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十五  草笛

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屍を操るのは簡単だ。死体が新鮮なら申し分ない。要するに、死体の神経がまだ生きていればいいだけで、そいつに毒を流し込む。毒はヒキガエルの皮膚の粘液を加工したものだ。そいつは蟾酥(せんそ)と言って生薬にもなる。薬効は強心剤や麻酔薬などだが、危険極まりない薬でもある。加工によっては中毒症状が甚大なのだ。後世、それはアルカロイドと呼ばれ、実際そいつのおかげでいろいろ厄介なことが起こった。まあ俺には関係ないがな。

だがその術は、強心効果で心臓を動かさせ、酸欠ですでに死んだ脳に命令するものだ。そいつはまあ単純な命令しかわからないがな。だがそいつこそ恐ろしいものだ。命令はふたつ。『殺せ』と『待て』だ。

「屍人(しびと)使い…あ…あんたやっぱ『草笛』の…」
「それ言ったら殺すって言わなかったか?」
「ご、ごめんなさい…」

草笛は俺の名じゃない。屍人使いも言いがかりだ。『忍科百草』は伊賀の百地三太夫が残した忍術の指南書だが、ここにこう記されている。

――おおよそ忍術とは騙しである。変化(へんげ)と欺瞞(ぎまん)こそその主体である。

だが俺のは違う。系統が違うのだ。『幻想無限』…眠って見る夢が現実になる。そういう術だ。古くからそれは『幻術』と言われていたが、本当に使えるものは俺しかいない。なんでそんなもんが俺にって?そんなことを言うわけねえだろ。

「重いのを我慢してこれを里から持ってきて正解だった。五つある。だいじに使え」

俺は荷を解き、その黒い塊をみなに配った。

「これは?」

楓花が怪訝そうに受け取る。

「そいつは『児雷也』。火竜の術のタネだ」
「ば、爆薬か!」
「そうとも言う」
「あんたこんなもん抱えていたのかよ!恐くなかったの?」

俺は呆れていた。まったくしのびの覚悟もねえのかよ。

「まちがって俺が吹っ飛ぶのも、俺にこいつで吹っ飛ばされるのも、どちらもすっげえ面白いじゃねえか。俺はそういう刹那が好きなんだ」
「あんたまちがいなくイカレてるよ」
「それがしのびってやつだろ?」

しのびは頭がどうかしてるやつがなるもんだ。まともなやつなら百姓でもするさ。

「すっげー」
「楽しみだな」
「なるべく大勢いるといいな」

トンビにフクロウにハヤブサ。俺の里のバカどもだ。まだ未熟だが、死なずにいればいいしのびになれるぞ、おまえら。

「さあおまえら、地侍どもを驚かせて来い」
「はーい!」

くのいちたちとすぐに走っていく。さあどうする?長尾景虎(上杉謙信)!
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