その女、女狐につき。

高殿アカリ

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10.愛ってなんだ

10

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 でもまぁ、そりゃするよね。

 だって、知りたいもの。



 私が忘れている記憶を。

 そして、市川が知っているであろう事実を。



 それがたとえ真実ではないのだとしても構わない。



 真実を知るためのきっかけになりさえすれば良いのだから。



 そんな願いを込めて、キスをした。

 世界で一回きりのキスなんだから、感謝してよね、市川。



 心の中でそう告げると、私は閉じていた瞼をゆっくりと開けて、顔を離した。



 市川と私の視線が交差する。

 その一瞬が、まるで永遠かのように思われたのは、真夜中の魔法だろうか。



「まさか、キスなんてしないとか思ってたわけじゃないでしょうね」



 私は挑発的な笑みを一つ。



 だって、彼には教えて貰わなくちゃならないのよ。

 舐められてばかりはいられないわ。



 私の思惑を知ってか、知らずか。

 市川は何事もなかったかのように、綺麗な笑顔を作る。



 まぁ、綺麗すぎて逆に怖いんだけどね。

 そうなると、イケメンすぎるのも考えものよね。



「こればかりは約束してしまったからね。致し方がないか。……こっちにおいで、話してあげよう。君の知りたいことを」



 そう言って、彼は私を誘う。



 真っ暗な廊下を突き抜けて、彼は一人リビングに向かった。



 どうやら腰を落ち着けて話したいらしい。

 ……これは長くかかりそうね。



 私はふっと息を軽く吸って、それから一歩を踏み出した。



 拘束されていたはずの両手首が、ちっとも痛くないことには気付かないふりをして。



 だってそんなの、悔しいじゃない。



 あくまでも、私の主導権で行かなくちゃ。

 そうでしょう? 愛美。
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