出戻り勇者は自重しない ～異世界に行ったら帰って来てからが本番だよね～

第88話 円盤投げ

　香奈と食事をしてたら綾子先生と美緒が現れて俺達二人を見て叫んだ。
「誰なのあなたたちは？　何故不法侵入してお寿司食べてるんですか」

「綾子先生俺だよ、翔と香奈。香奈が取得した幻術で、イルアーダで対戦した当時の格好に戻って食事してたんだ」
「え？　香奈ちゃんなのその綺麗な女性」

「そうだよ、ツルペタロリのイメージしか無いから結構びっくりでしょ先生」
「へぇ香奈ちゃん結構フェロモン出しまくりの美熟女だったんだねぇ。で？　翔君はフェロモンムンムン系のお姉さんがストライクゾーンど真ん中なの？」

「美緒、別に俺の性癖じゃ無くて香奈が魔王してた時の容姿がこの姿だったってだけだ」
「ふーんそうなんだ。でもさ翔、金髪ロン毛に黒い髭と眉毛は無いと思うよ？」
　
　ばっさりと斬られたぜ……
　まだ寿司は大量に余ってたし、その後は4人でお寿司をつまみながら話した。

　折角大人な見た目なんだからと言いながら、美緒がお酒も用意したのでちょっと嬉しかった。
「あの、翔君その姿だとちょっとお兄さんっぽくてカッコいいですね」

　お、綾子先生にはそう悪くない評価だったみたいだぜ。
「綾子、それおかしいって……今のうちにしっかり駄目だししておかないと、後何年かしてこの姿を普通にするようになったら嫌だよ」
「美緒、でも筋肉凄いよローマの彫刻みたいであの腕に腕枕して貰ってとか想像しただけでドキドキしちゃいますよ」

　アルコールの入った綾子先生は、結構積極的だよな……
「翔君の目がちょっといやらしいから幻術解くね」と言いながら、香奈が幻術を解いた。

　綾子先生だけはちょっと残念そうだったけど、香奈の見た目は魔王の香奈よりロリ香奈の方が見慣れた感じがして落ち着くぜ。


　◇◆◇◆　


　翌日、学校の放課後に陸連の明石さんがフィールド競技のコーチ達を連れて訪れていた。
「翔君、ハードルはいきなりいいタイムが出たそうだね。安心したよ」

　満面の笑顔で話しかけて来た明石さんが「ちょっと頼みがあるんだけど」と言って来た。
「どんな頼みなんですか？」

「10種競技って、日本じゃいまいちマイナーだからね。盛り上げたいと思って、テレビ局と組んで翔君が取り組む事を発表して、少し話題作りをして欲しいんだよね」
「成程ですね、でも番組出演絡みになると、今泉さんを通して貰わないと俺が勝手に返事したら怒られちゃうので」

「解った、私の方から今泉さんに連絡して何とかして貰うよ。その問題だけ片付いたら出演自体はOKって言う事でいいのかい？」
「ええ構わないですよ」

　円盤投げ、やり投げ、棒高跳びのそれぞれの日本代表のコーチの人を紹介されて、要点を習う事になった。

　最初は円盤投げだ。

「高校生だと本来は1.75㎏の円盤を使うんだけど、今回は一般の部の参加だから2㎏の円盤になるよ」
　筒井さんと言うコーチの人は、まだ30代でがっしりした見事な逆三角形のフォルムをしたイケメンさんだった。

「結構重いんですね。よろしくお願いします」
「松尾君みたいなスーパースターにコーチ出来る事は、一生の思い出になるよ。俺が教えるのは体を壊さない為の筋肉の使い方が一番大事って事だ。その為には正しい持ち方。正しい投げ方が必要だからね。それだけを教えたら、あとは自分が思う様にやってみて、無理な負荷がかかってそうな感じの所が有ったら、指摘させてもらうね」

「はい了解です」

　◇◆◇◆　

「より、円盤に力を伝える為には、正しい円盤の持ち方をしなければいけないよ。
　右手を大きく開き、全ての指の第一関節を曲げて、円盤を曲げた指に引っ掛ける様に持って、手の平に円盤を乗せる様に置き、親指で円盤を抑える様に持つ。
 
　ここからは持ち手の大きさにより異なるけど、大きく開いた指を自分が力を入れやすい様に調整する事が必要だ。
 
　開いた指そのままでもいいし、人差し指と中指をくっ付けてもいいし、人差し指から薬指までくっ付けて持つ人も居るよ。
 
　個々の手の大きさに左右されるから、一概にどの持ち方が正しいとは言えないけど、日本では人差し指と中指をくっ付けて持つ人が多いね。
 
　全ての持ち方で投げてみて、自分が力を入れやすい持ち方を選んだ方が良いと思うよ」

「持ち方だけでも色々あるんですね。勉強になります」
「そうだろ？　次は基本的な投げ方を解説するね」


　◇◆◇◆　

　円盤の投げ方には3種類あるよ。
 
①スタンディングスロー
②ハーフターン
③フルターン
　の3種類だね。
 
飛距離、難易度、身体への負担共に、
①＜②＜③
という関係だよ。
 
この事から、円盤投げの記録を伸ばす為には、③のフルターンを必然的に選ぶ事が必要だけど、③をやるには②をマスターしなければいけないんだ。
 
また②をやるには①をマスターしていないと、正しく円盤に力を伝える事が出来無いんだよね。
 
円盤投げ初心者は勿論の事、記録が伸び悩んでいる方も、もう一度①のスタンディングスローから見直して練習する必要性があるんだよ。
 
それは、意外にも基本がしっかりと出来ていない選手が多い事からも言えるんだけどね」

「はい、とても分かりやすいです」

「じゃぁ最初のスタンディングスローから説明するね」


　◇◆◇◆　


　スタンディングスローは、ターン無しで立った状態で円盤を投げる投法だよ。
 
　正面を向き肩幅よりやや大きく脚を開く。
　円盤を持った手を左右に振り、勢いを付ける。
　やや右側に低く、左側に高く身体ごと振るのがポイントだよ。

　翔君は右利きだよね？」
「はい、そうです」

　勢いよく右側に身体を大きく捻る。
　重心を低く、体重を右脚に載せる。

　脚→腰→身体→肩→腕の順番で勢いよく左側に振り返って、振り返ると同時に体重を左脚に移す。
　遠心力の自然の流れで円盤をリリースする。
　リリースした瞬間に左腕を縮めてブロックする。
 
　スタンディングスローは、円盤投げで重要な基本的動作の集まりだからね。
 
　ここでしっかりと力を伝達する事が出来なければ、絶対に記録は伸びないよ。
　焦らずじっくりと正しい身体の動作を学ぶ事が大切だよ」

「はい、大体理解は出来たと思いますけど、一度お手本を見せて貰ってもいいですか？」
「解ったちょっと見ててね」

　筒井さんがスタンディングスローで投げた円盤は、40m程は飛んでいた。
　早速、今の筒井さんの動きをトレースするような感じでやってみた。

　簡単に抜いたら悪いと思ったから、ちょうど同じくらいの距離を投げてみたぜ。

「松尾君……やっぱり凄いな。実は俺現役の日本記録保持者なんだ。さっきのも殆どスタンディングでこの距離を出せる人は、日本では存在しないような距離だったんだよ？　自信無くしちゃうな」
「あ……そうだったんですか、何かスイマセン」

「謝る事は無いよ。初投擲がこれだったら本当に教え甲斐があるよ。この際世界記録目指して貰おうかな」

　その後で、ハーフターンとフルターンもしっかりと習って、日本記録越えの65m辺りを出せたところで円盤投げを終えた。

　明石さんも満面の笑顔だぜ。