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10.愛ってなんだ
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市川は意地悪そうに笑って、私の瞳を覗き込んだ。
「いやいや、君。誤魔化しても駄目だ。……真実を知りたい? 記憶を取り戻したい? それだけじゃないだろう?」
……本当に、嫌ね。
例え気付いたのだとしても、少しくらい見逃してくれても良いじゃない。
「……でも、その気持ちも本当よ」
「そりゃあ、そうだ。僕だって君と同じ状況なら、気になって夜も眠れないね。誰かの秘密の部屋に入ってしまうくらいには」
……ここに来て、嫌味ってわけね。
本当によく出来ているお坊ちゃまだこと。
私は自嘲的な笑みを浮かべるだけに留めた。
少しの時間稼ぎにしかならないことは分かっているけれど、自分で敗北を宣告するほど酷なことってないでしょう?
案の定、市川は楽しそうに笑って、こう言った。
「黒閻への復讐を止めたいと思っていたんだろう?」
私は肩を竦めて、頷いた。
「あら、随分と手厳しいのね。でも、そういうことよ」
馬鹿正直に私を信じ切っちゃって。
私が倉庫の二階に上れるようになったときも、自分のことのように喜んでくれて。
……まぁ、心苦しくなかったか、と問われれば、私は肯定するしかないわ。
だけど、そんな細かい感情を市川に伝える義理もないから、私は話を進めることにした。
「だけど、私が記憶を失っていることを知っていて、どうして共同戦線を張らないか、なんて誘いを持ちかけてきたのよ」
共同戦線を張ったところで、私の復讐の目的自体が無くなることも知っていたのでしょう?
しかも、私の黒閻への憎しみが薄れつつあることにも気付いていたというわけじゃない。
本当に、不思議な人ね。
「いやいや、君。誤魔化しても駄目だ。……真実を知りたい? 記憶を取り戻したい? それだけじゃないだろう?」
……本当に、嫌ね。
例え気付いたのだとしても、少しくらい見逃してくれても良いじゃない。
「……でも、その気持ちも本当よ」
「そりゃあ、そうだ。僕だって君と同じ状況なら、気になって夜も眠れないね。誰かの秘密の部屋に入ってしまうくらいには」
……ここに来て、嫌味ってわけね。
本当によく出来ているお坊ちゃまだこと。
私は自嘲的な笑みを浮かべるだけに留めた。
少しの時間稼ぎにしかならないことは分かっているけれど、自分で敗北を宣告するほど酷なことってないでしょう?
案の定、市川は楽しそうに笑って、こう言った。
「黒閻への復讐を止めたいと思っていたんだろう?」
私は肩を竦めて、頷いた。
「あら、随分と手厳しいのね。でも、そういうことよ」
馬鹿正直に私を信じ切っちゃって。
私が倉庫の二階に上れるようになったときも、自分のことのように喜んでくれて。
……まぁ、心苦しくなかったか、と問われれば、私は肯定するしかないわ。
だけど、そんな細かい感情を市川に伝える義理もないから、私は話を進めることにした。
「だけど、私が記憶を失っていることを知っていて、どうして共同戦線を張らないか、なんて誘いを持ちかけてきたのよ」
共同戦線を張ったところで、私の復讐の目的自体が無くなることも知っていたのでしょう?
しかも、私の黒閻への憎しみが薄れつつあることにも気付いていたというわけじゃない。
本当に、不思議な人ね。
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