9 / 45
幕間①
しおりを挟む
『波動記録の活用による意識の量子化と多次元化の可能性に関する検討』
気に入らない。
吐き捨てるような思いとともに途中まで読んだ学術誌を机の上に放り投た。
突然現れた人間にあっという間に先にいかれた。これでもこの分野では世界的に見ても最先端を競っている自信はあったし、そこに到達するまでに少なくない犠牲を払って努力してきたつもりだ。それを横から出てきたようなやつに一瞬で抜き去られた。
論文に書かれていたのはこれまで積み上げられてきた観点とはまるで異なる視点で、傍目には眉唾ものだったけど、掲載されているのは査読が厳しいことでも知られる学術誌だ。
完全に虚を突かれた。浮かんでくるのは悔しさよりも、出し抜かれたような無力感だった。
「宮入、翔太……」
数年前には何度か名前を聞いたことがあった。でもそれは医学とか創薬分野での話で、私とは関係ない世界の人間としてのはずだった。
分野の違いもさることながら、何よりも。
「貴方は遥か昔にオカルトの領域に堕ちた人間のはず……」
期待の若手として一世を風靡した宮入翔太は、そのまま真っ当な研究者としてのキャリアを積み上げることはなく、ほどなくして「呪い」とやらの研究に傾倒していき、あっという間に学界から姿を消した。
そのはずだった。
その宮入翔太が異分野であるはずの領域でいきなり革新的な成果を上げた。
何か環境に大きな変化があったのか、それとも。
――宮入翔太は本物の天才なのか。
「……認めない。貴方が何者か確かめるまでは」
一度放り投げた学術誌を拾い、もう一度初めから宮入翔太の論文を読み直す。
今まで私が選択してきたものが間違ってなかったと信じるためには、そこから始めるしかなかった。
気に入らない。
吐き捨てるような思いとともに途中まで読んだ学術誌を机の上に放り投た。
突然現れた人間にあっという間に先にいかれた。これでもこの分野では世界的に見ても最先端を競っている自信はあったし、そこに到達するまでに少なくない犠牲を払って努力してきたつもりだ。それを横から出てきたようなやつに一瞬で抜き去られた。
論文に書かれていたのはこれまで積み上げられてきた観点とはまるで異なる視点で、傍目には眉唾ものだったけど、掲載されているのは査読が厳しいことでも知られる学術誌だ。
完全に虚を突かれた。浮かんでくるのは悔しさよりも、出し抜かれたような無力感だった。
「宮入、翔太……」
数年前には何度か名前を聞いたことがあった。でもそれは医学とか創薬分野での話で、私とは関係ない世界の人間としてのはずだった。
分野の違いもさることながら、何よりも。
「貴方は遥か昔にオカルトの領域に堕ちた人間のはず……」
期待の若手として一世を風靡した宮入翔太は、そのまま真っ当な研究者としてのキャリアを積み上げることはなく、ほどなくして「呪い」とやらの研究に傾倒していき、あっという間に学界から姿を消した。
そのはずだった。
その宮入翔太が異分野であるはずの領域でいきなり革新的な成果を上げた。
何か環境に大きな変化があったのか、それとも。
――宮入翔太は本物の天才なのか。
「……認めない。貴方が何者か確かめるまでは」
一度放り投げた学術誌を拾い、もう一度初めから宮入翔太の論文を読み直す。
今まで私が選択してきたものが間違ってなかったと信じるためには、そこから始めるしかなかった。
1
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
冬の水葬
束原ミヤコ
青春
夕霧七瀬(ユウギリナナセ)は、一つ年上の幼なじみ、凪蓮水(ナギハスミ)が好き。
凪が高校生になってから疎遠になってしまっていたけれど、ずっと好きだった。
高校一年生になった夕霧は、凪と同じ高校に通えることを楽しみにしていた。
美術部の凪を追いかけて美術部に入り、気安い幼なじみの間柄に戻ることができたと思っていた――
けれど、そのときにはすでに、凪の心には消えない傷ができてしまっていた。
ある女性に捕らわれた凪と、それを追いかける夕霧の、繰り返す冬の話。
人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?
石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。
ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。
ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。
「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。
小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。
扉絵は汐の音さまに描いていただきました。
千津の道
深水千世
ライト文芸
ある日、身に覚えのない不倫の告発文のせいで仕事を退職させられた千津。恋人とも別れ、すべてが嫌になって鬱屈とする中、バイオリンを作る津久井という男と出会う。
千津の日々に、犬と朝食と音楽、そして津久井が流れ込み、やがて馴染んでいくが、津久井にはある過去があった。
【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました
藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。
次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる