紳士と黒猫

高殿アカリ

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序章みたいな短編

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「それで、昨日の電話の件だが。幸子、あれを」

小田の指示で真鍋が懐から1枚のカードを取り出す。

カードは怪盗からの予告状だった。
『今宵、西園寺家の名画「箱庭のモナ・リザ」を頂戴致します――怪盗キティ』

「これが昨日のお昼に届いた予告状です。ご存知かもしれませんが、この予告状の送り主である怪盗キティは今世間を賑わせている人物なのです。あと、名前から女怪盗だとは言われていますが、誰も本人を見たことがないので本当かどうかはわかりません」

真鍋の言葉を引き継ぎ、小田が続ける。

「ほんでもって、キティちゃんの何が厄介なのかと言うと、彼女、予告状を毎回その地域の警察に送ってくんだよな」

そう言いながら、小田は気が抜けたようにぽすんとソファに身を深く沈めた。
その様子を真鍋は少ししらけた目で見やる。

軽く咳ばらいをし、真鍋が再び口を開いた。

「小田さんの言う通り、怪盗キティは持ち主ではなく、我々警察に予告状を送り付けてくるのです。そして、彼女が盗みに入るのはいつも決まって、」

2人の話を聞いていたレオンは真鍋の話の続きを引き受ける。

「この家のような伝統のある名家ばかりだってね。僕も昨日、連絡を受けてから彼女について調べてみたんだ」

そう言った彼は肩をすくめ、茶目っ気を見せる。
その様子を小田泰造は注意深く観察する。

「なぁ、レオン。ここの部屋に来るまでの廊下ってさ」
「泰造、心配してくれてありがとう。だけど、廊下の汚れは怪盗キティじゃないよ。そもそも昨夜、怪盗キティは来なかったからね」

真鍋が不思議そうに首を傾げて尋ねる。

「あれ? それじゃあ、あの汚れは一体……」
「あぁ、あれはね。猫だよ。真っ黒で綺麗な猫が雨の中鳴いていてね。僕は思わず拾ってしまったのさ。そうだろう? 榎本」

扉に控えていた執事が答える。

「左様でございます。廊下の足跡は、室内に入った途端駆け出した猫を捕まえる為に、レオン様が走り回った故に出来てしまったものです」
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