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日陰に望まぬいわくなど
しおりを挟むようするに飾り物処・小夢は、南専務の娘さんと日立先輩の奥さんが二人三脚で出店するお洒落なアクセサリーショップだ。
地下街のスターバックスを出て東側、七番出口から地上へ上がり、七分ほどで銀糸町の七丁目に着く。
「新谷君。偶然であれ七が三つも続くのは、風水的によろしいのでしょうかな」
南専務が小夢の団扇をぱたぱたさせながらぼくの肯定を期待していた。天気予報によると午後からさらに暑くなるらしい。
「スリーセブン。エンジェルナンバーともいわれますしね」
道なりに様々な店舗の日除けが続いている。ぼくたちは縦列になってその日陰を借りながら歩を進めた。夏場の七分の道のりはけっこうしんどい距離だ。
ぼくは暑気をはぐらかすためだけ、差し障りのない会話だけをしていたかった。
「新谷君は、夢歌のどこが気に入らんかったのかね?」
「え? はは……何を突然。そんな話はやめましょう」
「いいじゃないか。別に、自分の娘の話がしたいってわけじゃない。ただ社内の君の噂を気にしている。あれと付き合うのも別れるのも、それなりに大変だったろう?」
「はあ。うまく説明できません。なりゆきといえば、なりゆきで。その、ぼくが悪かったのはたしかです。夢歌さんへの言い方を、しょっちゅうまちがえました」
「あら、君がふられた方なの?」
「そうですね。そうゆうことです」
恋愛は楽しいものだと思うが、実際それをすると心配事が増えすぎる。ぼくと夢歌さんは交際している間、お互い異常なほどに片時も離れたくないと思い合っていた。
たとえばぼくが仕事のために電話をかけようとすると、繊細な夢歌さんは必ず「それ、女?」と聞いた。
ぼくはそこで「ふふふ、そうだけど、そうゆう話じゃないさ」なんて、サラッと言うべきであろう。
が、彼女の異様な不安が伝わるぶん緊張してしまうから、その言葉をうまく操れなくなる。「そ、そうだけど、ちがうんだよ、あ、安心して」とか。
言わずもがな、まずい調子になりやすかった。二人そろって余計にはらはらし、大袈裟でもなく頭がおかしくなるほど疑いが疑いを招くので、共に生きるにはちょっと相性が悪すぎることを認めなければならなくなったのだった。
「で、店の宣伝を担当してくれるのは、罪滅ぼしってわけでもあるのかな?」
「それはちがいます」
「仕事だからやるまで? あ、日立、美来ちゃんのことでもあるし?」
「ですです」
夏の徒歩七分は、やはり長くて遠い。
どうせ経費で落ちるのだし、タクシーを予約しておけばよかったと後から思うはめになった。
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