その女、女狐につき。

高殿アカリ

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10.愛ってなんだ

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 だけどね、探ると言ったからには探るわ。

 市川が何を隠しているのか。



 そこに、この胸のぽっかり空いた穴を埋めるパズルのピースがあると思うの。



 市川のことが気になっているのと、市川の隠していることを探ること。

 まるで市川を騙しているみたいな気持ちにならないこともないけれど。



 これとそれの話は別。

 そこまで甘くはないのよ、私。



 このマンションで一緒に住む初日。

 彼はこんなことを言っていた。



「客室が一つあるから、そこを君の部屋にして構わない。それと、キッチンやお風呂場、ベランダとかこの家にあるものはどこをどんな風に使ってもいいけど、一つだけ約束して。僕の部屋の隣の部屋には決して入らないと」



 そんなの、何か見られてはいけないものがあるって感じしかしないわよね。



 そもそも、自室は入ってもいいけど(朝、起こしてあげなくちゃだし)、その隣の部屋は駄目って……。



 怪しすぎる。



 そして、その部屋に市川は毎日のように籠っているのだ。

 自室は寝る為だけの部屋って感じね。



 更には、他の部屋には一切ない鍵が、その部屋にだけかけられている。

 鍵の管理は、市川がしている。



 だけど、一度もその鍵を私は見たことがないのだ。

 だからどこに鍵がしまわれているかはもちろんのこと、私は鍵そのものさえも知らない。



 もしかしたら、鍵穴はフェイクであの部屋を開ける為の鍵なんてものは存在しないのかもしれない。



 とにかく、私はあの部屋に入りたくとも、入る手段さえもなく、日常を過ごしていたのだ。



 でも、別に諦めたわけじゃないわ。

 今はただ様子を伺っているだけ。
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