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第4話
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練習が終わって部室棟の前まで戻るけど、部室は人数の割に小さいから、2年生が着替えてから1年生が着替えるという流れが何となくできていた。2年生も1年前に同じ経験をしてるから部室はすぐに空くけど、それまでは部室棟の前で待つことになる。
「花野って、茅吹先輩と仲よかったよね?」
「えっ?」
同じように部室が空くのを待っていた秋浜君から不意打ち気味に聞かれて、素っ頓狂な声が出た。
今日の昼休みもそうだったけど、秋浜君はそういうのに興味がないと思ってたから、そういう意味でもその質問は意外で、どう答えればいいか思考が止まる。
「えーと、そうでもないよ?」
結局、何の工夫もなく否定してみる。
「え。そっか、困ったなあ……」
幸い秋浜君は疑うことなく。腕を組んで悩み始める。
あれ、わたしと茅吹先輩が仲良くないと困るって、どういうことだろう。てっきり興味半分であれこれ聞かれるのかなあと思ってたけど。
「俺さ、茅吹先輩に勝ちたいんだ」
忘れてた。秋浜君はマジメだ。
一瞬でも秋浜君を下世話に疑ったことをちょっと反省する。でも、少しだけ言い訳を認めてもらえるなら、トラックから部室棟に戻ってくるまでの間も須々木先輩が茅吹先輩と一緒にいて、今日は二人で帰るのかなーとか思ったりだったから、そんな発想にならざるを得なかった。
「でも、今日ももうちょっとで勝てそうじゃなかった?」
今日の練習の最後の1本だって、タイム差でいったら1秒くらいだったはず。茅吹先輩と秋浜君の間に決定的なほどの差があると思っている人の方が少ないと思う。
だけど、秋浜君は首を横に振った。
「一緒に走ってるとさ、届かない差っていうか、強さが違うって感じるんだ。だから、茅吹先輩に勝てたら、俺はもっと自信を持って進めると思う」
秋浜君のいうことは、何となくわかる気がした。わたしは茅吹先輩の隣に並んで全力で走ることはないけど、中学から陸上をしてきて、等身大なのに、走る姿にこんなに惹き込まれる感じる人は初めてだった。
もっとも、普段の先輩を知っていると、秋浜君が思い描いている先輩が同じ人なのかちょっと疑わしくもなってしまう。私が知っている先輩は――そして、陸上競技に関わる秘密は――自転車にもバスにも乗れなくて、徒歩通学をしてることだけ。
「だからさ、茅吹先輩の強さの秘密とかあれば、参考にしたいなあって」
「うーん。強さの秘密かあ……」
徒歩通学のことを伝えるか、少し悩む。その手段となった理由はさておき、全く関係ないということはないと思う。もみじがわたしも速くなったと言ってくれたけど、もしかしたら日々の通学がじわじわと効いているのかもしれない。
「ごめん、やっぱりちょっとわからない」
真面目な秋浜君は、徒歩通学のことを伝えれば真剣に考えて同じように通学するかもしれない。そう思うと、わたしは首を横に振っていた。
「そっか、そうだよなあ。引き留めてごめん」
「ううん。応援してるよ」
秋浜君は爽やかな感じで笑うと、ありがと、と部室の方に小走りで向かっていった。そんなに長い時間話していたつもりはないけど、いつの間にか2年生は着替えを終えていたようで、部室前で駄弁ってる人もいれば、そのまま帰った人もいるようだった。
秋浜君に徒歩通学のことを伝えなかったのは、効果にイマイチ確証を持てないってこともあったけど、もしそれで秋浜君まで徒歩通学を始めたら、なんてことを少しだけ思い浮かべてしまったからだった。
ちょっと自分の心の小ささを感じながら、いつの間にか着替え終わって部室棟の前で話している先輩たちを見回してみる。
その中に、茅吹先輩と須々木先輩の姿を見つけることはできなかった。
「花野って、茅吹先輩と仲よかったよね?」
「えっ?」
同じように部室が空くのを待っていた秋浜君から不意打ち気味に聞かれて、素っ頓狂な声が出た。
今日の昼休みもそうだったけど、秋浜君はそういうのに興味がないと思ってたから、そういう意味でもその質問は意外で、どう答えればいいか思考が止まる。
「えーと、そうでもないよ?」
結局、何の工夫もなく否定してみる。
「え。そっか、困ったなあ……」
幸い秋浜君は疑うことなく。腕を組んで悩み始める。
あれ、わたしと茅吹先輩が仲良くないと困るって、どういうことだろう。てっきり興味半分であれこれ聞かれるのかなあと思ってたけど。
「俺さ、茅吹先輩に勝ちたいんだ」
忘れてた。秋浜君はマジメだ。
一瞬でも秋浜君を下世話に疑ったことをちょっと反省する。でも、少しだけ言い訳を認めてもらえるなら、トラックから部室棟に戻ってくるまでの間も須々木先輩が茅吹先輩と一緒にいて、今日は二人で帰るのかなーとか思ったりだったから、そんな発想にならざるを得なかった。
「でも、今日ももうちょっとで勝てそうじゃなかった?」
今日の練習の最後の1本だって、タイム差でいったら1秒くらいだったはず。茅吹先輩と秋浜君の間に決定的なほどの差があると思っている人の方が少ないと思う。
だけど、秋浜君は首を横に振った。
「一緒に走ってるとさ、届かない差っていうか、強さが違うって感じるんだ。だから、茅吹先輩に勝てたら、俺はもっと自信を持って進めると思う」
秋浜君のいうことは、何となくわかる気がした。わたしは茅吹先輩の隣に並んで全力で走ることはないけど、中学から陸上をしてきて、等身大なのに、走る姿にこんなに惹き込まれる感じる人は初めてだった。
もっとも、普段の先輩を知っていると、秋浜君が思い描いている先輩が同じ人なのかちょっと疑わしくもなってしまう。私が知っている先輩は――そして、陸上競技に関わる秘密は――自転車にもバスにも乗れなくて、徒歩通学をしてることだけ。
「だからさ、茅吹先輩の強さの秘密とかあれば、参考にしたいなあって」
「うーん。強さの秘密かあ……」
徒歩通学のことを伝えるか、少し悩む。その手段となった理由はさておき、全く関係ないということはないと思う。もみじがわたしも速くなったと言ってくれたけど、もしかしたら日々の通学がじわじわと効いているのかもしれない。
「ごめん、やっぱりちょっとわからない」
真面目な秋浜君は、徒歩通学のことを伝えれば真剣に考えて同じように通学するかもしれない。そう思うと、わたしは首を横に振っていた。
「そっか、そうだよなあ。引き留めてごめん」
「ううん。応援してるよ」
秋浜君は爽やかな感じで笑うと、ありがと、と部室の方に小走りで向かっていった。そんなに長い時間話していたつもりはないけど、いつの間にか2年生は着替えを終えていたようで、部室前で駄弁ってる人もいれば、そのまま帰った人もいるようだった。
秋浜君に徒歩通学のことを伝えなかったのは、効果にイマイチ確証を持てないってこともあったけど、もしそれで秋浜君まで徒歩通学を始めたら、なんてことを少しだけ思い浮かべてしまったからだった。
ちょっと自分の心の小ささを感じながら、いつの間にか着替え終わって部室棟の前で話している先輩たちを見回してみる。
その中に、茅吹先輩と須々木先輩の姿を見つけることはできなかった。
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