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第一章 旅立ち

第十三話 ぼくとシリー

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 「じゃあ、フィアと子供達を頼んだよ」

 ぼくはそういって、相棒のクリアの頭を抱いて首をゴロゴロした。
 間もなく、ぼくとシリー以外はアイリスに一旦帰還する。
 
 「それじゃ、気をつけていってらっしゃい。」
 「ん、すぐに戻って来る。サイの方こそ気をつけて。」

 最後にフィアとそんなことを話し、クリアに行けと命じる。
 直後あのものすごい速さでクリアは走り去って行った。

 「す、スッゴく速いですね・・・。」

 呆然としてシリーが言う。
 うん、確かにあれは速い、というか速過ぎるんだよね。

 フィア、頑張って。

 心の中でお悔やみの追悼を申し上げる。
 それはそうと。

 「ここに残ってほんとによかったの?はっきり言うと死んでしまうかも知れないよ?」

 今更言っても遅いが、一応もう一回言ってみた。彼女の答えはあいもかわらず。

 「サイさんが一人でここに残るくらいなら私がここに残る事に悔いはありません。フフッ、死ぬときは一緒ですね(笑)」

 いや、そこ笑って言われても!?
 むしろ怖くなったよ!?
 ちょっと後ろの警戒もした方がいいのかな?

 ぼくがそんなことを考えていると。

 「今日はもう、行動するには遅すぎますし、明日に備えて寝る準備をしませんか?」

 確かに時刻はもう体内時計で十時を過ぎたといったところだろうか。この世界の基準で言うならもう深夜だ。

 「そうだね。じゃあ、ご飯を食べてもう寝ようか。」

 「はい!」

 ぼくはテントをテキパキと組み立てていく。シリーには調理の方を任せている。
 なんでも、料理には自信があるそうだ。
 テントを張り終わったが、もうすることがなくなった。シリーは今もまだ調理中だ。

 「絶対に見てはいけませんよ?」

 調理を始める前に言っていた事を思い出す。
 いやいや、鶴の恩返しか!っとツッコミそうになってしまった。

 ふと、シリーについて考える。
 家族を、友人、村を失った彼女の心境を。
 やっぱりつらいだろうなぁ。そういう意味では街に行かせなくて正解だったとも言えるかもしれない。
 ここにいて、気分がもしすこしでも晴れるなら、それもいいかも知れない。少なくとも落ち着くまでは。
 明日行くのは、可能性は低いが神殿の偵察ついでに、生き残りの探索もかねている。
 少しでも生き残りが見つかれば、彼女の心も安定するんだろうか。人は同じ苦しみを持つ人と共感することで、心の安寧を保つと聞いたことがあるけど。
 考えても今はまだわからない、が、もし彼女が助けを求めたなら、ぼくはできる限りの事をしてあげようと思った。

 「サイさ~~ん、出来ましたよ~。」
 
 少し遠くから、シリーがぼくを呼ぶ。ここからでも、いい匂いがわかる。料理が得意って本当なんだな。

 さあ!私の魂心の料理、ご賞味あれ!

 まあ、こうしている彼女からは全然心配とかなさそうに見えるけど。
 楽しそうにこっちを伺ってくる彼女にぼくは。

 「今行くよー。」

 とだけ告げ、シリーの用意した料理の近くへ。「いただきます」と一緒に合掌した後、テーブルの上に乗せた料理に手を伸ばす。
 
 「うっま!すごくおいしいよ、これ!」
 「はい!腕によりをかけて作りましたから!」

 料理を残さず綺麗に完食したぼくは、もう寝ようかとだけ声をかけてテントへ向かう。シリーも後ろをついて来ている。
 テントは言うまでもなく、別々のを用意している。男女一緒に寝るとか・・・、後でフィアにしられたらなにを思われるかわからない。
 
 テントの前に着く。

 「それじゃお休み。」
 「はい、お休みなさい」

 そういって、自分のテントに入る。シリーも真似るようにしてお邪魔しますといって入る。

 「待て待て。」
 「どうかしましたか?寝ないのですか?」
 「いやいや、そうじゃなくて!君のテントはあっち、こっちがぼく。」
 「はい、そうですね」

 おい!はい、そうですねって。

 「男女が一緒に寝るというのはとても危険なんだよ。もしかしたらぼくがシリーを襲うかも知れないんだよ?」
 「か、覚悟は出来てますっ!」

 いやちげーよ。そんなこと聞いてない。ここはおとなしく自分のテントに帰るところだよ。
 シリーが途端に、シュンとしてこちらを見ながら・・・。

 「その・・・、今一人になっちゃうとどうしても寂しくて泣きそうで・・・。」

 うっ、そうだった。酷い勘違いをしてしまった。彼女は態度に出さないだけで村を丸ごと失っているんだった。大切なものごと、全て。

 「やっぱり、だめ、ですか?」
 
 破壊力抜群の上目遣いを、ぼくが断れるはずがなかった。


 ***




 仕方なくぼくのテントに入れる事にした。
 布団はさすがに別々だ。
 
 気まずい。いや、寝るだけなんだけど・・・、なにか話さないといけない気がしてしまう。
 
 「今日は本当にありがとうございました。私達を助けていただいて。」
 
 そんな空気の中、シリーが口をひらく。その言葉には何故かぼくの心が躍っているのがわかる。助けれた事に満足してるのかな?
 ぼくはなにも言わないで聞き手に徹する。

 シリーがまたぽつりと言う。

 「私、ほんとはすごく怖かったんです・・・。子供達がいるから泣かなかっただけで、心底怖くってもうダメだと、あの時は思いました。」

 それは、誰でもそうだろう。自分より強い敵がいれば、ましてや戦闘経験がないものならどれ程恐怖するだろうか。

 「でも、そんな時にサイさん。貴方が来てくれました。颯爽と大蛇を切り伏せて、魔物を従え、ましてや大蛇相手に圧勝して助けてくれたんです。びっくりもしたけど、それでもやっぱり安心したんです、本当に嬉しかった・・・。だから、ありがとうございます」

 素直に喜んでいいのかな。そんなに感謝なんてされたことって今までなかったからどういう顔していいかわからない。

 「・・・・・・・・・。」
 
 そういって、彼女はすっと立ち上がり、ぼくの近くへ来る。
 腰を下ろすとそのままぼくの上へのしかかるように、乗ってきた。
 え、ちょっと、シリーさん?近くないですか?

 そのまま首に手を回して来て、自然と顔が近くなる。
 意識してなかったけど、シリーはかなり美人だ。銀髪は夜の月光に照らされて 綺麗に透き通るような輝きを 放っている。
 それと情熱的な紅い瞳は、今少し潤ませてぼくを見つめている。
 お互いの熱い吐息がぶつかり合う。

 「抱きしめて、くれませんか?」

 そう、言われた。
 ぼくにはフィアが・・・あぁ、でも。
 頭ではわかっていても体が動かない。
 いや、動くのは動くが、自分の思い通りにはならなかった。
 ぼくの腕が彼女を優しく抱く。
 
 「んぅん、もっと強く・・・、お願い・・・。」

 甘えるような声にぼくは、段々と考える事が出来なくなってくる。
 より強くぎゅうっと抱きしめる。
 悶えるような声にぼくの心はどんどんヒートアップしてくる。
 鼓動が聞こえてくる、お互いの鼓動が。
 シリーはもしかしてぼくの事を・・・。
 どうなんだろうか、確かめる、べきなんだろうか。
 今なら聞ける、でも。
 聞いたらこれ以上は後戻り出来なくなるし、答えを出さなければいけない。
 シリーは、そんな情けなくも土壇場で迷い尻ごんでいるぼくに言い放った。

 「私、貴方の事が好きです。初めて出会えた今日あの時から。ずっとずっとお側においてくれませんか?」
 
 頭が真っ白になる。混乱している。今日助けたばかりの女の子に告白され、一目惚れですと告げられて。
 ぼくは・・・、彼女をどうしようとしているんだろうか。
 ずっと強く抱きしめたまま話すことができない。
 好きとかじゃないけど、でもだからといって無碍にはできないというか・・・。
 嗚呼、もう!

 その時だった、森の奥で大きな爆発音があったのは。

 二人してビクッと驚いて、勢いで離れた。

 よし!今だ!

 「何があったか調べて来る。シリーはここで待ってて!」

 そのまま、勢いよくテントを飛び出した。
 シリーの顔を思い出す。
 泣きそうでそれでいて、とても不満そうな顔をしていた気がする。
 シリーになんか罪悪感がわいてきたな・・・。
 いやいや、これは戦略的撤退かつ、人命救助の考えにもとずく行いなのだ。
 決してへたれたわけではない。
 
 そう・・・・・・だよね?
 

 
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