その女、女狐につき。

高殿アカリ

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9.同盟の結び方

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 市川の問いに、私はびっくりした。

 どうしてそこまで見抜けているのかしら。



 彼の言ったことは、まさしくその通りなのだけど。

 そして、本当なら私が言うはずの言葉だったのに。



 でも、そんなことはおくびにも出さず、私は少々目を見開いて、それから笑った。



 あ、同じこと考えてるー!

 とか。

 あ、そこのブランド知ってるー!

 とか。



 同じ価値観を見付けたときに女子高校生がよくする表情だ。



「わぁ、凄いですね。さすが市川先輩です」



 心底、嬉しいというようにそう言った。

 けれど、彼の顔は浮かない。



 もしや演技がばれている?

 十分にあり得る話ね。



 ……いいえ、待って。

 そうじゃないわ。



 彼の表情は、下手な演技をする大根女優への見透かしたような、冷めたような視線ではなくて、ましてや嫌悪の感情なんかとはもっと違う。



 そうじゃなくて、もっと――。



「どうして、そんなにあなたが苦しそうな顔をしているのよ」



 訳が分からず、私は思わずそんな疑問を口走っていた。



 そう、彼の表情は苦しそうで、それから悲しそうで。

 ……でも、どうして?



 私の言葉に市川が返す。



「僕が知っているからさ」

「……何を?」

「全てを」



 ……ん?

 ちょっと待って。

 どういうこと?



 頭に疑問符を浮かべて、市川の言ったことを反芻するも、途中でそれどころではなくなった。



 市川が、私を抱きしめてきたからだ。



 更には、ぐずる子どもをあやすみたいに、背中をぽんぽんと一定のリズムで叩いてくる。



 全く訳が分からない。

 一体、何なのよ。



 でも、その手がどこか優しくて。

 私はまるで小さな女の子にでも戻ってしまったみたいだった。



 とくとく。

 とくとく。



 ココアみたいな甘さと温かさが私の心臓に広がって、このままこの幸福に浸っていたいなぁ。



 なんて、そんなことを考えていた。
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