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十四  屍操の術

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三人は自由になったようだ。泥だらけな顔をしながらびくついてやがる。情けねえな、こいつらは。死んで当然、生きるだけしのびの恥だ。

「まったくどうしようもないな、お前らは」
「だって…」
「だってじゃねえ。いいから話を聞け。これからお前たちはそこのくのいちたちと組んで、この谷にある砦を片っ端から襲え。容赦はしなくていい。火をつけてもかまわねえ。とにかく大騒ぎになるようにしろ」
「はあ?」

辰たちだけじゃなく武田のくのいちたちも驚いたような顔をした。

「じゃあやってくれるのかい?」
「おまえ、名は?」

おんなは俺の目を真っすぐに見やがった。俺はちょっと恥ずかしかったんで目を逸らした。

「楓花(ふうか)。そっちは五十鈴。武田忍軍『歩き巫女』のくのいちよ」

どうせ偽名だろうがそんなことは大事じゃない。名前など記号だ。たんにわかればいいんだ。

「俺はカラス、そっちはトンビにフクロウにハヤブサだ」
「あ、兄貴!なんで俺たちがこいつらと」
「ばかやろう、お前らとっくに死んでてもおかしくないんだぞ。このおねーちゃんたちはいわば命の恩人だ。恩は返さねえとな。つーことで、このおねえちゃんたちとひと暴れしてこい」

素っ裸のくのいちたちは、なにがなんだかわからないって顔をしている。

「あんた、引き受けてくれるのね?」
「もう蜘蛛は逃げた。とっとと服を着ろ」

ふたりのくのいちは慌てて服を着た。

「段取りを聞こう」

楓花がそう言った。もう俺に敵意を向けるような目の光はなかったが、油断はできない。

「砦でいい。そこを潰しまわれ。山城には手を出さなくていい。あくまで守りを固めさせるのが狙いだ」
「あんたはどうする?」
「決まってんだろ?尾坂弾正と軒猿をぶち殺す」
「ひ、ひとりでか?まさかそんなこと、うまくいくのか?」

俺は呆れた顔をしたに違いない。俺のその顔を見たくのいちのふたりは、なんだか変なものを見るような目をしてやがった。

「うまくいくかいかねえかは関係ねえ。死ぬかどうかもな。肝心なのは、面白いかだ」
「面白い?なに言ってんだよ」
「悪いのか?」
「あたりまえだろ!いのちのやり取りをおもしろがるやつなんていないわよ!」

風説、うわさ、巷談、流説…織田信長の話だ。こいつはとんだ大馬鹿野郎らしい。尾張の小国の領主の小せがれが、領内、いや近隣豪族の小せがれたちをしめていき、しまいにゃガキの分際で尾張中を混乱におとしいれた。さらに、神社仏閣の地位を貶め、棄民に勝手に田畑を与え、商人から賄賂を取り優遇し、地頭を排して室町より続く荘園制度を崩壊させた。逆らうやつはみな殺し。『尾張のうつけもの』と世に言われるあいつは、その面白いやつの最たるものだ。逆らうものはぶち殺す。面白いじゃねえか。そういうやつがいるんだ、バーカ。

「やるのか、やらねえのか?」
「…やるよ。やるに決まってんだろ!」
「銀一貫…忘れんじゃねえぞ。もし違えたときは…」
「わ、わかってるよ。あたしらの命だろ?」

はあ、なんもわかってねえな、このねえちゃんは。

「ちげえよ。もし金払わねえでバックレたら、てめえの親玉の武田晴信公(信玄)の首ちょんぱだ」
「バ、バカなの?できるわけ…」

俺たちのまわりに、さっき俺に殺された武田の乱波たち五人が立っていた。みな青い顔をして、まるで死人のようだった。死人だけど。

「な、なんだこいつら!さっき死んだはずだ…」
「俺の手下にしたんだ。こいつらはすげえんだぜ。俺の仲間のそいつらよりな。なんせ死なない。だってもう死んでるんだからな」
「あんた…」

これが俺の術のひとつ、『屍操の術』だ。
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