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第44話 魔素効果【前編】

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  8月も半ばを迎え、セミの声が朝から賑やかだ。 

 チェルノブイリに現れた魔物は、俺達のチームで無事に退治をしたが、湧き出す元になった原発跡は現状では結界で封印をしているだけなので、根本的な要因の排除はまだ行えていない。

 アナスタシアに指示を出して、ウクライナ軍による監視は継続してもらいながら、時期を見て討伐する事にした。

 俺は、モトクロスの大会に向けての準備を始め、ようやく日常に戻ったような気もする。
 でも自宅の前には人が沢山うろついていて、観光名所のような状態になっているぜ。

 こんな中だと落ち着いてエロ本読むことも出来ないよね!

 父さんのバイクショップも、最近はめちゃお客さんが増えてるみたいで、良いことだ。
 特にモトクロッサーの販売では、全国屈指の販売店になったみたいだ。

 今泉さんが契約してきた俺が使うレプリカモデルのウエアやメットは、父さんの店で買えば俺のサインが自筆で入るので、安くはないのに結構な数が売れてるみたいだ。

 海外のモトクロスの大会とか今まで日本でテレビ中継してるの見たこともなかったけど、今回は俺が出るので各局で取り合いになって、生放送で中継するんだって。

 チェコと日本の時差が8時間なので現地時間で午前10時のスタートのレースは、日本では夕方6時のスタートで、日曜日のお茶の間を賑わすには、丁度良い時間だったかな?

 ライバルは出場選手たちより、某国民的アニメだな。
 まだ今なら勝負になる筈だぜ。



 ◇◆◇◆ 



 五輪終了後から、2週間はテレビ出演を断っている俺とは対称的に、GBN12は毎日テレビ番組で引っ張りだこだ。

 香織は映画とドラマの撮影も始まって、アンナは元々英会話も完璧なバイリンガルだから、海外でのモデルとしての出演もどんどん決まって居てそれぞれ忙しそうだな。

 ちょっと時間的に余裕が出来たので、今後の俺の活動の件で今泉さんと一緒にメインスポンサーのメーカーを訪れていた。

「松尾君は、ゴルフとテニスは競技経験はあるんですか?」と聞かれたが、全く無いので「いえ、やったことありません」とそのまま答えると、「それは逆に面白いですね、始めての取り組みから世界チャンピオンに辿り着くまでを、ドキュメント仕立てで徹底的に追いかけて、番組に仕上げる企画はどうですか?」と提案された。

「そんなの需要あるんですか?」と聞いてみたら、「今の松尾君には世界中が注目していますから、確実に数字が取れるコンテンツですね。最初から松尾君モデルのウエア一式を用意して、大会に参加するようになったらクラブやバッグ等も販売していく形にしましょう。勿論番組枠はうちの会社が単独スポンサーで買い取って、日曜日のゴールデンタイムとかで予定しましょう」

 と一気に話が決まった。
 何処のテレビ局でやるかという話になった時に「最初にお世話になった名古屋の局でお願いしたいなぁ」と希望を言ってみたら、それならそうしましょうと直ぐに返事を貰えて、早速今泉さんとメーカーの担当者とでテレビ局へアポイントメントを取って話が動き始めた。

 通常の番組制作は、殆どの場合が下請けの制作会社が一枚噛んで行われるのだが、今回は局が直接プロジェクトチームを組んでの製作が決まった。

 何と言っても最初から単独スポンサーが付いているので、自由に番組構成が可能だから作る側も取り組みやすいらしかった。

 メーカーの全面協力の元で、4大大会と呼ばれる、マスターズ、全米オープン、全英オープン、全米プロゴルフ選手権の優勝を目指そうと言う企画だ。

 プロゴルファーになる為には、プロ試験に合格するとかの条件もあるけど、それだと時間も掛かるので、アマチュア資格のままツアー優勝を果たして、プロ宣言をしてしまう松山選手や石川選手の方式を狙おうという話になったけど、まだやったこと無いからどうなんだろうね?

 勿論自信はあるけどね!

 モトクロスの大会終了後に本格的に企画がスタートすることになったぜ。



 ◇◆◇◆ 



 打ち合わせでテレビ局に行った時に久しぶりに塾講師の森先生に出会った。
 オリンピックの活躍を大げさに褒めてくれて「今度は数学オリンピックにも挑戦してみないかい?」と提案を受けたけど、「時間の都合が合えば考えておきますねー」と言っておいた。

 テレビ局から戻ると、今度は久しぶりにボクシングジムに顔を出した。
 五輪中にカイザー弟君とのスパーの時に、会長とは会ったけど健人さん達とは久しぶりになる。

 因みにカイザー弟君は、俺とのスパーで調子を崩しちゃって銀メダルで終わったんだって。
 ちょっと可哀想だったかな?
 
 健人さんは約束通りカイザーとの世界戦が決定して、会場は何とラスベガスでやるんだって!

 で、会長がまた俺に確認取らずに、ラスベガス戦の時に俺にタオル係やって欲しいって言い出して、それ条件に結構なファイトマネーの上乗せが合ったようだから今更断れないけどね。

 頼むから返事する前に俺に確認とって欲しいよね。

 10月の1週目とかさ、連休でもないのに学校休まなきゃならないじゃん。
 自分の競技でもないのに義務教育休んで応援行ってたら、下手すりゃネットで炎上しちゃうよ。

 俺は9月にアンダージュニアの日本選手権を戦って、その後はアンダージュニアの統一王座を狙う予定だ。

 で、肝心の俺の世界への挑戦は、来年のデリーでの世界選手権で、アマ世界一を獲得してのA級デビューで、2戦目で日本タイトル、3戦目で世界タイトルを狙う手筈だ。

 今回の健人さんの世界戦でラスベガスの興行主と関係を築く事で、俺の世界戦まで予定が組めるって事らしいんだけど、会長に一つお願いされちゃったのが、成長期の俺の身体だけど、階級を頻繁に変えられないから今の体重を維持出来る様にしてくれって事だった。

 でも会長ラスベガスの興行主相手に、契約上の問題で騙されたりしないよね?
 英語とか絶対喋れそうにないし、心配だなぁ。

 今泉さんに交渉任せてくれた方が、俺は安心できるんだけど、今回の健人さんの試合がちゃんと契約通りにやれるかどうかで判断するしか無いね。

 健人さん達とスパーをする事にした。
「翔、カイザーと実際会ったんだろう? どうだった」
「素直な感想だと、あの時点でほぼ健人さんと同じレベルだと思いました」

「そうか、ならチャンスは十分にあるな」
「でもですね、弟君のレベルを見て思ったんですけど、カイザー以外の選手とやるんだったら、全然余裕で健人さんチャンピオンになれますよ?」

「翔、俺はなチャンピオンっていうのは、最強だから名乗れるもんだと思ってる。一番強い男を避けて取るチャンピオンベルトに何の意味があるんだ?」
「スイマセン、健人さんそうですよね!一番強いからチャンピオンなんですね。何かカッコいいですね。じゃぁ俺も少し絞って、健人さんのバンタムで頑張っちゃおうかな?」

「馬鹿お前は別だ、人類としてのレベルを超えてるじゃねぇかよ」
「健人さん酷いですよそれ、俺は普通に人間の筈ですから」

「筈って言ってる時点で自分でも違うかも知れないと思ってるだろ?」

 なんだかんだで久しぶりの加山ジムも楽しめた。
 でもやっぱり、全員明らかにレベル上がってるよね。

 試合さえ組めれば、全員チャンプになれそうだよ。

 あ、そう言えばスイミングクラブも、覗いてみなきゃ、他の練習生のタイムとか凄い気になるんだよね。
 加山ジムの例で行けば、あそこのスイミングクラブから、学年別の全国チャンピオンくらいなら普通に出てもおかしくないしね。


 久しぶりのスイミングクラブには、俺の特大写真ポスターと金メダル獲得競技のタイムとか書かれた垂れ幕がこれでもか!って言う位ぶら下げられていた。
 入り口を入った瞬間に、ほぼ全員が集まってきて握手攻めに遭っちゃったぜ。

 保護者のお母さん達まで集合して写メとか撮りまくるの勘弁してほしいよ。
 でも俺はにこやかに対応したぜ!

 満面の笑顔で出迎えてくれた所長は、今回の俺の活躍で本部に栄転する事になったそうだ。
 実際オリンピックの競技で俺の横に常に一緒に映っていたから、客寄せ的には効果高そうだしね。

 そして、このスイミングクラブの所属選手達のタイムを一覧で見せてもらった俺は、少し驚いた。
 明らかに、レベルが上っている。

 やっぱり仮説が当たっているようだ。
 レベルの概念は適用されないけど、俺の体内の膨大な魔素は、明らかに運動能力の向上に寄与していると思って間違いないだろう。

 プールなんかでは、特に吸収されやすいのかも知れないな。

 それなら、俺と同じ温泉に頻繁に入ってる美緒や綾子先生も能力が上がってる可能性高いよね。
 待てよ……

 プールなんかでさえ効果があるなら、もし俺と直接Hなんかしたらもっとすごい効果あるかも知れないな、試してみたいけどそんなの実験でとか頼めないよな。

 美緒とか全然OKて言いそうだけど悩むなぁ、やっぱり見た目年齢相応の行動しなきゃ駄目だよな。
 
 取り敢えず美緒達の身体能力の変化が、本人が意識できるレベルで起こっているか確認してみようかな? と思って、美緒と綾子先生に拠点に集まってもらった。

「ねぇ美緒達ってさ、身体能力が上がってきてる実感ってある?」

「スポーツをしてる訳じゃないから、具体的に能力がって言われても解らないけど、前よりも体調が良いのは間違いないわね。温泉の効果かな? って思うくらいだけどね」
「そうなんだね、ボクシングジムとスイミングクラブでね、明らかに俺と同じジムの人達って実力が伸びてる感じなんだよね、だから恐らくちゃんと測定したら、美緒と綾子先生も成長してるんじゃないかと思って聞いてみたんだけど、この際だからさ効果を解りやすくするために、二人も何かスポーツ始めて見ないかい?」

「へぇそれは興味深い話ね、翔君がゴルフやるんなら、私達もゴルフでもやろうかな?ボウリングとかも手軽でいいかもね?」
「ボウリングならさ、今まででも経験くらいあるでしょ?その時のスコア大体とか覚えてる?」

 綾子先生が、「私は上手くはなかったから、平均100は超えなかったわ」と言い、美緒は「私は130くらいだったと思うよ」と言ったので、3人でボウリングに行って見る事にした。
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