美味いだろ?~クランをクビにされた料理人の俺が実は最強~

TB

文字の大きさ
28 / 104

第28話 すっぽんスープ

しおりを挟む
 北へ向かう俺達はお約束の様に襲い掛かられ、それを撃退した。
 フィルに拠って捉えられた、片眼鏡の執事風な男もその場に捕えられている。

「ちょっと話を聞かせて貰うぞ」
「なんでしょうか?」

「何故ナディアじゃないと駄目なんだ?」
「そ、それは……」

「言わないならこのままお前らは纏めて埋める。狙われたのは事実だしな」
「その…… 瞳でございます」

「ナディアの瞳にどんな秘密があるって言うんだ」
「オッドアイを持つエルフは…… 人との子を成す事が出来るのです」

「それじゃぁお前らはこの子を手に入れて、強制的に人とのハーフエルフを作ろうとしたって言う訳か?」
「そうです…… 女性のエルフはその長命な寿命と引き換えに、本来一生に一人の子を成す事しか出来ません。それがこの世界でエルフが増えない原因にもなっています。ですがオッドアイを持つ者だけは、他種族間であれば複数の子を成す事が出来るのです。その場合その子供は、寿命は人と変わらないのですが、精霊術を駆使出来たり容姿の美しさは、エルフと変わりありません。そしてハーフエルフとエルフの子はエルフとして生まれます。ですから…… 私どもの行おうとした行為は、決して人族の欲望だけでは無く、エルフ族の人口増加に必要な行為なのです」

「それが本当だとしても、ナディアの気持ちを無視して一方的にそう言う行為を強制させるという考え方に俺は、協力したいとも思えないし、お前の雇い主がこのエルフを手に入れたとして何が目的なんだ?」
「それは…… 私の口からは申し上げる事は出来ません……」

 まだ聞きたい事はあるが、これ以上は喋りそうにも無いな……

「そうだとしてもだ。それは奴隷として子を産むためだけに、家畜の様な人生を送るのがナディアの幸せだとはとても思えないな。話は終わりだ。このまま帰るか埋められるかを選べ」
「このまま…… 帰らせて頂きます……」

「そこの傭兵どもは助けたいなら、掘った穴は自分達で埋めろよ? 通る人の迷惑だからな。次に同じ顔を見かけたら問答無用で埋める」
「解りました」

 こうして、追って来た連中を撃退して、俺達は北へ向かう道を進んだ。
 2時間程進んだ先の川原で、昼飯を取る事にして竈の準備を始める。

「フィル。何か食べたいものはあるか?」
「私はねぇ。おにぎり!」

「本当にフィルは、おにぎりが好きだよな。まぁそれなら大量に在庫もあるから手が掛からないが…… チュールはどうだ?」
「えーとね。この間、川でお魚捕まえた時に、いっぱい亀さんも獲れた。それ食べたい」

「すっぽんか。解った。じゃぁ今日はすっぽんスープを作ろう。強力な火力が必要だな。ナディア。火の精霊は呼べるか?」
「隷属の首輪の命令を変更すれば呼べますが、今は精霊と対話が出来ない様になっています」

「あ、すまんすまん。まだ外して無かったな。早速隷属の首輪を外そう」

 そう言って俺は、オークションハウスで貰った隷属の首輪の鍵を使って、ナディアの隷属を解いた。

「ありがとうございます。ご主人様」
「おいおい。もう奴隷じゃないんだし、カインでいいぞ」

「いえ。私にとってはカイン様がご主人様です。もう決めました」

「「却下」」

 そう声を揃えたのは、フィルとチュールだ。

「カインの嫁は私」
「正妻は私です」

「私は妾で構いません……」

「おいおい。俺はそんな風にお前らを見て無いし、そんな話はもっと大人になってから考えればいい事だ」
「カインもうおじさんじゃん」

「お兄さんだ。大人になってと言ったのは俺じゃ無くお前らだYO」
「カインお兄ちゃん。私はもう24だよ? 行き遅れって呼ばれる前には頼むよ?」

 ちょっと場がカオスになったが、隷属の首輪を外した事によって、ナディアは精霊との対話が可能になり、精霊魔法を使えるようになった。

 これで、すっぽんスープを作る為の火力の確保も十分だ。

 俺は魔法の鞄から、すっぽんを2匹取り出し捌く。

 すっぽんは死んでしまうとすぐに臭みが体中に回ってしまうので、通常は生きたまま捌くのだが、俺の使う魔法の鞄では、時間経過が無いので、首を跳ね飛ばした、直後の状態で収納してある。

 内臓を傷つけない事が、捌くときのコツだ。
 特に胆嚢は、強烈な苦みを持つので、ここに傷をつけてしまうと、食用に使えないレベルになってしまう。

 見た目に比べて、食べれる部分は決して多くない。
 肉は、4本の足と、首の付け根の部分にあるだけだ。
 内臓は綺麗に掃除すれば、胆嚢以外は食べれる。

 だが、骨やエンペラの部分から出るスープの味は別格だ。
 俺の特注品の鍋は、ミスリルとセラミックの合成で超高火力にも耐えられる。

 材料を鍋に入れると、高火力で一気に沸騰させる。

「ナディア頼む」
「はい」

 火の精霊『サラマンダー』を呼び出し、高火力で一気に焚き上げる。
 この時に、すっぽん以外に入れる物は、生姜の千切りだけだ。

 エンペラの部分が、ゼラチン状にねっとりとした感じになれば火を中火にして、味を調える。

 醤油と酒、若干の砂糖で十分だ。
 琥珀色の美しいスープから、何とも食欲をそそる匂いが漂う。

 このスープで雑炊や、大根の煮物を作っても最高に美味しい。
 今日は主に、このスープを楽しんでもらうのが目的だから、これで完成だ。

 スープ皿によそおう。
 エンペラの部分と、赤身の肉、それと内臓部分をバランスよく注ぎ分ける。

 それぞれの前に皿を差し出すと。
 みんなで食事を始めた。

 全員が、うっとりした表情をしている。

「どうだ? 美味いだろ」

「もう言葉が無いよ。凄いねこのスープ」
「エンガワの部分はコラーゲンが豊富だから肌にもいいぞ」

「本当?」
 フィルが肌に良いという言葉で、喜んでいた。

「私達はまだお肌はみずみずしいから大丈夫!」
「チュール、そんな事言ってたらすぐに後で後悔する事になるからね? 若い時からちゃんと考えてケアしなくちゃ」

「私は、後500年は老化しないから……」
「ナディア…… エルフは良いよね羨ましいよ」

「でもさ、ナディア。さっきあの片眼鏡の行ってた事は本当なのか?」
「はい。里の長老にはつがいとなる人族の男性を見つけ出して添い遂げる様に言われて出てきました。子供をたくさん産んで、女の子だったらエルフの里に送りエルフの人口を増やすのが私の役目だそうです」

「そうなんだ…… それでいいのか? ナディアは」
「解らないけど、カイン様となら構いません」

「「却下」」

「まぁそう言う話は、ナディアがちゃんと大人になってからだな。今はこの世界で亜人族がちゃんと暮らしていける場所を作り上げる事を目標にしよう」

「「「うん」」」

 食事を終えた俺達は、エルフの里を目指して北への道を進む。
しおりを挟む
感想 48

あなたにおすすめの小説

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

「お前の代わりはいる」と追放された俺の【万物鑑定】は、実は世界の真実を見抜く【真理の瞳】でした。最高の仲間と辺境で理想郷を創ります

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の代わりはいくらでもいる。もう用済みだ」――勇者パーティーで【万物鑑定】のスキルを持つリアムは、戦闘に役立たないという理由で装備も金もすべて奪われ追放された。 しかし仲間たちは知らなかった。彼のスキルが、物の価値から人の秘めたる才能、土地の未来までも見通す超絶チート能力【真理の瞳】であったことを。 絶望の淵で己の力の真価に気づいたリアムは、辺境の寂れた街で再起を決意する。気弱なヒーラー、臆病な獣人の射手……世間から「無能」の烙印を押された者たちに眠る才能の原石を次々と見出し、最高の仲間たちと共にギルド「方舟(アーク)」を設立。彼らが輝ける理想郷をその手で創り上げていく。 一方、有能な鑑定士を失った元パーティーは急速に凋落の一途を辿り……。 これは不遇職と蔑まれた一人の男が最高の仲間と出会い、世界で一番幸福な場所を創り上げる、爽快な逆転成り上がりファンタジー!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...