その女、女狐につき。

高殿アカリ

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10.愛ってなんだ

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 その疑問が、言葉として明確に私の心の中に落ちてきたとき、私の身体は既に動き始めていた。



 探さなくちゃ。

 探さなくちゃ。

 探さなくちゃ。



 ……真相を。



 私はなりふりなど一切構うことなく、その部屋中を隈なく探し始めた。



 何かを失った心の空洞だけが、私の活力で。

 何も覚えていないという不安感だけが、私の拠り所で。



「……だから、探さなくちゃ」



 一心不乱に、私は本棚をひっくり返した。



 そうして出てきたのは、数冊に渡るスクラップの資料だった。



 中身を確認しようと恐る恐る開くと、そこにはここ約一年分の新聞記事がスクラップされていた。



 それも、一つの事件に関するものばかりであった。



『男子高校生、通り魔に刺され、死亡』

『男子高校生通り魔事件、未だ犯人見付からず』

『男子高校生通り魔事件、殺害動機は痴情のもつれか』



 私は手の震えを無理矢理抑え込み、次々とページを捲っていった。



 そこに描き出されていたのは、一つの事件だった。



 男子高校生が、通り魔に刺され死亡したという事件。



 犯人は結局、見付からないまま、事件は次第に世間に忘れられていった。



 スクラップ資料のページが後半に向かうにつれ、記事の大きさが小さくなり、また種類も地方新聞になっていっていることからも、その様子が痛い程に伝わってきた。



 一通り、ぱらぱらと目を通した後、私はもう一度一番初めの記事に戻る。



『男子高校生、通り魔に刺され、死亡』



 そう題された新聞記事には、被害者である男子高校生の顔写真と名前が記載されていた。



 加賀美 満吉。



 当時、17歳だった男の子。

 本当ならば、市川と同じ高校三年生になっているはずの男の子。
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