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第35話 SMILE最高

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 今日は競泳競技の最終日だ、俺の出場競技は50m自由形と1500mの自由形の2種目の決勝になる。

 日本中が朝から俺の出場種目完全制覇を信じて盛り上がっていて、選手村で朝ごはんを食べながら視る、各局の朝の情報番組も、スポーツ新聞も俺一色だ。

 9時前に会場入りすると、競技場の前の広場には大型のプロジェクターを搭載したトレーラートラックが乗り込まれていて、チケットが入手できなかった大量の応援者に対して、競技の様子を無料で中継する事になっていた。

 会場の中にはGBN12も既に来ているはずだけど、外の広場にも冬本さんに招待された、完コピパフォーマーグループが3グループ程来ていて、朝からパフォーマンスを披露して大盛りあがりだよ。

 その様子を取材するメディアも、世界中のメディアが集合していて正にお祭り騒ぎだ。
 そして応援で集まっている人達の8割以上が俺が使ってるのと同じ、一枚5000円もする高級タオルを肩にかけていた。

 このメーカーの宣伝効果は一体どれくらいの価値があるんだろうね?
 きっと今日の夜の特番とかで、経済アナリストの人達が価値を算出してびっくり値段を発表したりするんだろうね?

 凄いなーと横目で見ながら会場入りをした。

 今ここで俺がそっちの広場に顔を出したりすると、収拾がつかない事になるだろうね!

 会場の中でも、外の様子に負けない熱気に包まれていた。
 こっちでは恒例になっているじゃんけん大会のイベント等も行われて、GBN12との握手や記念撮影のチャンスもあるから、一段とすごい状況になってるよ。

 各局のプレスも、恐らく今日ここに集まっていないメディアは無いだろうね! って言うぐらい大勢がいる。
 俺が最終調整を兼ねて、プールサイドに登場すると一斉にフラッシュがたかれ、会場アナウンスで自粛が呼び掛けられてた。

 俺は、今日のこの舞台まで俺を導いてくれた、スイミングクラブの所長に感謝の言葉を伝えると、所長は少し涙ぐんでた。


 そして開始時間の10時半を迎えて、まず最初に行われるのは超スピード競技の50m自由形だ。

 今日はあんまり自重はしないぜ!

「Take your marks」の声と共に会場が静寂に包まれる。

 号砲と同時に一気に飛び込み、一目散にゴールを目指す。
 そして誰よりも早く50mのプールを泳ぎきり壁をタッチすると、会場が割れんばかりの大声援に包み込まれた。

 もう何度も繰り返される光景だが、電光掲示板にW.Rワールドレコードの表示とともに映し出されたタイムは、

 20秒10

 と表示されていた。

 どうしよう……水の中からだと両手でパーと人差し指突き出しても、余り目立たないよなぁと考えてたら
 隣のコースで2着でゴールしたアメリカ選手が「Hey」と声をかけてきて、俺のコースに来ると、俺を水中で肩車してくれた。

「Thank you」と声をかけ右手をパーに左手を人差し指を立て会場に向けてアピールすると、アメリカ選手の肩の上で両手を大きく突き上げて、会場を沸かせた。

 水から上がり、ガッチリと2着の選手と握手を交わして、一緒にプレスルームに向った。
 

 競技を一つ挟み、俺にとっての最終競技1500m自由形がスタート時間を迎える。

 日本選手団やスイミングクラブの所長がプールサイドに勢揃いする中、会場の全ての人を見回して深々と頭を下げ飛び込み台の上に立つ。

 再び 「Take your marks」の声が聞こえる。
 号砲と共に、飛び込むと15往復の旅が始まる、他の泳者の誰も寄せ付けずにグングン差を広げ続け、完全な独泳状態で泳ぎ続ける姿は、テレビの視聴率も60%超えを記録した。

 タイムも更に世界記録を縮める 14分18秒25 を記録する。

 ゴール地点にスイミングクラブの所長を始めとして、日本代表のメンバーが勢揃いしてたので、パフォーマンスは水から上がって行うことにした。

 俺が右手はパー、左手はチョキに構えて会場にアピールすると、会場の全ての人が立ち上がり、同じ様に構える。

 周りの選手達も、所長も一緒に構えた。

 もう一度会場を見回して、両手を力一杯に突き上げた。
 きっと今この瞬間日本中が多くの笑顔で包まれたはずだ。


 プレス席に向って、日本中の応援してくれた人に感謝の言葉を伝えた後は、50m自由形の表彰式があり、残りの競技をGBN12と共に観客席で応援する事にした。

 アンナと香織が俺に抱きついてきたけど、アイドル的にそれはどうなの? と思ったら、他のメンバーも次々に俺に抱きついてきた。


 きっと今この瞬間日本中が多くの「モゲロ」の呪詛に包まれたはずだ。

 そして綾子先生と希望ちゃんの間に挟まれて、最後の競技まで応援した。
 綾子先生がチョットほっぺたを膨らませてたけど何でだろうね?

 
 最後の競技の表彰式が終わると、競泳の全選手が揃って記念撮影をしたり、俺をみんなで胴上げしてジャージ姿のままプールの中に投げ込まれたりして、祝福してくれた。

 俺が出場した競技以外でも金メダル3個銀メダル5個銅メダル6個の結果は、勿論この競技では参加国の中でも、圧倒的な1位だった。

 水泳日本!最高!!

 会場の外に出ると大量に集まった応援の人達が、トレーラーのヴィジョンに映し出される俺や他の人達の勝利の瞬間映像を鑑賞しながら、まだまだ興奮冷めやらぬ感じで盛り上がってた。

 トレーラーのすぐまえで、応援を行う完コピパフォーマーの3チームも汗だくになりながら、まだパフォーマンスを披露している。

 俺は、アンナたちに声を掛けてトレーラーの後ろに回り、タイミングを合わせて完コピ軍団の前に飛び出した。

 開場前の広場が今日一番の盛り上がりを見せる。
 3チームの完コピ軍団と本物のGBN12が並んで応援ソングを披露して、俺はヴィジョンの映像にあわせて勝利の時の指を突き上げるポーズをした。

 パフォーマンスを終えると、完コピ軍団の人達全員と握手して記念撮影を行い、この後のテレビ出演の予定になっている局へと向った。

 でもさぁ完コピ軍団の女の子達感動で泣きながらパフォーマンスしてたよ。
 女の子の涙は尊いよね!!

 

 ◇◆◇◆ 



 テレビ局のスタジオに到着すると、本当は2時半からの番組だったんだけど、その一つ前の時間帯にやってる他の番組にも俺だけ出演を頼まれちゃったから、断る理由もなかったし出演した。

 出演者の芸人さんやバラエティで人気の俳優さん達に、盛大な拍手で出迎えられて、重たいだけの7個の金メダルを、首から掛けての登場だった。

 チョット癖の強い司会者で、俺が金メダルを取った事に対してのお祝いの言葉は言ってくれたけど、何で日本代表としてのメドレーリレーには協力してくれなかったの? とか、GBN12の子たちとは、不純な関係ではないよね? とか、何かチョット棘があるんだよね。

 同じ様な事を聞かれても、昨日の大御所の芸人さんとは大違いだと思った。
 だんだん俺も返事するのが面倒臭くなって来ちゃったからCM時間の間に、

「チョット疲れが出たので、まだ明日からも競技がありますから、万全を期して休息を取らせて下さい」
 と、マネージャーの母さんを通じて局側に申し入れ、その後の番組出演もキャンセルしてもらって帰っちゃった。

 嫌な人と無理して同じ空間で、会話したくないしね。

 きっと空気読める人ならこの人と俺のマッチングは二度としないと思うけど、伝わってるかな?
 今泉さんにこの人絡みの番組のオファーはGBN12も含めて、基本NGでお願いしますと伝えておいたよ。

 もっと仲のいい人なら、例えば塾講師の森先生とかだったら例え同じこと聞かれても、普通に笑い話的に理由つけて返事したんだろうけど、初対面で上から目線な会話をする人は嫌だよね?

 と言う事で両親とも別れて一度選手村に戻ったんだけど、すぐに綾子先生から電話が掛かってきて、スタジオに来ないから、心配して電話してきたんだって。

 GBN12はちゃんとその後の番組には出演したけど、俺が体調不良で帰ったって聞いて、テンションだだ下がりだったみたいだ。

 ゴメンね。

 本当は体調は全然問題ないです! って先生に伝えると、安心して「それじゃぁ二人で遊びに行きませんか?」って誘われた。

 東京じゃぁ目立つから何処か地方都市にでも行って美味しい物食べて、お買い物しましょうと提案された。
 悪くないかなと思ってすぐに迎えに行って、転移で二人で博多の街に飛んでみた。

 まさか俺が歩いてて似てると思っても、本人の筈が無いと常識的な人なら思うだろうから、一応キャップだけ被って、堂々と綾子先生と二人で歩いた。

 綾子先生も先日買ったブランド物でいかにもセレブリティな感じで、装いを整えサングラスも掛けてた。

 こんなカッコすると綾子先生って凄いカッコいい大人の女感バリバリなんだなぁ、普段は使うことがない柑橘系のパヒュームの香りもさせていて、匂いだけでもクラクラしそうだったよ。

 綾子先生の見立てで私服を一通り揃えてもらって、何かチョットだけ大人な雰囲気になれたかな?
 俺はお礼に何を買おうかな?と思ってデパートを歩いてたら、やたら綺麗な時計が並んでいるお店を見つけた。

 時計もいいかな? と思って値段も気にせずに一番綺麗だなぁって思った時計を店員さんに、「これ下さい」と声をかけた。

 ちなみにお店のブランド名はCHOPARDって書いてあったけど、Swissの文字が見えるからドイツ語かフランス語だなつづり的にフランス語だろうね? なら「ショパール」か。

 店員さんが、至って丁寧に「お客様、大変失礼かと思いますが随分お若くお見えになりますが、こちらの時計のお値段はご確認していただけましたでしょうか?」と申し訳無さそうに言ってきた。


 俺は値段は見てなかったから「値段は見てないですけど、これが一番キレイだと思ったからこれを下さい」と再度伝えた。

 すると、少し顔を近づけて来てドキッとしたけど小声で「こちらの時計1200万円しますけどよろしかったでしょうか?」と尋ねられた。

 思ったより高かったけど「大丈夫ですよ」と言ってチョット後ろを振り返りアイテムボックスから1500万円程出した。

 先生はお手洗いに行ってたので、まだ知らないけど勝手に決めちゃった。
 戻ってきたらベルトのサイズ調整してもらわなきゃね。

 先生が戻ってきて、「先生今日のお礼に時計プレゼントしようと思って勝手に決めちゃったけどいいかな?」
 と言うと、先生がブランドの名前を見てチョット顔が引き攣った。


「チョット翔君このブランド知っててここに来ちゃったの?」

「いえ、知らなかったけど綺麗な時計だったから綾子に似合うかなと思って買ったよ」

 綾子って呼ばれて少し顔が赤くなった。


「ベルト調節してもらうから中に入って」と言って店内のやたら高級そうなソファーに座らせられた。

 先程の店員さんは、まさか1000万円以上の現金を小綺麗にしているとは言え、精々中学生か高校の低学年程度にしか見えない俺がポンっと出した事で、少し行動がぎこちなかったよ。

 ショパールを後にして、「インペリアーレジョアユリーだよねこれ……」と綾子先生が呟いた。

「知ってるの? 俺は全然知らなかったけど」

「まぁ一応夢のアイテムとしての知識程度にはね……」


「値段なんていくらでもいいじゃん、俺が綺麗だなって思って綾子に似合うと思ったから買った。それだけだよ」

「そうね、ありがとう」と言ってほっぺにチューをしてくれた。

 だいぶ先生も美緒と、感覚が近づいてきたね! いい傾向だぜ。

 その後は二人で焼き肉を食べに行った。
 個室のお店で、極上の佐賀牛を堪能してから東京に戻り、先生をホテルに送り届けた。


 今日は極上の笑顔スマイルがたくさん見れたな


 明後日からは、陸上競技が始まるし、後3個メダル貰っちゃおう!

 
 帰ってスマホ確認したら、アンナや香織から着信やメッセージが沢山入っててチョット焦ったぜ。
 斗真さんから預かってるスマホだけしか持って行ってなかったんだもん、ゴメンな……
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