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異世界地球編
5歳 魔法陣研究その1
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杖を持ったイツキはまさしく無敵で、祖父であるアーディンでも練習試合で勝つことができなくなっていた。
というのも、杖を持ったことでイツキの魔法のイメージが固まったためであった。
そのイツキが理想とするのは、某アニメの魔砲少女に他ならない。
「シュート!」
その声とともにイツキが杖を振るうと、小炎弾がアーディンに向けて飛んでいく。
アーディンの前方から6発、上下左右から8発、後方から1発、すべてイツキがコントロールしていた。
アーディンは防御魔法を発動させそれを受けきる。
受けたことによって周囲に煙が立ち込めるが、それが晴れた時アーディンは両手を上げて降参していた。
「まったく、こんなのに勝てるかってんだ」
「こんなのってひどい。おじいちゃんの孫娘5歳なのに。」
イツキはぶりっ子の様にアーディンに甘えた。
「ああ、かわいいかわいい。これでもう少し魔法に可愛げがあったらなぁ」
「やっぱりなんかひどいこと言われてる!」
そうやってふざけているとアーディンは真剣な表情になった。
「俺はお前にすべて教えた。だから訓練も今日でおしまいだ」
いつか来ると思っていた瞬間だった。
アーディンという壁を乗り越えたのだ。
「おじいちゃん……」
イツキは翌日から訓練がなくなることを惜しく思った。
「なに、訓練しないってだけでいつでも遊びに来ていいぞ。大歓迎だ」
遊びに行くのは、訓練よりも大好きだ。
「うん。その時はおいしいお菓子もよろしくね」
「おう、任せとけ」
祖父アーディンの訓練はここで終わった。
イツキは家に帰るとベットに座って考える。
エルフの魔法技術は祖父から受け継いだ。
しかし、まだ学ぶべきことがあるとイツキは感じていた。
某魔砲少女の必殺技、集束砲撃魔法をイツキは使えないでいた。
魔法陣で周囲の魔力を集め、そこに魔法使いの魔力も重ねて撃つ集束砲撃。
その魔法陣の技術習得が今後の目標とされた。
「お母さん、ちょっと旅に出てきてもいい?」
脈絡もなくイツキは母ウルラに切り出した。
「旅に?聞き間違いかしら、今旅に出たいって聞こえたような気がするけど」
「聞き間違いじゃないよ。武者修行の旅に出たいの」
そんなことを言われても5歳の子供を旅に出す親がいるだろうか?
「まだ旅には早すぎるわ!駄目よ、絶対!」
直接的にすると突破はできないと考えたイツキは絡め手でいくことにする。
「じゃあ、友達の家にお泊りに行ってもいい?」
「え、そうね。それくらいなら……でも向こうの家に迷惑をかけちゃだめよ」
ウルラは経験が無かったが、子供が友達の家に遊びに行くのは自然なことだと思った。
この排他的な村で生活するイツキに友達ができたことも喜ばしく思った。
「ありがとうお母さん。それじゃあ、明日からファスティギウムの街のタベルナちゃんの家に行ってくるね」
その言葉にウルラは驚いた。
「ファスティギウム!?そんな遠く、危険すぎるわ」
村の中の話だと思っていたウルラはイツキの話に反対する。
「でも、おじいちゃんにはもう負けなくなったし、1日で着くから大丈夫だよ」
ウルラはアーディンに魔法で勝てない。
そのアーディンに負けないと言う我が子を止めることはできなかった。
ただし、イツキはまだまだ子供。
何が起こるかわからないので付き添いを付けることを条件とした。
「まだ小さいんだから、行き帰りぐらいは2人で行動するようにしなさい」
「はーい。じゃあ、おじいちゃんに頼むね」
「そうしなさい」
そんな会話がなされた翌日、イツキとアーディンはまたもファスティギウムに向かい飛行することとなった。
母親ウルラが心配していても、孫と祖父は互いの実力をわかっているため遅れない程度に自由飛行することとなった。
ここで、イツキはバレルロールやインサイドループ等のマニューバを練習して祖父と距離を取り、ロー・ヨー・ヨーで追いつくといったことを繰り返していた。
魔力も上がったことで飛行速度も速くなったのか、お昼頃にはファスティギウムの町に到着した。
飛行時間は約4時間と前回から2時間も早くなったのだった。
メルカトール邸のガラスビーズののれんをくぐると最初と変わらず店番の豚の獣人さんがいた。
「あ、アーディン様にイツキ様。主人は2階におりますのでお上がり下さい」
1回しか来ていないが覚えてもらえたらしい。
おとなしく2階に上がると、メルカトールさんがいた。
「おお、アーディンはん。お久しぶりやなぁ」
久しぶりに見るメルカトールさんは相変わらず豚の顔で見分けがつかなかった。
「失礼している。今日も孫娘の頼みごとでな。相談に乗ってほしい」
「イツキはんやったなぁ。どないな頼み事やろか?」
「実は、魔法陣について調べたいのです」
「魔法陣?聞いたことあらへんのやけど、どういったものなん?」
イツキは自分の中のイメージを伝える。
「私が知りたいのは円の中にさらに円や記号が書かれている図形で、自分の周りにある魔力を集めてくれて魔法を使いやすくしてくれる、そういうものを探しているんです」
そう言うとメルカトールさんは一案をくれた。
「うーん、話を聞いてると魔法の制御に関することのようですな。それなら、人間の方が詳しいかもわかりませんな」
「そうですか。そうなるとまたクレピドの町でしょうか?」
イツキはアーディンに訊ねた。
「人間の技術というならそうなるな。ただ、ドゥクス閣下も情報をお持ちかもしれない。予定を変更して明日ロングムオラに出発しよう」
翌日、アーディンとイツキはロングムオラの街を目指した。
早朝に出発して昼前に到着。
飛行時間は3時間に短縮されていた。
到着した2人がドゥクス邸を訪れるとドゥクスの執務室に通され、その中の応接スペースで話をすることとなった。
「申し訳ございませんが、閣下のお知恵をお貸しいただければと参りました」
イツキはアーディンがかしこまっている姿を初めて見た。
信じられないものを見るようにアーディンを見つめていた。
「いいよ。僕のわかる範囲でなら答えてあげよう」
対してドゥクスは穏やかだ。
「ありがとうございます。さ、イツキ。話してご覧なさい」
話を振られたので取り合えす訊いてみることにした。
「はい。閣下は魔法陣についてご存じですか?」
「魔法陣……いったいどんなものだい?」
「さまざまな図形や文字を組み合わせて魔法を使いやすくする技術です」
それを聞いたドゥクスには心当たりがあった。
「ああ、人間のせせこましい知恵の一つだね。それをどうするんだい?」
イツキは迷わず言った。
「魔法陣を学びたく思います」
ドゥクスは珍しいものでも見るかのようにイツキを見た。
「あんなものを学んで得る物があるとも思えないけど、目的はわかった。この屋敷の地下に食事と研究さえできればいいという人間がいる。会ってみるといい」
「本当ですか。ありがとうございます」
そう言うと、机の上のベルを鳴らす。
するとすぐにメイドさんが入ってきた。
「アンキラ、こちらのレディをマギーチェスキーと会わせてやってくれ」
「はっ!では、イツキ様、ご案内いたします」
そうしてイツキは執務室から出て行った。
「で、杖の調子はどうなんだ?」
杖ができてからしばらく経つ。
ドゥクスはそのデータが欲しかった。
「我々は認識を改める必要があるようです。杖は3流が2流になる道具ではなく1流が超1流になるものであると」
「それほどのものか」
「はい。あの杖を送ってから私は孫に土を付けられません。特に初級魔法を複数操作することに長けているようで、ファイア・バレットを15発完璧に操作できる者はそう多くはないでしょう。それも手加減してですから本気を出せばどうなるか」
「それほどか」
その言葉にドゥクスは認識を改める必要があると考えた。
強いものは強い。
そこで止まってはだめなのだ。
強いものをより強く。
それがドゥクスの頭に浮かんだことだった。
しかし、1つ懸案事項があった。
「しかし、費用対効果はどうなのだ?」
「あの杖を作ろうとすると高くつくでしょう。身の丈を超すような世界樹の枝に巨大なルビー、玉鋼に金メッキ、正直に言えばやりすぎました。ただ、職人の話では大樹の枝と宝石があればよいとのこと。世界樹から落ちた枝ともっと小さな宝石があれば十分にものになるかと思います」
それを聞いたドゥクスはとりあえず試してみることにした。
「そうか。では帰宅ついでに世界樹の枝でも拾ってきてもらうかな」
そう言うとドゥクスは布の袋をテーブルの上に置いた。
ただの布の袋ではなく、容量が見た目以上に大きい袋である。
「承知いたしました」
「イツキちゃんは勉強させておくからね。心配いらないよ」
それはイツキを預かるということだった。
「……正直なところ魔法陣など取るに足らない技術だと思うのですが」
アーディンはイツキを帰してもらうため、魔法陣について不要と論じた。
しかし、ドゥクスの見解は違っていた。
「杖も取るに足らないと思ってたじゃないか。意外と有用かもしれないよ」
もはやイツキが帰るにはドゥクスを満足させるほかないと考えたアーディンは今後の予定を聞いた
「そうですか。期間はどの程度を予定しておられますか?」
「1年はかかるとみている。現状の彼らの研究はまだ実用化できる範囲じゃない。完成された既存の魔法を覚えるより時間はかかるだろうね」
「ではその旨我が娘に急ぎ伝えておきましょう。今日帰宅する予定だったものですので心配していることでしょう」
妻と娘に責められることが予想できたアーディンだった。
「ああ、彼女の親御さんにもよろしくね」
アーディンは話が終わるとすぐに帰路に就いた。
途中、ファスティギウムで1泊し、翌日にはウルラにイツキが研究のためにロングムオラに滞在することを伝えたのだった。
一方イツキは屋敷の地下に来ていた。
研究しかしていないということで、悪臭が漂う環境だった。
そこをクリーンの魔法を使いながら進んでいく。
ある1室の前でアンキラは立ち止り、コンコンとノックをする。
しかし、返事が無い。
そこでアンキラは問答無用で扉を開けた。
サンタクロースの様なひげを生やしたおじいさんがそこにいた。
「マギーチェスキー様、ノックには返答していただきたいのですが?」
アンキラは責めるような口調だが、マギーチェスキーは孫に接する祖父の様に対応した。
「いや、アンキラ嬢。没頭しておったのよ。んん?そいつは誰じゃ?」
アンキラの後ろからイツキが出てくる。
「イツキと申します。魔法陣について学ばせていただきに参りました」
「おお、弟子ということじゃな。エルフにしてはなかなか見所がある。ちょっと待っておれ」
マギーチェスキーは机の引き出しを引っ張り出して1枚の紙を差し出す。
紙には二重の円と内側の円に外接する六芒星、円と円の間には≪light a fire≫という英語がぐるりと1周書かれている。
「これは火に関係する魔法陣ですか?」
「そのとおりじゃ。どうしてわかった?」
そう問われて、イツキは英語の部分を指さした。
「ここに≪fire≫、つまり炎という言葉が入っています」
「なんと、これが読めるというのか」
マギーチェスキーは驚きを禁じ得なかった。
「あまり詳しくないですが、これは読めます」
「記号かと思ったが、文字だったとはのう。そうじゃ、その魔法陣を使ってみてくれんか?」
イツキは魔法陣に少しだけ魔力を込めた。
すると魔法陣から小さな火が出た。
「では次にこれを使ってみてくれんか?」
今度の紙には四重の円と内側の円に外接する六芒星、1つ目と2つ目の円の間と3つ目と4つ目の円の間に≪light a fire≫と書かれたものだった。
イツキは先ほどと同様、魔法陣に少しだけ魔力を込めた。
すると魔法陣から先ほどより大きな火が出た。
「ふうむ、複雑にすればするほど力が大きくなるか……」
マギーチェスキーは研究モードに入ってしまった。
イツキはアンキラに案内のお礼をし、戻ってもいいと言ったのだがアンキラは固辞して地下に残った。
手持無沙汰なイツキは何かしようとして思い付いた。
(紙の上じゃなくても魔法陣は発動するのか?)
疑問に思ったら即実験である。
イツキは小さな火を起こした魔法陣を思い浮かべ、それが手のひらの上に発生することを想像した。
すると手のひらの上に魔法陣が現れ、小さな火を出して消えた。
「おぬし、今何をしたんじゃ?」
いつの間にやら研究モードから戻ってきたマギーチェスキーから質問が飛ぶ。
「魔法陣を思い浮かべて手の上にあるよう想像しただけですよ」
「空中に魔法陣を作りだすなんて聞いたこともないわい。ちょっと手伝いなさい」
そうしてイツキのマギーチェスキーの弟子としての日々が始まった。
というのも、杖を持ったことでイツキの魔法のイメージが固まったためであった。
そのイツキが理想とするのは、某アニメの魔砲少女に他ならない。
「シュート!」
その声とともにイツキが杖を振るうと、小炎弾がアーディンに向けて飛んでいく。
アーディンの前方から6発、上下左右から8発、後方から1発、すべてイツキがコントロールしていた。
アーディンは防御魔法を発動させそれを受けきる。
受けたことによって周囲に煙が立ち込めるが、それが晴れた時アーディンは両手を上げて降参していた。
「まったく、こんなのに勝てるかってんだ」
「こんなのってひどい。おじいちゃんの孫娘5歳なのに。」
イツキはぶりっ子の様にアーディンに甘えた。
「ああ、かわいいかわいい。これでもう少し魔法に可愛げがあったらなぁ」
「やっぱりなんかひどいこと言われてる!」
そうやってふざけているとアーディンは真剣な表情になった。
「俺はお前にすべて教えた。だから訓練も今日でおしまいだ」
いつか来ると思っていた瞬間だった。
アーディンという壁を乗り越えたのだ。
「おじいちゃん……」
イツキは翌日から訓練がなくなることを惜しく思った。
「なに、訓練しないってだけでいつでも遊びに来ていいぞ。大歓迎だ」
遊びに行くのは、訓練よりも大好きだ。
「うん。その時はおいしいお菓子もよろしくね」
「おう、任せとけ」
祖父アーディンの訓練はここで終わった。
イツキは家に帰るとベットに座って考える。
エルフの魔法技術は祖父から受け継いだ。
しかし、まだ学ぶべきことがあるとイツキは感じていた。
某魔砲少女の必殺技、集束砲撃魔法をイツキは使えないでいた。
魔法陣で周囲の魔力を集め、そこに魔法使いの魔力も重ねて撃つ集束砲撃。
その魔法陣の技術習得が今後の目標とされた。
「お母さん、ちょっと旅に出てきてもいい?」
脈絡もなくイツキは母ウルラに切り出した。
「旅に?聞き間違いかしら、今旅に出たいって聞こえたような気がするけど」
「聞き間違いじゃないよ。武者修行の旅に出たいの」
そんなことを言われても5歳の子供を旅に出す親がいるだろうか?
「まだ旅には早すぎるわ!駄目よ、絶対!」
直接的にすると突破はできないと考えたイツキは絡め手でいくことにする。
「じゃあ、友達の家にお泊りに行ってもいい?」
「え、そうね。それくらいなら……でも向こうの家に迷惑をかけちゃだめよ」
ウルラは経験が無かったが、子供が友達の家に遊びに行くのは自然なことだと思った。
この排他的な村で生活するイツキに友達ができたことも喜ばしく思った。
「ありがとうお母さん。それじゃあ、明日からファスティギウムの街のタベルナちゃんの家に行ってくるね」
その言葉にウルラは驚いた。
「ファスティギウム!?そんな遠く、危険すぎるわ」
村の中の話だと思っていたウルラはイツキの話に反対する。
「でも、おじいちゃんにはもう負けなくなったし、1日で着くから大丈夫だよ」
ウルラはアーディンに魔法で勝てない。
そのアーディンに負けないと言う我が子を止めることはできなかった。
ただし、イツキはまだまだ子供。
何が起こるかわからないので付き添いを付けることを条件とした。
「まだ小さいんだから、行き帰りぐらいは2人で行動するようにしなさい」
「はーい。じゃあ、おじいちゃんに頼むね」
「そうしなさい」
そんな会話がなされた翌日、イツキとアーディンはまたもファスティギウムに向かい飛行することとなった。
母親ウルラが心配していても、孫と祖父は互いの実力をわかっているため遅れない程度に自由飛行することとなった。
ここで、イツキはバレルロールやインサイドループ等のマニューバを練習して祖父と距離を取り、ロー・ヨー・ヨーで追いつくといったことを繰り返していた。
魔力も上がったことで飛行速度も速くなったのか、お昼頃にはファスティギウムの町に到着した。
飛行時間は約4時間と前回から2時間も早くなったのだった。
メルカトール邸のガラスビーズののれんをくぐると最初と変わらず店番の豚の獣人さんがいた。
「あ、アーディン様にイツキ様。主人は2階におりますのでお上がり下さい」
1回しか来ていないが覚えてもらえたらしい。
おとなしく2階に上がると、メルカトールさんがいた。
「おお、アーディンはん。お久しぶりやなぁ」
久しぶりに見るメルカトールさんは相変わらず豚の顔で見分けがつかなかった。
「失礼している。今日も孫娘の頼みごとでな。相談に乗ってほしい」
「イツキはんやったなぁ。どないな頼み事やろか?」
「実は、魔法陣について調べたいのです」
「魔法陣?聞いたことあらへんのやけど、どういったものなん?」
イツキは自分の中のイメージを伝える。
「私が知りたいのは円の中にさらに円や記号が書かれている図形で、自分の周りにある魔力を集めてくれて魔法を使いやすくしてくれる、そういうものを探しているんです」
そう言うとメルカトールさんは一案をくれた。
「うーん、話を聞いてると魔法の制御に関することのようですな。それなら、人間の方が詳しいかもわかりませんな」
「そうですか。そうなるとまたクレピドの町でしょうか?」
イツキはアーディンに訊ねた。
「人間の技術というならそうなるな。ただ、ドゥクス閣下も情報をお持ちかもしれない。予定を変更して明日ロングムオラに出発しよう」
翌日、アーディンとイツキはロングムオラの街を目指した。
早朝に出発して昼前に到着。
飛行時間は3時間に短縮されていた。
到着した2人がドゥクス邸を訪れるとドゥクスの執務室に通され、その中の応接スペースで話をすることとなった。
「申し訳ございませんが、閣下のお知恵をお貸しいただければと参りました」
イツキはアーディンがかしこまっている姿を初めて見た。
信じられないものを見るようにアーディンを見つめていた。
「いいよ。僕のわかる範囲でなら答えてあげよう」
対してドゥクスは穏やかだ。
「ありがとうございます。さ、イツキ。話してご覧なさい」
話を振られたので取り合えす訊いてみることにした。
「はい。閣下は魔法陣についてご存じですか?」
「魔法陣……いったいどんなものだい?」
「さまざまな図形や文字を組み合わせて魔法を使いやすくする技術です」
それを聞いたドゥクスには心当たりがあった。
「ああ、人間のせせこましい知恵の一つだね。それをどうするんだい?」
イツキは迷わず言った。
「魔法陣を学びたく思います」
ドゥクスは珍しいものでも見るかのようにイツキを見た。
「あんなものを学んで得る物があるとも思えないけど、目的はわかった。この屋敷の地下に食事と研究さえできればいいという人間がいる。会ってみるといい」
「本当ですか。ありがとうございます」
そう言うと、机の上のベルを鳴らす。
するとすぐにメイドさんが入ってきた。
「アンキラ、こちらのレディをマギーチェスキーと会わせてやってくれ」
「はっ!では、イツキ様、ご案内いたします」
そうしてイツキは執務室から出て行った。
「で、杖の調子はどうなんだ?」
杖ができてからしばらく経つ。
ドゥクスはそのデータが欲しかった。
「我々は認識を改める必要があるようです。杖は3流が2流になる道具ではなく1流が超1流になるものであると」
「それほどのものか」
「はい。あの杖を送ってから私は孫に土を付けられません。特に初級魔法を複数操作することに長けているようで、ファイア・バレットを15発完璧に操作できる者はそう多くはないでしょう。それも手加減してですから本気を出せばどうなるか」
「それほどか」
その言葉にドゥクスは認識を改める必要があると考えた。
強いものは強い。
そこで止まってはだめなのだ。
強いものをより強く。
それがドゥクスの頭に浮かんだことだった。
しかし、1つ懸案事項があった。
「しかし、費用対効果はどうなのだ?」
「あの杖を作ろうとすると高くつくでしょう。身の丈を超すような世界樹の枝に巨大なルビー、玉鋼に金メッキ、正直に言えばやりすぎました。ただ、職人の話では大樹の枝と宝石があればよいとのこと。世界樹から落ちた枝ともっと小さな宝石があれば十分にものになるかと思います」
それを聞いたドゥクスはとりあえず試してみることにした。
「そうか。では帰宅ついでに世界樹の枝でも拾ってきてもらうかな」
そう言うとドゥクスは布の袋をテーブルの上に置いた。
ただの布の袋ではなく、容量が見た目以上に大きい袋である。
「承知いたしました」
「イツキちゃんは勉強させておくからね。心配いらないよ」
それはイツキを預かるということだった。
「……正直なところ魔法陣など取るに足らない技術だと思うのですが」
アーディンはイツキを帰してもらうため、魔法陣について不要と論じた。
しかし、ドゥクスの見解は違っていた。
「杖も取るに足らないと思ってたじゃないか。意外と有用かもしれないよ」
もはやイツキが帰るにはドゥクスを満足させるほかないと考えたアーディンは今後の予定を聞いた
「そうですか。期間はどの程度を予定しておられますか?」
「1年はかかるとみている。現状の彼らの研究はまだ実用化できる範囲じゃない。完成された既存の魔法を覚えるより時間はかかるだろうね」
「ではその旨我が娘に急ぎ伝えておきましょう。今日帰宅する予定だったものですので心配していることでしょう」
妻と娘に責められることが予想できたアーディンだった。
「ああ、彼女の親御さんにもよろしくね」
アーディンは話が終わるとすぐに帰路に就いた。
途中、ファスティギウムで1泊し、翌日にはウルラにイツキが研究のためにロングムオラに滞在することを伝えたのだった。
一方イツキは屋敷の地下に来ていた。
研究しかしていないということで、悪臭が漂う環境だった。
そこをクリーンの魔法を使いながら進んでいく。
ある1室の前でアンキラは立ち止り、コンコンとノックをする。
しかし、返事が無い。
そこでアンキラは問答無用で扉を開けた。
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アンキラは責めるような口調だが、マギーチェスキーは孫に接する祖父の様に対応した。
「いや、アンキラ嬢。没頭しておったのよ。んん?そいつは誰じゃ?」
アンキラの後ろからイツキが出てくる。
「イツキと申します。魔法陣について学ばせていただきに参りました」
「おお、弟子ということじゃな。エルフにしてはなかなか見所がある。ちょっと待っておれ」
マギーチェスキーは机の引き出しを引っ張り出して1枚の紙を差し出す。
紙には二重の円と内側の円に外接する六芒星、円と円の間には≪light a fire≫という英語がぐるりと1周書かれている。
「これは火に関係する魔法陣ですか?」
「そのとおりじゃ。どうしてわかった?」
そう問われて、イツキは英語の部分を指さした。
「ここに≪fire≫、つまり炎という言葉が入っています」
「なんと、これが読めるというのか」
マギーチェスキーは驚きを禁じ得なかった。
「あまり詳しくないですが、これは読めます」
「記号かと思ったが、文字だったとはのう。そうじゃ、その魔法陣を使ってみてくれんか?」
イツキは魔法陣に少しだけ魔力を込めた。
すると魔法陣から小さな火が出た。
「では次にこれを使ってみてくれんか?」
今度の紙には四重の円と内側の円に外接する六芒星、1つ目と2つ目の円の間と3つ目と4つ目の円の間に≪light a fire≫と書かれたものだった。
イツキは先ほどと同様、魔法陣に少しだけ魔力を込めた。
すると魔法陣から先ほどより大きな火が出た。
「ふうむ、複雑にすればするほど力が大きくなるか……」
マギーチェスキーは研究モードに入ってしまった。
イツキはアンキラに案内のお礼をし、戻ってもいいと言ったのだがアンキラは固辞して地下に残った。
手持無沙汰なイツキは何かしようとして思い付いた。
(紙の上じゃなくても魔法陣は発動するのか?)
疑問に思ったら即実験である。
イツキは小さな火を起こした魔法陣を思い浮かべ、それが手のひらの上に発生することを想像した。
すると手のひらの上に魔法陣が現れ、小さな火を出して消えた。
「おぬし、今何をしたんじゃ?」
いつの間にやら研究モードから戻ってきたマギーチェスキーから質問が飛ぶ。
「魔法陣を思い浮かべて手の上にあるよう想像しただけですよ」
「空中に魔法陣を作りだすなんて聞いたこともないわい。ちょっと手伝いなさい」
そうしてイツキのマギーチェスキーの弟子としての日々が始まった。
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