その女、女狐につき。

高殿アカリ

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11.平和的に解決しましょう

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 どたばたと血気盛んに入ってきたは良いものの、黒閻は倉庫の中に人の気配がしないことに違和感を持ったようで、訝しそうに辺りの様子を伺っている。



 私は、ぽん、とドラム缶から飛び降りて、彼らの視界に映り込んだ。



 罠かと心配そうに、けれども警戒を促す態度で私を見てくる黒閻。



 私は彼らに冷たい視線を返す。



 そして、私は乾いた声で静かにこう告げた。



「加賀美、満吉」



 その言葉に、黒閻の大半がはっと息を呑んだ。

 その音は、空気は、少し離れた私の場所まで確実に聞こえてきた。



 倉庫に漂う、緊張感。

 こういうの、悪くないわよね。



 背筋がぞくぞくして、食うか食われるか。



 世界は弱肉強食なのよ。

 その当たり前の事実を実感させられるから。



 戸惑う彼らに、私は続けてこう言った。



「……ある人から大体何があったのかを聞いたのよ」



「ある人って誰だ……」



 凄んだ様子で私に問いかけてきたのは、フウガだった。



 私は人生で一番の悪女的笑みを浮かべて、

「そんなの、教えるわけがないじゃない」



 笑ってやった。



 それから、はっと乾いた笑いを一つ。

 ぴりり、と黒閻に殺気が纏われた。



 あら、面白くなってきたんじゃないの?



「だからね、私はもうあなたたちとは一緒にいられないのよ。残念だけど。今日は、それだけを伝えに来たの」



「一緒におられへんのとちゃうやろ。あんたもその辺の女と同じやっただけやろが」



 そう吐き捨てるように叫んだのは、タイシだった。



「あら、良い線よ。だって私、白豹の寵愛姫になることにしたんだから」



「だから、僕たちはもう用済みってことですか。あなたは寵愛姫になりたかっただけなんですか」



 悲しそうにメガネの奥の瞳を曇らせて、ケイはそう言った。
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