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第一話

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 自分の死に満足があったとは言えない。
 幼くして体躯ができあがっていた自分は都で暴れまわり、それがすぎて父によって九州に勘当された。
 だが、勘当されて行きついた九州の地で自分はむしろ喜んだ。
 都では自分に敵う相手は長兄だけであったが、九州にはたくさんの『もののふ』がいた。そいつらを片っ端から打ち倒し、従えていった結果、九州は自分のものになった。
 そして九州を抑えた自分を都の朝廷人達が放っておくはずがなく、父の職を脅しとして自分に上洛するように迫ってきた。
 自分に従いたいという九州の『もののふ』はたくさんいた。だが、自分は純朴で力強い九州の『もののふ』達を都の政争に巻き込みたくなく、自分と都からずっと従っていた従者だけを連れて上洛した。
 そして巻き込まれた朝廷人達の政権争い。戦争も知らない朝廷人達が戦のやり方にも口を出してくるのには心底腹がたったが、自分が最強の『もののふ』だと思っている長兄との戦いには心躍った。
 結局、朝廷人達に脚を引っ張られた自分と父達は戦に敗れた。父を始めとした兄達は斬首され、捕まるのが遅かった自分は左腕の腱を斬られて八丈島に流された。
 だが、八丈島でも自分は暴れまわり、八丈島を支配したことで朝廷からの追討を受けることになった。
 迫りくる追討軍の軍船を相手に自分は鍛え抜かれた身体から弓を放ち軍船を沈めることに成功した。
 それをみて満足した自分は屋敷へと戻り、八丈島までついてきていた従者に産まれた子供を任せ腹を切った。
 満足して死んだはずだった。
 だが、自分が目を覚ますと身体は幼くなっており、見たこともない『もののふ』達が嬉しそうに笑っていた。
 周囲の大人の話を聞いていると、自分が今いつ土地は『阿蘇』。覚えている。自分が九州を制圧した時にあった土地だ。
 理由などはよくわからない。だが、自分は再び九州の阿蘇の地で生を受けた。
 理由なんかいらない。自分はもう一度やり直す機会を得た。ならば今度は何をやるか?
 守役が言うには今、九州は戦乱の真っただ中だという。
 ならば前世のようにもう一度自分の下に九州を統一する。そのために自分だけでなく、側近となる二十人の自分と同年代の『もののふ』達を鍛えた。
 そして今度は九州の『もののふ』達を連れて都へと攻め上がる。兄の率いた坂東の『もののふ』達も強かった。だが、自分と戦った九州の『もののふ』のほうが強い。
 それを天下に証明する。
 まず手始めに自分と守役、そして自分が鍛え、守役が名付けた『鎮西二十烈士』を率いて父と敵対する阿蘇惟前の篭る堅志田城を落として、阿蘇惟前の首を斬った。
 たった二十人少しで城を落としたことは一気に九州に広がった。
 そしてこの戦いで確信した。
 自分はもう一度この九州を統一できる。
「若、覚悟はよろしいですか?」
 その言葉に自分は正気に戻る。目前には頭を剃り上げて法衣を着た守役の姿。
「若がやろうとしているのは修羅の道。一度歩みを始めればもう止まれませぬ」
 この十五歳上の守役の男には自分が九州を制覇し、上洛するという野望を最初に打ち明けた。
 阿蘇という山間部。そして周囲にはもっと九州制覇に近い大友氏がいる。
 それでもこの守役の男は自分に従うと言った。自分に夢をみたと言った。
「やる。この荒れた九州に静謐をもたらすのは俺以外おらぬ」
 守役の男はニヤリと笑うと、大広間の襖を開く。最上段には今世での自分の父親である阿蘇惟豊がいる。
 突然襖が開いたことに惟豊は驚いているようであったが、自分と守役の姿をみたら嬉しそうに笑った。
「おお、よく来た!! なかなか来ないとみなで言っていたところよ」
 上機嫌に笑っている惟豊。仇敵であった惟前が死に、朝廷から従三位に叙されたことで懸念が全て消えたからであろう。
 自分はずかずかと惟豊に近づき、どかりと惟豊の前に座る。
 自分が礼儀作法等無視する男だと知っている惟豊は特に不審がらずに自分に盃を持たせ、酒を注いでくる。
 自分はそれを一気に飲み、盃を叩き割る。
「親父殿、頼みがある」
「うむ、なんだ? 惟前を斬ってくれたのだ。できる限りお主の頼みには答えるぞ」
 上機嫌に答える惟豊に自分はニヤリと笑いながら告げる。
「阿蘇の土地と兵を俺にくれ」
 自分の言葉に唖然とした表情を浮かべる惟豊。だが、すでに矢は放たれた。守役の合図に外で待っていた武装した鎮西二十烈士達が入ってくる。
 ここまできてようやく惟豊は状況を把握したらしい。
「む、謀反か!!」
「いやいや、殿。これは謀反ではございませぬ」
 惟豊の言葉に自分の傍らに控えた守役の男が告げる。
「殿には今ここで隠居をしていただき、家督を若に譲っていただきたいのです」
「親直! 乱心したか!!」
 惟豊の言葉に自分の守役である親直、甲斐親直はつるりと剃り上げた頭を撫でる。
「いえいえ、殿にだけ隠居はさせられぬと思い、この親直もすでに出家しております。号は宗運」
 人を食ったような言い方の甲斐宗運の言葉に惟豊は激昂して立ち上がる。
「者ども、この不埒者どもを斬れ!」
 だが、その言葉に従う者はいない。むしろ、立ち上がると自分と宗運の背後に座っていく。
 それをみて口をパクパクとさせる惟豊。そして宗雲は淡々と惟豊に告げる。
「朝廷より官位を授かる。なるほど確かに己の正当性の証明としてこれほど楽なことはありませぬ。ですが殿。殿はそのために領内に無理をさせすぎましたな」
 惟豊は正当性を示すために都の朝廷に多額の献金をした。だが、その膨大な金額の献金は阿蘇という貧弱な土地と領民には重すぎた。
 宗雲と他の家臣達の顔をみてがっくりと膝をつく惟豊。そんな惟豊に自分は告げる。
「阿蘇大宮司としての家督は親父と弟に任せる。俺は俺のやるべきことをやる」
「父を隠居に追い込んでまで何をやる気だ」
 力ない惟豊の言葉に俺は笑う。
「九州を平定し、都まで攻め昇る」
 俺の言葉に今度こそ惟豊は絶句する。
「しょ、正気か?」
「無論」
「で、できると思っているのか?」
「俺しかやれぬ」
 自分の断言に惟豊は今度こそ唖然といった風に口を開けてしまう。
 問答は済んだとばかりに俺は鎮西二十烈士に合図をだして、惟豊を連れていかせる。後のことを考えれば殺しておいたほうがいいかもしれないが、宗運が惟豊の持つ朝廷との人脈は役に立つというから殺しはしない。恐らくは後で宗雲が直接惟豊に言い聞かせるだろう。
 そして自分は惟豊がいなくなって空いた家督の座に座る。そして宗雲を始めとした家臣達が一斉に頭を下げる。
「みな、ここからだ。ここから我らの戦いが始まる。これは九州の静謐……鎮西のための戦いである。それを心せよ」
『おう!!』
 自分の言葉に力強く答えてくる家臣達。その反応に自分は満足する。
「さて、若。若が家督を継いだからにはいつまでも幼名というわけにもいきますまい。名はなんとしますか?」
 宗雲の言葉に俺は笑いながら答える。
「俺が鎮西を目指すのならばこの名しかない。『鎮西八郎為朝』。それが俺の名だ」
 俺が名乗った名前に少し驚いた宗雲であったが、すぐに笑顔で頭を下げる。

 天文十三年(1544年) 戦国時代に転生した鎮西八郎為朝の武威がここから始まる。
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