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エピローグ
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日常がまた目まぐるしく始まった。
メグを連れ去ったクレアは何一つ痕跡を残さず学園から消えていた。彼女がいた形跡はもうどこにもない。
彼女と関わっていた人々の記憶からも失われていた。そう、レオンだけがクレアのことを覚えているのだった。
メグやガイアに確認するも、そんな人物は知らないと言う。
「ほら、お前がパールクィーンで初恋をした相手だよ」
「はぁ? だから知らねぇって。俺の初恋はギルドの受付の姉ちゃんだって、何回も言わすなよ」
「レオンさん、大丈夫? 忙しくて疲れているんじゃ……」
「ほら、メグも心配しているし、今日は仕事休め」
「だが……」
嫌な予感に慄きながら、寝室に入ったレオンは足を止めた。
不敵に笑うクレアがそこにいたからだ。
彼女は真っ黒な翼を広げ、レオンを待ち構えていた。
燃えるように赤い髪の隙間から魔族の象徴である角がしっかりと生えている。
「……クレア、お前は何者なんだ」
レオンの睨みに、クレアは驚いて、それからやれやれと溜め息を吐いた。
「はぁー、魔王様に言われて、まさかと思って確認しに来たんだけど。ここまで魔族の魔法が効かないなんてねぇ。あんたこそ何者よ? あんたの両親でさえ、あっさり効いたんだけどねぇ」
こてりと首を傾げたクレアにレオンの目が見開いた。
「両親、だと⁉」
レオンの拳が目にも止まらぬ速さでクレアに迫る。
だが、クレアもまたそれを華麗に避ける。
「私、あんたにも魔法をかけたのよ? 私の存在を忘れさせる魔法」
「……魔族の、魔法」
「えぇ、そう。私は魔族の一人。あは、びっくりした?」
反応を返さないレオンに彼女むすっと唇を尖らせ、続ける。
「……まぁいいわ。人間もどうせすぐに思い出すもの。魔王様が復活すれば、ね。貴方だけはそれまでしっかり私の存在を覚えておきなさい」
くすくすと笑い、クレアは窓から飛び立っていった。
レオンが彼女を追いかけることは決して不可能では無かったが、メグ達が無警戒に眠る屋敷を放って置けるわけもなかった。
今のレオンには守るべき家族がいるのだから。
彼は拳を握り締め、クレアが去っていた窓を見つめる他なかった。
まだ危機が去ったわけではないのだと、彼だけははっきりと理解していた。
その先に、長年探し求めていた両親を殺した黒幕がいることにも。
彼自身の物語はまだ幕開けに過ぎないのだった――――。
メグを連れ去ったクレアは何一つ痕跡を残さず学園から消えていた。彼女がいた形跡はもうどこにもない。
彼女と関わっていた人々の記憶からも失われていた。そう、レオンだけがクレアのことを覚えているのだった。
メグやガイアに確認するも、そんな人物は知らないと言う。
「ほら、お前がパールクィーンで初恋をした相手だよ」
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「だが……」
嫌な予感に慄きながら、寝室に入ったレオンは足を止めた。
不敵に笑うクレアがそこにいたからだ。
彼女は真っ黒な翼を広げ、レオンを待ち構えていた。
燃えるように赤い髪の隙間から魔族の象徴である角がしっかりと生えている。
「……クレア、お前は何者なんだ」
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「はぁー、魔王様に言われて、まさかと思って確認しに来たんだけど。ここまで魔族の魔法が効かないなんてねぇ。あんたこそ何者よ? あんたの両親でさえ、あっさり効いたんだけどねぇ」
こてりと首を傾げたクレアにレオンの目が見開いた。
「両親、だと⁉」
レオンの拳が目にも止まらぬ速さでクレアに迫る。
だが、クレアもまたそれを華麗に避ける。
「私、あんたにも魔法をかけたのよ? 私の存在を忘れさせる魔法」
「……魔族の、魔法」
「えぇ、そう。私は魔族の一人。あは、びっくりした?」
反応を返さないレオンに彼女むすっと唇を尖らせ、続ける。
「……まぁいいわ。人間もどうせすぐに思い出すもの。魔王様が復活すれば、ね。貴方だけはそれまでしっかり私の存在を覚えておきなさい」
くすくすと笑い、クレアは窓から飛び立っていった。
レオンが彼女を追いかけることは決して不可能では無かったが、メグ達が無警戒に眠る屋敷を放って置けるわけもなかった。
今のレオンには守るべき家族がいるのだから。
彼は拳を握り締め、クレアが去っていた窓を見つめる他なかった。
まだ危機が去ったわけではないのだと、彼だけははっきりと理解していた。
その先に、長年探し求めていた両親を殺した黒幕がいることにも。
彼自身の物語はまだ幕開けに過ぎないのだった――――。
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