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異世界地球編

15歳 自動車競走曲

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 休暇7日目の午後、自動車屋さんの案内で教習所に連れていってもらった。
 遣ったのは件の中東民兵が使いそうな荷台付きの車だ。
 イツキは助手席に、他の人は荷台に乗った。

「では、免許が取れたら購入お願いしますね」

 そう言って車屋さんは帰っていった。
 受付に入ると女性の事務員さんが声を掛けてきた。

「ここに来られたということは免許の取得を希望なのですよね。どのようなコースにしましょうか?」
「最短で免許が取れるコースがいいです。」
「魔力供給方式が手と足とありますがどういたしましょう?」
「両方だと時間はかかりますか?」
「いえ、乗る車が変わるだけで時間に変わりはありません。両方のコース7名でいいですか?」
「皆さんはどうします?」
『両方で結構です』

 ということで、全員手と足から魔力供給する車で練習開始だ。
 乗るのは白いセダンだ。
 まず乗る前にボンネットを開ける。
 エンジンオイルはないから、ブレーキオイルやウォッシャー液を確認する。
 タイヤも確認する。
 摩耗していたり溝が無くなってたりすると危険だが、教習所でそんな悪戯はないだろう。
 あと、ヘッドランプ、車幅灯、方向指示器、後退灯のチェックを2人一組で行う。
 他に装備として、三角の反射機材、発煙筒があることを確認する。
 替えのタイヤも用意しているか確認する。
 そして車を動かしてみる。
 ハンドルとアクセルが列車の魔力供給棹みたいになっていて、そこに魔力を供給することで走りだすようだ。
 初めから飛ばしてもあれなので、ゆっくりスタートする。
 車線も信号も横断歩道も標識もないのでただ周回するくらい。
 慣れてきたらS字やクランクを練習する。
 そして車庫入れと縦列駐車。

(一日で制覇できたんじゃないの?)

「実技はいいです。後は学科をお願いします」

 ということで実技はオッケーが出ました。
 次の学科だが、本当に基本的なことだ。
 左側通行で太い道路の方が優先ですとか、左から来る車が優先だとか、曲がるときは方向指示器を点滅させるとか、あんまり車間をつめてはいけないとか、スピードを出しすぎないとか基本的すぎる。
 ただ、授業にして受けて勉強するとなるとそれなりに時間がかかる。
 20単位を4日間で取得した。
 全員学科はそれで終わらせたので、その後は実習である。
 先に免許を取得したイツキは自動車屋で車を買うことにした。
 車はハイラックスというらしい。
 高いラグジュアリー性を売りにした車らしいが、そんなことはどうでもいい。
 自動車保険も高かったが入っておいた。

(事故ったら嫌だしね)

 あとサービスについても訊いておいた。

「買った後魔王城まで乗りに行く予定なんですが、故障の時とかはどうなりますか?」
「技術者を派遣して対応することになりますので、多少日数がかかるかと。支店が魔王城の近くにできればいいんですが……」

 とりあえず、魔王城近くに車屋さんの視点ができることを祈りつつ、白いハイラックスを購入して皆を迎えに行く。

「イツキ、車買ったのね!」
「ちょっと高かったですけどね。ホテルまで送りますよ」

 ということで、みんなを乗せてホテルまでドライブ。
 車庫は馬車用のスペースがあったのでそこに置かせてもらう。

「実技の方はどうです?」
「S字とかクランクとか嫌がらせにしか思えないわ。とりあえず、駐車と縦列駐車はできるようにしたけど……」
「あとちょっとですね」
「免許取ったらあれ動かせなさいよ」
「その日を待っておきますかね」

 明けて休暇11日目、全員が免許を取得した。

「めでたい!めでたいから初乗りに行こう」
「どこに行くのよ?」
「お城の前」
「本気でそこまで行くつもり?」
「冗談でこんなこと言わないよ」

 ということで、休暇12日目の朝、食料を積み込んで列車と競争した。
 並走する我々を列車を襲撃しようとしている盗賊だと思った人もいるみたいだった。
 駅で乗務員さんに事情は説明しておいた。
 ついでに食料も買わせてもらえることになった。
 駅に着いたら運転手は交代、別の人が運転する。
 そうして並走すること5日。最後の直線でイツキがフルスピードの180キロで走り車が先にゴール。
 すぐにブレーキを掛けた。
 そして街中をのろのろ運転。
 見世物の様に視線が集まる。駐車スペースはどうしようかと思ったが、兵舎の隣に駐車すればいいかとそのまま前進。
 兵舎でも見世物の様に視線が集まった。
 とりあえず3週間を前に帰還することができた。
 部屋に戻ると、多少埃が溜まっていたので魔法できれいにして絨毯を敷いてみた。
 部屋が豪華になった。

(フローリングもいいけど、赤絨毯はもっといいね)

 これで応接テーブルでもあれば完璧なのだが、悲しいかなスペースはない。

(まあ、自室に誰か呼ぶこともないだろう)

 残りの休暇は辞典でも読みながら新しい魔法陣について考えようかと思っていたら呼び出しがあった。
 大臣の秘書が直接呼びに来たのであわてて着替えて向かうと、なんてことはない、自動車についてだった。

「まずあれは何だね?」
「はい。あれは自動車です。名前はハイラックス」
「それが何でこんなところにある?」

(なんであるかって乗ってきたからに決まってるじゃないか)

「はい。パースで売っていたので購入しました。鉄道と競争しながらここまで乗ってきたのです」
「パースから乗ってきたのか。で、なんであそこに止めた?」

(止めた場所がまずかったのかな。確かに人通り多いからね)

「はい。自分のいる兵舎の隣だったからです。お邪魔でしたか?」
「いや、場所は別に気にしていない。問題は各所からあれは何だと質問の雨あられだということだ。仕事にならんよ」

(そんなに珍しいかな?以前から作っていたと思うんだけど……)

「ですが、陸軍は自動車を使ったことがありますが……」
「……いつ使ったんだ?」
「私がカシー山地へ向かう時に。でも、もっと大きな奴を使ってましたよ」
「……なんでも列車を追い抜いたそうだな?」

(180キロまでメーターがあったからそこまで飛ばしただけなんだけどな)

「はい。それがどうしました?」
「鉄道より早い輸送スピードのものが現れたのだ。注目しない方がおかしいだろう?」

(なるほど、魔力で動くトラックみたいなものを作ろうとしているわけだ)

「でも、私も鉄道の機関車に乗ったことありますけど、速くするのは簡単ですよ」
「なに?どうやるんだ?」
「魔力に優れたものを機関士にすればいいのです。魔力の注入量でスピードが上がりますから」

 これはイツキが最初の勲章をもらう前に試していたことだ。

「なるほどな。シンプルで分かりやすい説明だ。それで、あの自動車と列車、君ならどちらをより早くできる?」
「自動車でしょうか。列車は魔力を流す量の制限がありますから。」
「魔力の制限?そんなこと聞いたことはないが?」

 ナベリウスは怪訝そうな表情をした。

「魔力の供給棹にメーターがついていたのです。4本会った魔力供給棹のうち2本を持ってメーターをぎりぎりいっぱいにしたら速度が1.5倍になりましたよ」
「そこは鉄道省に訊いてみるしかあるまい。鉄道省がメーターが限界でそれ以上魔力を供給すると壊れる恐れがあると答えない限りは優れた魔力のものを鉄道の機関士にするという方針に切り替えなければならないだろう。ところで、私も運転できるのか?」
「通常は免許が必要でしょうが、練兵場くらいであれば免許がなくてもよいかと」
「うむ、では案内したまえ」
「はい」

 こうしてナベリウスは練兵場を数周すると喜びに満ちた表情をしていた。
 どうやら気にいったようだ。
 まず陸軍にかけ合って魔王城近くに教習所を作ると免許を取得。
 そして、自動車会社からカタログを取り寄せると車を選び出した。
 ナベリウスが選んだのは黒いセダン。
 名前はクラウンという。
 列車で輸送された車に乗って街中や城の前の広場を走ると、皆が珍しそうに見た。
 そしてナベリウスは、如何に自動車が優れているか自慢した。
 これを聞いた陸軍の将官は悔しそうにナベリウスの話を聞くのだった。
 そして、陸軍の将官達も自動車を購入するようになった。
 こうした流れは他の将官や佐官にも流れ、優秀な人は車を持っているというイメージが作られた。
 そして、翌年の初旬には自動車会社の支店が魔王城の城下町にオープンし、自動車の注文やメンテナンスに忙しくなっていくのだった。
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