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第40話 V9とバチカンの不穏な状況

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 朝のテレビ出演を終えると、既に時間は11時近くになっていた。
 今日の出番は夜の1500m準決勝だけだから、それまではゆっくりしようかな。

 と思ってたら、マリアンヌから念話が入った。
「翔君、今は大丈夫かな?」

「大丈夫だけど、どうしたの?」


「ロシアの諜報員がバチカンを探ってるみたいなの、少し気にならない?」

「気になるね確かに…… ねぇその諜報員って、男女のペアだったりする?」


「私は教皇様に聞いただけだから詳しくは解らないわ」
「そっかぁ、じゃぁさ今月の奇跡はいつ起るの?」


「今日お告げがあるから明日だよ、明日は競技は無かったよね?」
「うん、大丈夫だよ。じゃぁ明日そっちに行った時に教皇様に直接聞いてみるね」


 多分ってかほぼ間違いなくアナスタシア達だろうな? 俺バチカンの情報なんて漏らしてないよね?

 あ…… でもアイツらの親玉って、イルアーダ出身って言ってたな。
 俺を怪しいと思ってアナスタシア達を越させたなら、バチカンの奇跡はもっと怪しんで当然か。

 欠損や、不治の病が現実に治ってるしな。
 俺とは取り敢えずコンタクトが取れたから、バチカンに行ったって事か。

 どの程度の能力を持っているのか見当付かないけど、ラスプーチンだとすると、少なくとも年齢は150歳を超えてると思って良さそうだし、何らかの能力があるのは間違いないよな。

 でも逆に考えれば、もし俺と同等の能力を持ってたら、2度に渡る世界大戦の時にでも、世界を手に入れてる筈だよな。

 て事は、自分の寿命を伸ばすことは出来ても、それ以外はそんなに大した能力では無いのかな?

 んー、現時点では謎しか無いな……



 ◇◆◇◆ 



 1500mの準決勝は、エチオペアの選手にピッタリとついて走り、そのまま2着でゴールして土曜日の決勝に進んだ。

 GBN12は金メダルの期待の掛かる、スポーツクライミングの応援に行っているから、今日は国立競技場は綾子先生と両親だけだったよ。

 遊真も陽奈ちゃんがスポーツクライミング会場だからそっちに行ってるしね。



 ◇◆◇◆ 

 

 そして、金曜日は表向きは丸一日の休養日になった。
 
  残す競技は、土曜日の1500m決勝と日曜日のマラソンの2つの競技を残すだけだ。
 ここまで来たらきっちりと金メダルを後2つ貰うぜ!
 
 マリアンヌからの連絡を待って転移でバチカンに移動した俺は、いつもの様に教皇様と入れ替わり、聖母様からのお告げを受けた3人の敬虔なるカトリックの信者に奇跡が起きた。
 勿論俺の懐には多大なる祝福キャッシュも訪れたよ!

 奇跡の演出を終えた俺は、教皇様と再び入れ替わり、昨日マリアンヌに聞いたロシアの諜報員の話を聞いた。
 やはり男女のペアで、いきなり奇跡が起きるようになった原因を探っていたようだった。

 それ以前にも、マリアンヌの初級ヒールによる、傷口を塞いだり傷跡が解りにくくなる程度の、軽い奇跡は起こっていたのだが、不治の病が治ったり欠損が再生されるようになったここ2月の奇跡は根本的に物が違う。

 当然、能力の存在を知るロシアから見れば、急にその現象が使える様になった理由が知りたいと思うのは、自明の理だ。

 でもなぁ、アナスタシアが動いたなら俺に辿り着くのも、そんなに先じゃないかも知れないよね。

「教皇様、地下の封印はどの様に行っているのですか? 実際チェルノブイリ近郊では魔物が、村を壊滅させた事例が起こっていますので、バチカンと言えども安心は出来ないと思いますが?」

「封印はコロンブス騎士団のメンバーが24時間態勢で封印の扉を見張っている状況です。私か、マリアンヌ以外は現状中に入る事は出来ません」


「扉自体は、何らかの特殊な封印が掛けられているのですか?」

「聖水が毎日掛けられることを除けば、物理的な要因で閉じられているに過ぎません、封印の扉の鍵は教皇として身に付ける事が決まっている指輪が鍵となっております」


「銃火器等で討伐は出来ないのですか?」

「以前に自動小銃での討伐を試みたのですが、討伐は出来ませんでした」

「えっと……いつから地下に魔物が現れるようになったんですか?」


「バチカンの記録では、130年程前に確認されたのが最初です。当初エクソシストとコロンブス騎士団で200名が侵入して誰一人戻って来る事は無く、その後130年間はひたすら守り続けているだけです。ましてや倒す事はマリアンヌが奇跡を使って倒した一匹しか記録されて無い状態です」

「解りました。今、俺の元にマリアンヌが異世界で組んでいたパーティのメンバーが全員揃っていますので、そのメンバーと魔王を連れて、チェルノブイリから対処を始めたいと考えています。もしそれで力を取り戻す事実が有ったりすれば、マリアンヌも協力して欲しいと思いますが、現状では不確定な要素しか無いので、マリアンヌは当面メンバーから外しておきたいと思います」


「そうですか、魔物の存在が明るみに出れば世の中は、パニックに陥る可能性もあります。その時人々が頼る存在こそが神と呼ばれます。翔君が神となる日も近いのかも知れませんね」

 と、教皇様は満面の笑みで俺を見つめたけど、俺は神になんかは絶対なりたくないから、もっとカジュアルな手段を考えなくちゃヤバイな。



 ◇◆◇◆ 



 バチカンから戻った俺は、綾子先生と待ち合わせて、スポーツクライミングの女子の決勝競技を見に青海アーバンスポーツパーク行った。

 GBN12も昨日に引き続き応援に来ているので、遊真も当然居た。
 昨日の男子の決勝でも日本選手が金メダルを獲得しており、今日の女子の決勝でもすごい盛り上がりを見せている。

 俺が会場に姿を現し、GBN12の側の席に座ると、当然の様にテレビカメラが俺を映し出し会場も更に盛り上がった。

 日本代表の選手も、テレビ出演などで顔見知りだったので、俺の姿を確認すると手を振ってくれた。
 競技が始まると、圧倒的な強さで日本選手が優勝を決めてくれたので、俺も応援に来た甲斐があったよ!

 表彰式までは時間の関係で見ることが出来ないので、競技終了後はアンナと香織も合流して、ご飯を食べに行った。

 どうしても普通のお店だと、人が集まっちゃってゆっくり出来ないので、少し高いけどホテルのレストランで食事にした。

 今日は、祝福を受け取っていたし少し大盤振る舞いで、ちょっといい値段のコース料理を頼んだよ。

 すると、久しぶりと言っても居なかったのは3日だけなんだけど、アナスタシアとイヴァンが幸せそうに、コース料理とワインを楽しんでいるのを見かけて、何だか少し安心した。


 さぁ明日は9個目のメダルだぜ!



 ◇◆◇◆ 



 俺にとっては競技場の最終種目、1500m走の決勝レースを迎えた。
 現在時刻は、20時を過ぎた所だ。

 俺は明日のマラソンの発走時刻が、7時札幌でスタートという滅茶苦茶なハードスケジュールなので、自衛隊の特別機で、俺の付添関係の人とGBN12も一緒に、今日の表彰式が終わり次第、札幌に送って貰う事になっている。

 競技場のスタンドでは、いつもの様にGBN12を中心とした大声援が俺に送られる。俺がトラックに登場すると、俺が使ってるタオルと同じ物を持った観客の人達が、GBN12の動きに合わせてタオルを頭上でブンブン回してる。

 ただタオル回すだけの動きをここまで流行らせる振付の人って、どんなセンスしてるんだろうね?

 トラックには決勝に残った16人の選手が弧を描いたスタートラインに並ぶ。

 号砲と共に俺は飛び出し1周目から、快調に飛ばす。
 エチオピアとケニアの選手が二人ずつ俺のすぐ後ろに離されまいと必死についてくるが、俺のペースは400m走の選手と変わらない速度で周回を行う。

 2周めを終え、800m地点でのラップタイムが、今大会の800m走の金メダルタイムを上回っていると、解説の人のコメントが入り、日本中が盛り上がっている瞬間だった。

 この日のテレビ視聴率は73%にも達したそうだ。

 前半を無理に付いてきたエチオピアとケニアの選手が脱落し、中国とアメリカの選手が2着の位置に上がってきたが、既に2着まで100m以上の差がついている。

 最後まで気を抜く事無く、1500mを先頭で走りきった。
 表示された文字は当然 O.R W.R の2つの文字が並びタイムは、

 3分18秒25

 を記録した。
 
 恐らく当分抜かれないだろうね?俺以外には……
 そしてお約束の時間だ、既に観客席も総立ちだ、出身国も関係なくほぼすべての人が立ち上がってる。
 フィールド内でも選手が集まって俺を囲んでる。

 ぐるっと観客席を一周見渡して、まず右手をパー、左手は指4本を立ててアピールして、両手を高らかに突き上げた。

 その場でマイクを向けられたので、

「応援ありがとうございます。皆さん、明日の朝は少し早いですけど、両手の指を全部立ててバンザイして帰りたいと思いますので、今日は早く寝て、明日は早起きしてテレビ見ましょうね!」

 と、カメラに向かって語りかけた。
 
 表彰式で9個目となる金メダルを首にかけられると、時間の都合もあるので、応援メンバーと共に横田基地までバスで移動して、自衛隊機による札幌への移動となった。

 あと一つ!
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