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第58話 山越え

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 ドーラの街を出立したのは、まだやっと夜が明けた時間だった。
 今日中に王都に到達するためには、それでもギリギリなくらいの出発時間だと、チェダーさんが言っていた。
 山を越えるルートで、川もここから先は滝や急流が続き船での移動も不可能なんだって。

 俺達は、いつもの様にチェダーさんとゴーダさんの先導の後ろを馬車3台で連なり山道を進む。

 山肌に作られた道は、大きく蛇行を繰り返しながら登って行くので、直線距離に比べると5倍以上の距離を移動する事になる。

 道幅は、サンチェスさんの使う様な馬車だと1台が通るのがやっとで、崖には柵も無い。

 あり得ないほど危険な道だよな。
 すれ違う馬車なんかがあると、約500mごとに作られている、くぼ地でのすれ違いをする事しかできないので、斥候役のゴーダさんは、かなり先を進行してすれ違う馬車などが来れば、事前に交渉して調整をするんだって。

 基本的に隊列のリーダーの身分が、道を譲る為の交渉の基準になるらしいが、融通の利かない人は、どの世界にでもいるもので、争いごとに発展する事も少なくないそうだ。

 ようやくほぼ山頂部分に差し掛かったのは、お昼前の時間だった。
 ここからの景色が凄い。

 ドーラ方面の農村の風景と、王都方面の巨大な街の風景を両方見下ろせるような眺めで、俺もマリアに頼んでいっぱい写真を撮って貰った。

 この商隊の中では既にマリアのカメラは違和感なく受け入れらていて、みんなが笑顔で写真に納まってくれる。

 当然俺やリュミエルの姿も、雄大な背景をバックに撮影した。
 そしていつもの様にお弁当とカップスープで、昼食を取っていると。
 岩陰から、巨大な影が現れた。

「チッまた厄介なのが出やがったな。ワイバーンだ。あいつら馬くらいなら平気で咥えて行きやがるから、馬車の護衛を優先してくれ」

 チェダーさんの指示に従って商隊のメンバーを一か所に集め、遠距離手段の不足するチェダーさんとマーブルさんが商隊の護衛、俺、マリア、リュミエル、マリボさんゴーダさんでワイバーンに対峙する

「ワイバーンはBランクの魔物だから、一匹だけなら俺達だけでもなんとかなるが、一匹の可能性は低い、出来るだけ素早く倒して次に備えるぞ」
「了解です。ゴーダさん」

 先陣を切ったのはマリボさんで火魔法が発動される。
「ファイヤランス」

 命中はしたが、「グギャァオォオオ」と叫び声を上げてこっちに向かって来た。
 肩口辺りから、若干焦げたような煙が燻っている。

 ゴーダさんが投げナイフを片手に3本ずつ計6本持って構えて、射程距離に入ったタイミングで一気に投擲する。

 刺さりはしたが、皮の表面に刺さっただけで肉にまでは達していない様だ。
 だが一本は燻っていた位置にも刺さっていた。
「これで十分だ、即効性の神経毒が塗ってあるからな」

 その言葉通りに、動きが鈍くなり俺達の眼前に滑りこむように落ちて来た。
「テネブル、翼の根元を狙って斬り付けろ」
「了解」って言ってミスリルエッジを加えて向かった。

 当然「ニャア」としか聞こえないけどな。
 俺が右翼の付け根を斬り付ける瞬間で、リュミエルも大型化してミスリルクローから、風の斬撃を飛ばした。

 飛び立つ事の出来ないワイバーンの首筋にミスリルエッジを差し込んで止めを刺した。

「ワイバーンの肉は凄い旨いんだが、神経毒を使って倒すと食べれないのが残念だ」
 そう言いながらゴーダさんもワイバーンに近づいたが、そのタイミングで更に3匹のワイバーンが飛んでくるのが確認できた。
 さっきの咆哮で呼びよせてしまったみたいだ。

 今度はマリアが、サンダーランスを脳天に打ち込んだ。
 相性が良かったようで一匹が痙攣したような感じで墜落してくる。
 そこに大型化したままのリュミエルが居てクローを突き出したら、まともに突き刺さって、一撃で仕留めた様だ。

 倒したリュミエルの方が焦ってキャンキャン言いながら後ろずさってぺたんと座り込んだ。

 残り2匹だ。

 俺は、ミスリルエッジに火を纏い、倒れたワイバーンを足場にして大きく飛び上がった。
 若干タイミングが合わずに、片足の付け根から、尻尾にかけて斬り飛ばすと、方向制御が出来なくなり、岩壁に激突した。

 このタイミングでチェダーさんとマーブルさんも参戦して来て、とどめを刺してくれた。

 残り一匹がマリアに向かって突っ込んでいく。
「マリア、危ない!」と俺は叫んだ。
 魔法を放った後で若干動きが悪いマリアをワイバーンが攫《さら》おうとした瞬間に、リュミエルがマリアに覆いかぶさるように、飛びついた。

 リュミエルの背中はばっさりとかぎ爪で切り裂かれて血が噴き出した。
「香織!!」

 慌てた俺はリュミエルに向かって駆け寄った。
「俊樹兄ちゃん、マリアちゃん守れたかな?私」
「馬鹿今喋るな、出血がひどいから、マリア治療を急げ」

 マリアが、ハイヒールを続けざまにかけるが、傷が内臓まで達している様だ。ハイヒールでは内臓損傷は、治せない。
 ハァハァと舌を出してるのはいつも通りだが、ぐったりとしている。

 マリアの魔力が無くなるまで何度もハイヒールを唱え、マリアもぐったりとしてる。
 俺は爺ちゃんの言葉を思い出した。
 
 死んでさえいなければ地下室に戻れば全回復するって言ってたよな?

「マリアちょっとこの魔道具を明日まで大事に持っててくれ、明日のこの時間にこの門から戻る。場所は何処でもいいから頼む」
「うん、解ったテネブル。リュミエルは大丈夫なの?」

「俺が必ず助けるから安心しろ、サンチェスさんには荷物は明日必ず王都に届けると伝えておいてくれ」

 その間に、リュミエルを傷つけた最後のワイバーンは『ラビットホーン』のメンバーによって、倒されていた。
 4匹の死体も、取り敢えずインベントリに放り込んで、マリアに渡した転移門に動けないリュミエルを押し込めて、一緒に俺もくぐって行った。

 青い扉を開け、リュミエルの首元を必死で咥えて運ぶ。
「中に入ると、人間の姿の香織に戻った。俺も人間の姿に戻ったから、当然の様に首筋にキスをしているような感じだった」
「ん? 催しちゃったのこんな所で? 初めてはもう少しロマンチックな所が良いって言ったのに」

「馬鹿、香織。大丈夫なのか?」
「あ、うん。どこも怪我は無いかな?」

 部屋の真ん中に進むと総司爺ちゃんが姿を現した。
「ここで卑猥な行為をするのは駄目じゃぞ?」
「クソ爺、違うわ!」

 思いっきり突っ込んだ。
 その後で爺ちゃんにも、状況を説明した。

「ほう、それは大変じゃったな。香織の防具はかなり強力じゃったが、それを超えるほどの攻撃力だったんじゃな。防具がなければ一撃で死んでおったかも知れんな」
「そうか、爺ちゃんありがとう。香織を守ってくれて」

「礼は良い、今俊樹はワイバーンの皮も持っておるんじゃなそれを使って、オリハルコンとミスリルで補強した防具を俊樹にも作って置いてやう。香織も上半身様のをおしゃれな感じで作ってやるかな」
「ありがとうお爺ちゃん、じゃぁ今度はスカートと合わせたら、ワイバーン程度の攻撃が防げるくらいにして欲しいなぁ」

「随分要求水準が高いな。解った頑張ってみよう」
「じゃぁついでに魔石も納品しておくな」

「今日は結構あるな、ワイバーンの魔石は1個が2㎏近いからのぅ全部で34㎏じゃな340万だ」
「爺ちゃんありがとうな、香織の怪我で急に戻って来たから、明日は時間丁度には来るからな」

「解った、防具は明日には間に合わんが、構わんか?」
「あー大丈夫だよ」
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