秋空雨恋

粟生深泥

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第2話

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――雨の方が俺を離してくれない。

 茅吹先輩はそう言ったけど、昼休みには雨はやんでいた。
 よかったですね、先輩。雨は先輩のことそんなに好きじゃないみたいですよ――なんてことを考えて、ちょっとホッとしている自分に慌てて首を横に振る。
 なんでわたしは雨と張り合おうとしてるんだろう。落ち着け、落ち着け。

「ねえ、テルハ。面白い顔で窓の外見てどうしたの?」

「っ!!」

 一個前の席から聞こえてきた声に、声にならない声が出た。
 同級生の月代もみじがニヤニヤとした表情でこっちを見ている。どうしたの、なんて聞いてるけど、多分全部お見通しなんだろうなという気がして、どうすれば逃げられるのかパニックな頭で一生懸命考える。

「それは、あれでしょ。少し晴れてくれれば普通に練習できるっていう」

 すっかり追い詰められたわたしに、雲の切れ間からのぞく光のようにふらりと助け船が現れてくれた。
 近くを歩いていた秋浜君が、わたしともみじの間に立っている。もみじも秋浜君も同じ陸上部で、クラスの中でもとても気やすい相手だった。

「いーや、秋浜君。テルハはそんなマジメな顔してなかった」

「いやいやいや、マジメ。わたしはマジメな陸上部」

「ほら、花野もこう言ってるし」

 もみじがちょっとつまらなさそうな表情をしたのを、わたしは見逃さなかった。
 秋浜君は凄いマジメで、茅吹先輩も少しくらい見習ってくれたらいいのに。ああ、でも、先輩がマジメだったら、わたしは多分徒歩通学をしていない。それは多分、ちょっと困る。

「ほら、テルハがまたにやけてる」

「このまま天気がよくなれば、今日の練習は頑張れそうだなーって」

「だよね。大会近しい頑張らないと」

 春先の陽気のように秋浜君が爽やかに笑って、一方のもみじは頭が痛そうな顔をする。
 もみじは秋浜君みたいなストレートな爽やかイケメンは苦手だろうなあなんて思いながら、ちらっとまた窓の外を見る。
 雲の様子はぐずついていたけど、秋浜君の言う通り大会も近いしちょっと雨がぱらつくくらいだったら普通にトラックで練習だろう。

――でも、次の大会もきっと雨が降るんだろうなあ。
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