紳士と黒猫

高殿アカリ

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序章みたいな短編

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あゆみは目の前の獲物に気づき、レオンに飛びかかろうとする。
次の瞬間、大きな雷が西園寺家の真上に落ちた。

巨大な音と光が同時に2人の居た屋根裏部屋にも届く。
そのため、あゆみの行動に対するレオンの反応が遅れた。

しかし、レオンが『箱庭のモナ・リザ』に慌てて意識を戻すも、特に異常はない。
ふと、腰に違和感を覚え、彼は下を向いた。

するとそこには、涙目をしてがたがたと震えたあゆみの姿があった。
彼女は必死になって、レオンの腰にしがみついているのだ。

「ふぇ……」

今にも泣き出しそうな怪盗キティ。
そこに、再び雷が轟く。

すると、彼女はより一層震え上がり、更にきつくレオンにしがみついてくる。
その様子に、レオンは堪らず笑ってしまう。

「あはは、大怪盗である子猫ちゃんはどうやら雷が苦手らしい。くくっ」

髪をくしゃりと握って笑う彼の姿はどこか魅惑的だった。
あゆみは一瞬その姿に見惚れるも、首をぶんぶんと横に振る。

その勢いで、あゆみの身体についていた泥がそこら中に飛び散った。
それを見たレオンは、この暗闇の中、どこに潜んでいるかも分からない榎本を呼んだ。

「榎本、彼女を綺麗にしてあげてくれ」
「かしこまりました」

あゆみは恐怖に震えながらも、自分が敵に情けをかけられていることに気づく。
そのことに誇りを傷つけられたあゆみは、出来うる限りの抵抗を試みた。

雷のないときを見計らい、あゆみはレオンから離れ、そのまま屋根裏部屋を飛び出す。
彼女は雷の鳴る度に、何かしらにぶつかりながらも、長い長い西園寺家の廊下を駆け抜けていった。

「あ、こら! 待ちなさい!」

レオンと榎本があゆみを追いかける。
こうして、3人の鬼ごっこは随分と夜遅くまで続いたのだった。
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