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目新しげな青年とみたらし駅で
しおりを挟む「あの、あなた、失礼な勘違いをしてますよ。ぼくは別に世界から呪われていないんです。ごく普通のサラリーマンです。だれにそんなでたらめを吹き込まれたのかは知らないけれどさ」
「ははは。俺はあんたを絶対信用するなと言われているんだよ。新谷さん、でたらめ吹いてるのはあんたの方、お得意のいいかげんな言い逃れしようとしてもだめだよ」
他人の思い込みというものは、とても厄介だ。過去の実績や現在の実態がどうであろうが、発言力のあるだれかの説明でぼくの印象はどうにも塗り替えられる。
出会ったばかりの男は、顔つきも体格も服装もまるで特徴がなかった。ただ相田社長が主張したのであろう言葉を頭から信じている雑魚のようだった。
その植え付けられた先入観の染み込み具合を目の当たりにし(というか、この目と耳で感じたところ)、とりあえず彼について「多分、純粋。根は素直な青年なのだろう」と推定した。
「おいこら、新谷さん、はなから人を見下すような目をやめてくれないか? 俺が失礼だと言うなら、あんたは無礼すぎるんだよね」
「ふう。あなた、さすが相田社長の子飼いらしい。実にめんどくさいです。ああ言えばこう言う。まだ未熟すぎるんでしょう。とてもじゃないけど今後も仲良くなれそうにないなあ。いえ、それもぼくの不徳のいたすところですけれども…」
ぼくは誰とも言い争いなんかしたくはないと思っている。当たり前だ。
しかし大した前情報もないくせに相手が攻撃的な場合、反射的に過激な防衛態勢をとることもある。
「まあ、俺はあんたが降りるはずじゃなかった駅に降ろした。それだけで良いという指示なので、目的は達成出来ているよ」
「へえ、時間稼ぎってことですか」
「そう、時間稼ぎだ」
「実感としては、少し窮屈な異世界に無理くり引きずり込まれたみたいです」
どうも自律神経が鈍っている。鏡の国のアリスがどういう物語だったかさえ思い出せない。
ぼくは現実から乖離させられた気分で、彼が何か有益な話を……建設的な情報も伝達してくれることを期待していた。
「素朴な疑問なんだが、新谷さん。あんたはどうしてそんな風になったんだ? 人として恐怖とか危機感とか感じないのか?」
「はい? ちゃんと色々感じてますよ。別に不感症ってわけでもないと思います」
当駅の看板には『みたらし駅』と表記されている。ここはみたらし。団子の? それとも……何かをみたらしぬようなひどい世界なのだろうか?
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