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9.同盟の結び方
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ベッドに近付き、市川の姿を捉える。
しかし、何か様子がおかしい。
いつも聞こえてくる気持ちの良さそうな寝息は聞こえず。
代わりに目に付いたのは、乱れたシーツと荒い呼吸。
具合でも悪いのかと、慌てて市川の元に駆け寄った。
すると、彼は苦しそうにうなされていて、時折何かを囁いている。
額には尋常でない量の汗をかいていた。
その額に手を当ててみるも、熱はないようだ。
恐らく、何か悪い夢でも見ているのだろう。
ほっと一つ安心するも、そのうなされ具合に再び不安が襲った。
「市川先輩、大丈夫ですか?」
そんな彼に向かって呼びかけるも、返事は寝言だけ。
手を宙に伸ばし、誰かの名前を必死で呼んでいる。
誰の名前を呼んでいるのか。
ふと気になったのは、昨日のせいだろうか。
もう少しだけ近付いて、彼の声に耳を澄ませる。
「……つよし……」
つよし? 男の名前?
疑問符を浮かべた私の耳に、今度ははっきりと聞こえた。
「……満吉……」
ミツヨシ。
ズキッ!!
その瞬間、私の頭が割れるように痛み出した。
何かが抉り出されるような感覚がして、怖くて、痛くて。
……悲しくて。
私は足の力が入らなくなり、その場に倒れ込んだ。
どさ。
その音ではっと目覚めた市川が、私の様子に気付くと顔を青ざめさせていた。
その光景を最後に、私の視界はブラックアウトした。
痛い、痛い。
死にそう。
痛みの海の中に放り出されて、私はただ苦しんでいた。
大切な何かが私の側をすり抜けていく。
捕まえようといても、上手くいかなくて。
ただ、誰か知らない男の子の姿だけが脳裏に焼き付いて離れない。
……あなたが、満吉なの?
問いかけても、返事はもらえなかった。
彼は微かに笑って、一人、光の指す方へ泳いでいった。
しかし、何か様子がおかしい。
いつも聞こえてくる気持ちの良さそうな寝息は聞こえず。
代わりに目に付いたのは、乱れたシーツと荒い呼吸。
具合でも悪いのかと、慌てて市川の元に駆け寄った。
すると、彼は苦しそうにうなされていて、時折何かを囁いている。
額には尋常でない量の汗をかいていた。
その額に手を当ててみるも、熱はないようだ。
恐らく、何か悪い夢でも見ているのだろう。
ほっと一つ安心するも、そのうなされ具合に再び不安が襲った。
「市川先輩、大丈夫ですか?」
そんな彼に向かって呼びかけるも、返事は寝言だけ。
手を宙に伸ばし、誰かの名前を必死で呼んでいる。
誰の名前を呼んでいるのか。
ふと気になったのは、昨日のせいだろうか。
もう少しだけ近付いて、彼の声に耳を澄ませる。
「……つよし……」
つよし? 男の名前?
疑問符を浮かべた私の耳に、今度ははっきりと聞こえた。
「……満吉……」
ミツヨシ。
ズキッ!!
その瞬間、私の頭が割れるように痛み出した。
何かが抉り出されるような感覚がして、怖くて、痛くて。
……悲しくて。
私は足の力が入らなくなり、その場に倒れ込んだ。
どさ。
その音ではっと目覚めた市川が、私の様子に気付くと顔を青ざめさせていた。
その光景を最後に、私の視界はブラックアウトした。
痛い、痛い。
死にそう。
痛みの海の中に放り出されて、私はただ苦しんでいた。
大切な何かが私の側をすり抜けていく。
捕まえようといても、上手くいかなくて。
ただ、誰か知らない男の子の姿だけが脳裏に焼き付いて離れない。
……あなたが、満吉なの?
問いかけても、返事はもらえなかった。
彼は微かに笑って、一人、光の指す方へ泳いでいった。
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