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Story 01 side.ANKO
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「だって、あの日。……本当は、私。チャコに会いに行ったんだもの」
へらり、と笑った。
随分と情けない顔をしていたと思う。
「お父様がね、私と同年代の女の子を手籠めにしていると、お母様が言ったの。同じ血を持つ私も穢らわしい、って罵るの。だから、穢らわしいことにされた私と穢らわしいことをされたその子と、どっちが可哀想なんだろうって。――――思って、しまって」
チャコが抱いた感情に私は皆目検討がつかない。
ただ、私をぎゅうっと抱き締めた彼女の腕は微かに震えていた。
「だけど、驚いたもん。当の本人であるチャコが目の前に現れたから。お母様の言葉は全て嘘で、可哀想な子は私だけなんだって、ほっとしたような、置いてけぼりにされたような、そんな気がして。でもね、気付いたの。チャコが私に口付けをしてくれたとき、」
「もう言わなくていいっ! 何も、言わないで……」
か細いチャコの声が、私の加虐心を煽り、唆す。
「駄目だよ。だってあのとき、当てつけのように薔薇の匂いがする柔軟剤でハンカチを洗って返したでしょう? お父様が一等大好きな華の香りを纏わせたでしょう? 私、それでね。お母様の言葉が本当なんだって知って、だから貴女についていったのよ? そしたら、貴女の唇からも同じ香りがしたのよ。噎せかえるような薔薇の香りが……」
「ごめん。ごめんね……」
すんすんと鼻を啜りながら、チャコが私の肩に顔を埋めてくる。
「復讐でもしたいのかなって思って。お父様の娘である私とそういう関係になることで、優越感に浸りたいのかなって。だから、毎回和菓子を持って行ったんだよ。貴女がとても可哀想だったから、私の和菓子の匂いで上書きしちゃえーって思って。ねぇ、本当はどう思ってた? 私が可哀想に見えていた? それとも、身体の関係を持つことでしか気持ちの整理がつかない自分に絶望してた? 真実、可哀想なのは貴女と私のどっちだったろうね?」
堪えきれず、くすくすと笑った私をチャコがその綺麗な瞳で睨め付けてくる。
「何それ、結局あたしが悪者って言いたいの?」
彼女は烈火の如く腹を立てていた。
「違うよ。確かに最初はチャコのこと憎んでいた。ううん、本当は憐んでいた。私より可哀想にって思うのが至高だった。でもちゃんと好きになったんだよ? 好きになれたんだよ? 今ではチャコの夢を素直に応援したいくらい、好きなんだよ? それってさ、凄いことなんじゃないかって気付いたの。だって、何があっても、どんな感情を抱いても最終的には愛してるってことになるでしょ?」
へへっと笑って、チャコの首筋に唇を当てた。
薔薇の香りは、もうしない。
「あんた……」
「だって、チャコもそういう世界の方が都合いいでしょ? 私のこと、大好きだもんね。それなら、もういいじゃん。チャコは私を憐んで、私も貴女を憐んで、それでも好きで愛して、時折歪になって、さ。私たち、馬鹿みたいに二人きりで憎しみ合えば幸せになれるんだよ」
チャコが私の身体を力いっぱいに押し返す。
それは紛れもなく拒絶だった。
「糞なあんたの親父から貰ったお金で、あたしは東京に行く。もう決めたんだよ……!」
噛み締めすぎた唇から血を滲ませながら、チャコはそう言った。
とても苦しそうだったから、私はチャコを解放してあげることにしたんだ。
「うん、応援してるよ」
その日がチャコと会った最後の日になった。
へらり、と笑った。
随分と情けない顔をしていたと思う。
「お父様がね、私と同年代の女の子を手籠めにしていると、お母様が言ったの。同じ血を持つ私も穢らわしい、って罵るの。だから、穢らわしいことにされた私と穢らわしいことをされたその子と、どっちが可哀想なんだろうって。――――思って、しまって」
チャコが抱いた感情に私は皆目検討がつかない。
ただ、私をぎゅうっと抱き締めた彼女の腕は微かに震えていた。
「だけど、驚いたもん。当の本人であるチャコが目の前に現れたから。お母様の言葉は全て嘘で、可哀想な子は私だけなんだって、ほっとしたような、置いてけぼりにされたような、そんな気がして。でもね、気付いたの。チャコが私に口付けをしてくれたとき、」
「もう言わなくていいっ! 何も、言わないで……」
か細いチャコの声が、私の加虐心を煽り、唆す。
「駄目だよ。だってあのとき、当てつけのように薔薇の匂いがする柔軟剤でハンカチを洗って返したでしょう? お父様が一等大好きな華の香りを纏わせたでしょう? 私、それでね。お母様の言葉が本当なんだって知って、だから貴女についていったのよ? そしたら、貴女の唇からも同じ香りがしたのよ。噎せかえるような薔薇の香りが……」
「ごめん。ごめんね……」
すんすんと鼻を啜りながら、チャコが私の肩に顔を埋めてくる。
「復讐でもしたいのかなって思って。お父様の娘である私とそういう関係になることで、優越感に浸りたいのかなって。だから、毎回和菓子を持って行ったんだよ。貴女がとても可哀想だったから、私の和菓子の匂いで上書きしちゃえーって思って。ねぇ、本当はどう思ってた? 私が可哀想に見えていた? それとも、身体の関係を持つことでしか気持ちの整理がつかない自分に絶望してた? 真実、可哀想なのは貴女と私のどっちだったろうね?」
堪えきれず、くすくすと笑った私をチャコがその綺麗な瞳で睨め付けてくる。
「何それ、結局あたしが悪者って言いたいの?」
彼女は烈火の如く腹を立てていた。
「違うよ。確かに最初はチャコのこと憎んでいた。ううん、本当は憐んでいた。私より可哀想にって思うのが至高だった。でもちゃんと好きになったんだよ? 好きになれたんだよ? 今ではチャコの夢を素直に応援したいくらい、好きなんだよ? それってさ、凄いことなんじゃないかって気付いたの。だって、何があっても、どんな感情を抱いても最終的には愛してるってことになるでしょ?」
へへっと笑って、チャコの首筋に唇を当てた。
薔薇の香りは、もうしない。
「あんた……」
「だって、チャコもそういう世界の方が都合いいでしょ? 私のこと、大好きだもんね。それなら、もういいじゃん。チャコは私を憐んで、私も貴女を憐んで、それでも好きで愛して、時折歪になって、さ。私たち、馬鹿みたいに二人きりで憎しみ合えば幸せになれるんだよ」
チャコが私の身体を力いっぱいに押し返す。
それは紛れもなく拒絶だった。
「糞なあんたの親父から貰ったお金で、あたしは東京に行く。もう決めたんだよ……!」
噛み締めすぎた唇から血を滲ませながら、チャコはそう言った。
とても苦しそうだったから、私はチャコを解放してあげることにしたんだ。
「うん、応援してるよ」
その日がチャコと会った最後の日になった。
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