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暴落とツリーハウス

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 今日は午後から特にやることがなかったので、久しぶりに裏山のツリーハウスへ行ってみた。前年の秋から本社へ単身赴任中の日立先輩に諸々の管理を任されたついで、好きなように使わせてもらっている。

 長い梯子を昇るのに大変な猛暑日ではあったが、ハウスに入ってしまえばこっちのものだった。今年はプレハブの簡易シャワーがあるし、ドン・キホーテで買ってきたミニ冷蔵庫と据え置き型のエアコンもある。
 日立先輩が置き土産として屋根に取りつけてくれた太陽光パネルの恩恵で、まずまず快適にしのげるのだ。

 頭からいっぱい水を浴び、タオルで体を拭くのもそこそこに、梅ソーダの栓を空けた。スポティファイでボン・ジョヴィを再生し、マットレスに思い切り倒れ込む。そうしたら悪夢から覚めるに決まっている。

「たった一日で二千二百円。ここまで急激に下がるとは」

 アメリカ経済の急速な落ち込み、日銀による為替介入、からの利上げ。トリプルショックを受けて、日経平均株価は歴史上稀に見る下げ幅を更新中だった。

 ぼくはといえば、NISAで積み立てている投資信託の一部を除き、木曜日に全ての個別株を手放している。それで今年の含み益の半分を失ったばかりだった。
 でもあの損切りの決断をしていなきゃ、ここ一年分の成果がたった二日で全てなくなっていた。V字回復するという一部のアナリストのブログがまるで狂ったお化けの戯言に見えるのはこっちの勘違いだろうか。

 ともかく微々たる資産がこれ以下に減ることはないと思うと、気持ち楽になる。
 損失のレベルはまるでケタ違いだが、おそらくウォーレン・バフェットや孫正義よりも早くマーケットの牙からは逃げられた。少なくとも短期的な話ではそういうことになる。

 日立さんは大丈夫だろうか。彼こそぼくに資産運用の入れ知恵をした張本人だ。今思えばかなり強気な人だった気がする。

 梅ソーダの泡がぷちぷち鳴って、少しずつ減っている。その様子に見とれかける。
 金縛りにあったみたいだった。
 世間のなんやかんやに疲れることの繰り返しが永遠に続くのかもしれないことを想像すると、ますます気が遠のく。

 でも、そろそろツリーハウスを下りて一旦はこの裏山から帰らなければならない。遅くとも金曜ロードショーが始まるまでに。
 それでもうひとやすみしたら、きっともうちょっといい気分になるのだろう。
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