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なぜ生きていけるのか
しおりを挟むとある人が「神を信じていない」といったらしい。
とある人が「お前、よくそれで生きていけるな」といったらしい。
本質は、宗教の問題じゃないだろう。
人間が生きてゆくために何が必要かって話なんだろう。
今ぼくはパンをかじりながらこれを書いている。聖書に書いてある「人はパンのみに生きるのではない」というのは、人間の生の本質に関わるたとえ話なんだよな。
愛があれば大丈夫か?
それがなきゃダメか?
ぼくはありふれたパンをかじりながら、ずっと考えることを繰り返している。
これまで人を愛せたことなんかあったのだろうか、今もってよく分からない。
もしも神様がいるならば、こんなパンより冷たい人間なんか作らなかったんじゃないか、そう疑わざるをえなかった。
優しいね、と誰かに言われれば、少し満たされる気がする。こんなぼくでも食いつないでいさえすりゃ、優しい人の真似事くらいはできるんだな、ということで。
現実の話、この世界で多くの人々の信じた神は、もう勢いを失っている。
神を信じるだけでは具体的に幸福にはなれず、病や飢えや紛争や孤独などの脅威から守られない人が多すぎるとみんなが気付いたからだ。
試練がありすぎるなあ、とぼくも思う。
なんてこった、弱った人から淘汰されておるじゃないか、たかが知れた世界だ、と。
言ってしまえば、怒りや悲しみが人類の希望の原点なのかもしれない。
変えなきゃいけない、そんな使命感を人に持たせるのがこの世界の仕組みなのかもしれない。
この手の届く限り、ささやかなパンを守るために生きて動くって人も多少いる。
プロテスタントの洗礼を受けたのは、神様を信じたからじゃない。神様を信じてパンを分け与えるような善良な人たちを見習いたかったからにすぎなかった。
それが直接ではなくとも間接的に様々な働き方をして、自分にも恩恵をもたらしてくれているのはわかる。
日本は複雑な歴史を経て、第二次世界大戦後から敗戦国として自国の在り方を徹底的に問われた。政界も財界も再生と腐敗を繰り返しながら、世界中の様々な技術や価値観を吸収してきた。
貪欲に、死にものぐるいで、生き残った民の生活を向上させてきたようだ。
言いたいことは、宗教の話でも国の話でもないと思う。
どっちもたとえ話だ、人間のための。
勝つか負けるか、そんなこと我ら庶民には大した意味のなさそうな、まるで個主義の時代が来たと思わせる風潮はある。
泣いても笑っても民草どもの自己責任、だから自由だってか。
へそが茶を沸かす。
信じられねえ。
ぼくの原点は、やっぱり醜悪な絶望と怒りだった。
フィクションを創作するのは、復讐なのかもしれない。
この世界にせめて一矢報いてやれないもんかしら。
具体的な成果なんか、別にいらない。
自分の精神が死ぬまで負けずに生き残り続けたって実感を、死ぬ寸前に勝ち取ってこの世から逃げ切ってこます。
そして行き着く先は我がの想像力でこしらえた真実無限のパラダイス。
つまりは、今のところそんな風に納得しそうだった。
しかしそう思い込みすぎると何も怖くなくなってしまうので、逆に今を生きる張り合いがなくなりそうでもある。パンの味がしなくなる。
勝ち戦でも負け戦でも、人間のこころは自己に義務を課する何かと戦い続けるしかなく、そこに現実をどう生きられるのかって余地も探求するわけでしょう。
何をどう書けば何がどう変わるのか。
まだ不安よりも好奇心の方が勝っているのはたしかだ。
パンもコーヒーも美味しい味がする日とまったく味のしない日がある。
それはとても不思議だ。
なぜだろう?
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