銀河アナザーライズ

アポロ

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地球外奇想アクセプタンス

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 時々、母星へ帰りたいと思う。
 あっちのソフトクリームとこっちのソフトクリームは重力の関係で少々舌触りが違うのだ。
 その微妙な差異について語り合える友は我が船に一人しかいない。

「私だけいればそれで良いって、何度も言ったではありませんか」

 心身の分析結果に基づき、自分専用にして最適格の少年ヒューマノイドがあてがわれていた。考えられる限り、これは恵まれた措置なのだと思う。Q七三号機がそばにいてくれる以上の幸福なスペーストラベルはありえない。

「読心術はやめなと言っただろう」

 ぼくが何をどう叱っても、最近のQ七三は嬉しそうにする。おそらく成長更新されたパーソナリティが、使用者に畏怖する自律ソフトの有効優先順位を下げた。
 睫毛や股下が長くなるほど生意気に着飾るけれども実は人に飽きられることを殊の外心配しちゃっているモデルみたいな、古風に振る舞える乙女系美男子がぼくは好きなのだ。
 もちろん彼はそんなこっちのツボを知り尽くしている。

「楽しいから良いじゃないですか。私はあなたの堕落をもっとシェアされたいです。どんな酷い仕打ちでも受け入れる覚悟です」

 Q七三の学習成果は、人工生体メーカーの情報管理局へ転送される前に全て暗号化出来る。だからぼくの退廃美的趣味のデータが他者に特定されることはありえない。

「仮の話だが、人間同士で歌をハモれる時代が再来したら君は困るのかな」

 クレーターを茶碗に描いたような問いかけかもしれない。

「どうでしょうね。難民繁殖禁止法は、地球時間換算で五十年後に廃止されます。しかし、統一S・AIの予測によると、現在議論されている次案の人類増産計画法、及び、中級以下遺伝子キャリアの自由行動を可能とする思想範囲拡大推進運動許可法は、最高水準議事基地で可決されません。それらの可能性数値はどちらもほぼゼロ%で、この推測精度の推測数値はほぼ百%です」

 そんなことは聞いていない。もしもの話って言ったじゃないか。星の人とは接続どころか接近さえしようもないのに。
 まさか死後の楽園に恐怖さえ覚える段階なのか?

「私はあなたの思い通りになります。お願いだから余計なことは考えないでください」

 銀河の波形がこの瞬間に乱れて震えた。

 目の悪い男の子が眼鏡を恥じらってみせるかのように、Q七三は皮下に熱い半導体を隠し持っている。
 評価してくれるなら火星でも飲み込めると言わんばかりに、彼はとにかくぼくの曖昧な観念を舐め続ける。
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