だと思いますが、王女がこの大陸の外に出た場合、各国が放っておくわけもないと思います。必ずしも友好的に接してくる国ばかりでもありませんので」
「アズマよ。ポーラを守って、世界を見せて回る事はアズマなら可能なのではないか?」
「出来なくはないですが、俺の立ち位置が難しくないですか?」
「どういうことだ?」
「公的には俺はただの日本人の一般庶民です。その俺がカージノ王国の王女をエスコートして世界を見て回るのは、不自然すぎます」
「それならば、この国の貴族としてならどうだ? アズマはこの世界の陞爵基準は満たしておるのだし、勇者のスキルを女神から直接に授かった、カージノの建国の父であるイースト王と同じ存在だ。ポーラと共にこの国の貴族としてであれば、他の国もそれなりに遇するのではないか?」
「そうですね……私のパートナーであるホタルと言う女性がいるのですが、彼女を通訳として付き添わせて、私は日本人のアズマ・オグリとしれでなく、この国の貴族として護衛を行うのであれば、不自然ではないかもしれませんね」
「アズマ? そのホタルはアズマの恋人なの? パートナーって事は奥さん?」
「ポーラ王女。残念ながらどちらでもなく、ただの後輩です」
「後輩? どういう意味かな?」
「後輩は、同じ学校や職場で自分より後に入って来た者を示す言葉ですね。この国にはない表現でしたか?」
俺がそう伝えると、ポーラ王女は少し表情が嬉しそうだった。
「アズマ、私、ホタルに会いたいわ。連れて来てもらえるかしら?」
「私からも頼もう。ポーラと一緒に行動をしてもらう者を、私が知らないというわけにもいかないのでな」
ポーラ王女とシリウス王から頼まれたので「一応、本人に伝えて見ますが、必ずいい返事が貰えるというわけでも無いですよ?」
「じゃぁ、私をホタルの所へ連れて行って。私がちゃんとお願いするわ」
「シリウス陛下、構わないですか?」
「うむ、連れて行ってくれ。話が決まれば一度ここにホタルも連れて来てくれ、出発前にアズマの陞爵と共に、ホタルにも公的な立場を用意しよう」
俺はポーラ王女の手を取り、ギャンブリーの街の屋敷へと転移を行った。
ポーラ王女には俺の部屋で少し待っていてもらう事にして、俺はリビングへと顔を出す。
六人が全員揃っていて、それぞれの立場で必要な場所への連絡などを行っていた。
「アズマ。戻って来たのか。どうだった? 王と話は出来たのか?」
「はい。この国としては当面、地球の他の国家との公的な接触を行うつもりはないという事でした」
「そうか……だが世界のリーダーとして振舞いたい国からしてみたら『はい、そうですか』というわけには行かないだろうな。俺達が国の考え方をどうするべきだ、とか言うわけにもいかないが……」
「隊長たちは、今後どうするのかは決めたのですか?」
「俺とミッシェルは『パーフェクトディフェンダーズ』社が、この国に対しての連絡員として残ってくれと言ってきているので、その要請を受けようと思う。アズマが居ればこの国の王と連絡を取る事も不可能ではないだろうし、カールとダニエルはここを出たいそうだ。アダムはこの国に美味い料理を広めたいと言っている」
「アダムさんは助かりますね。こっちにいると味気足りない料理が多いので、調味料なんかは俺が用意できるから。ダニエルさんとカールさんはどうやって戻りますか? 俺が送ると簡単ですけど、それだと能力の問題で少し話がめんどくさそうなので」
「結界はどうなってるんだ? 外から入って来る事は出来なくても、中から出て行く事は出来るのか?」
「どうでしょう。ちょっとこの国の人に聞きましょう。一人お客さん連れて来てますので」
そう言って俺は部屋からポーラ王女を連れて来た。
「初めまして。カージノ王国の第一王女。ポーラです」
「先輩……王女様さらって来たんですか?」
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「あなたがホタルね。勇者アズマのパートナーに会いたくて付いてきました」
「先輩? なんか面倒な話にならないでしょうね?」
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「ポーラ王女。結界の発動は、オグリーヌがしたんじゃないの?」
「今回はオグリーヌ様が、自らのご意志で施されていますが、普段はというか今までは、結界の発動の必要が起こった場合、オグリーヌ様の血を引く王族が神殿に結界の発動を頼みに伺っいました」
「それってどう言う時?」
「カージノ大陸以外の国家と戦争が起こりそうな状況になった時ですね。初代様の時代からカージノ王国は、一度も他国との戦争を起こしていませんので、侵略を受けそうになれば、結界を張って国を閉ざすことで戦争を避けていました」
「王女? 一つ聞いていいか?」
「なんでしょう」
「オグリーヌってあの星全体でなくて、カージノ大陸だけの神様なのか?」
「元々は、あの星『ターフスタリオン』の創造神様でしたが、カージノ王国を先代勇者であるイースト様が建国する際に一度、人になられたのです。イースト様の子を成すために。その時に神の居ない状況を作るのは良くないと、ご自身の骨から創造された十二人の使徒に神格を持たされました。しかし、イースト様が寿命を迎えられる頃には、十二人の使徒が互いに争いを始める世界になっていたのです。イースト様が亡くなられてからは、神格を取り戻され、十二人の使徒たちに『そんなに争いたいなら生涯競争していればよい、人に迷惑をかけるな』と言われ、現在の馬獣人の使徒たちの始祖にされたのです」
「元は全てオグリーヌの一部だって事か」
「カージノ大陸以外の国々は、その時に各国が争う戦国の世に突入したまま、使徒であった十二神がオグリーヌ様によって競走馬獣人にされた後も、争い続けました。中には戦力を広げカージノ大陸に挑む国もありましたので「相手にするのも馬鹿らしい」と言われて、結界を張られて侵入を妨げるようになったのです」
「今の神殿で行われてる競争が十二頭立てなのは、それが理由?」
「そうですね。三千年の間に血統は混ざり合っていますが、元々は各使徒の血を色濃く継ぐ者が、それぞれの担当した地域の誇りをかけて競争をしていたのです」
「へぇ。思ったよりも、ちゃんとした理由があったんだな」
「現在は大陸は王都を中心にして、十二の地域に別れています。それぞれの地域に厩舎と神殿があり、各地区のチャンピオンになった使徒が集まって年末のグランプリ競争が行われるのです。その結果により地域の税制優遇が変わったりしますので、それぞれの地区で使徒である馬娘たちの育成に力を入れるのです」
「なるほどねぇ、俺が思っていた以上に馬娘たちの競争が大きなイベントなんだな」
結局、カールさんとダニエルさんの二人はこの大陸からでて、祖国へ帰還すると決まり、その際にダニエルさんの持ち物であった、イリジウム電話機はこちらに残していってくれる事になった。
スマホのGPSで座標を調べるとギャンブリーの街は大陸の中で緯度的には中央部分の西の端に当たる事になる。
外洋まで漕ぎ出す訳ではないので、川を上るための魔動機関を搭載した客船に乗り込み、アメリカ艦体の空母と巡洋艦二隻が、近海を巡行していたので、陸地から二海里(三.七四キロメートル)ほどの距離に来てもらうことになった。
結界が新たに定まったカージノ大陸の陸地から三キロメートルほどの距離までを覆っているからだ。
高さは。陸地の形に合わせてプラス千メートルの位置に覆いかぶさるような形で、結界が展開しているらしい。
現時点では二人とも、あいさつ程度しか言葉は理解できないのでこの国との交渉などは不可能だと言い切る事にすると言っていた。
アンドレ隊長とミッシェルが一応船の中に付き添い、ダニエルさんとカールさんの二人を送って行く。
現時点でこちらに残る事を決めている、俺とホタルとアダムさんは、顔を出さない方がいいだろうと、アンドレ隊長が言ったので、その言葉に従う形になった。
アンドレ隊長が、『パーフェクトディフェンダーズ』社を通じて、アメリカ海軍に要望を出していて、イリジウム電話機を追加で四台ほど仕入れてくるそうだから、一応こちらに残る全員分は行き渡る様になる。
まぁかかって来る電話は面倒な案件しか無さそうだから、発信以外では使わない気がするけどな……
「ホタル。私に協力してくれますよね?」
「ポーラ王女。王女と私と先輩だけで、この星の国々を見て回るつもりですか?」
「そうですね。交渉などは私がするべき事ではないと思っていますので、大人数にならない方が望ましいです」
「先輩は確かにチート野郎ですけど、私は言葉がわかる以外の能力は何もないので、護衛で腕の立つ人がもう一人か二人は欲しいですね」
「それは王国の騎士団から優秀な者を連れて行きましょう」
「ホタル。本当いいのか?」
「なんか楽しそうじゃないですか? 新大陸の王女を護衛しながら、世界を巡る旅とか。そんな時代劇が昔ありましたよね? それにヤバいと思えばいつでも転移は出来るんでしょ?」
「大丈夫だとは思うけどな」
「でも、私と先輩の見た目がちょっとダメですね。ぱっと見で小栗東と蘭蛍とわかるような感じだと流石にまずいでしょ?」
「まぁそうだな」
「先輩の家から郊外のショッピングセンターまでって結構近かったですよね?」
「あー、車で三十分はかからなかったな」
「少し買い物に行きましょう」
「何をだよ」
「まぁ任せて下さいって」
「だが流石に王女を連れて行くわけには行かないから、一度王都へ寄ってからだぞ?」
とりあえず屋敷はアダムさんと奴隷の四人に任せて、俺はホタルとポーラ王女を連れて王都へ戻った。
シリウス陛下へ、ホタルを紹介する。
「陛下。彼女が俺のパートナーで『ホタル・アララギ』と言います。戦力はほぼゼロですが、言葉と文字をどこの国のものでも理解できます」
「ふむ。その能力は今までのこの国であれば重要度は低かったが、これからのこの世界では、とても貴重な能力となるな」
「陛下、王女とホタルの二人を守るのでは咄嗟の時に、一人では無理な状況があるかも知れませんので、もう一名人を預けていただけませんか? 出来れば俺の入れない場所、例えば風呂やトイレなどでも護衛の出来る、腕の立つ女性が好ましいのですが」
「そうだな。それでは最初に城に案内させた騎士ザックと、その妹でアインをつけよう。それでよいな?」
「陛下。騎士だと剣を持って付いてくるのですか?」
「当然そうだが?」
「この世界では、ほとんどの国で出歩くときに見えるように武器を持っている人間などいません。モンスターはいませんので。ですので目立たないナイフでの格闘や、魔法を得意とする人間にして欲しいのですが」
「この世界では剣や槍を持ち歩けないのか?」
「そうですね、ほとんどの国で警官、この国では憲兵隊になるのでしょうか? によって武器を押収され拘束されます。態々目立つ必要もありませんので。出来るだけ地球を歩いても不自然でない格好で、お願いしたいので服装も俺達が用意する物に着替えていただきますが、構いませんか?」
「ザックこれへ」
シリウス王に呼ばれて側に控えていたザックがそばへ寄ってきた。
「短剣術と魔法は、アインも問題無いな?」
「はい。アインは暗殺術も極めており、水魔法と風魔法を操りますので条件にはピッタリかと。私も火魔法はレベル三まで扱えますので問題ありません」
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