121 / 163
8.嵐の中の夏休み
9
しおりを挟む
いやいやいや。
ちょっと待って!!
ただでさえ、小走りで散歩をしていたところに、突然何の前触れもなく引っ張られたのだ。
当然、私の足は付いていけず。
だから、リードを引っ張り返して止める、なんてことも出来ないわけで。
必死に足を動かした。
どこへ向かうのかも分からず、何が起きているのかも分からず。
市川とか、どうでも良くなっちゃって。
というかそれ以前に何も考えられないし。
気が付けば、目の前に大きな池が現れていて。
何が起きているんだ、と思った矢先、犬たちが全員そこに飛び込んだのだ。
どぼん。
重たい音がした。
たぶん、私はもっと早くにリードを離すべきだったのだ。
幾ら犬とは言え、そして幾ら広い敷地とは言え、従業員はたくさんいるわけだし、セキュリティーもしっかりしているわけだし。
番犬たちを見失ったところで、誰も私を責めないだろうに。
だけど、もう遅い。
だって、既に池に向かって飛び込もうとしているのだから。
「うわあああ」
なんて色気のない声を出しながら、目を瞑っていたら。
誰かの腕が横から飛び出してきて、私はそのままその人の胸に抱かれた。
そして仲良く、一緒にどぼん。
水の中、その人は強く握りしめていたリードを私の手から離し、そして再び抱きしめられたかと思うと、私は外の空気を吸っていた。
ぷかぷかと浮かびながら、荒い呼吸を整えて、助けてくれた人物を見上げる。
なお、私は未だその人の腕の中にいる。
きらきらと落ちてくる水滴が、太陽の光を浴びて眩しく輝く。
「大丈夫か」
聞き慣れてしまったその声に、私は誰が助けてくれたのかを知った。
……市川だ。
そうだと思った瞬間、私は彼の顔を見ることが出来なくなった。
慌てて俯くと、ただただ揺れる水面を見つめていた。
ちょっと待って!!
ただでさえ、小走りで散歩をしていたところに、突然何の前触れもなく引っ張られたのだ。
当然、私の足は付いていけず。
だから、リードを引っ張り返して止める、なんてことも出来ないわけで。
必死に足を動かした。
どこへ向かうのかも分からず、何が起きているのかも分からず。
市川とか、どうでも良くなっちゃって。
というかそれ以前に何も考えられないし。
気が付けば、目の前に大きな池が現れていて。
何が起きているんだ、と思った矢先、犬たちが全員そこに飛び込んだのだ。
どぼん。
重たい音がした。
たぶん、私はもっと早くにリードを離すべきだったのだ。
幾ら犬とは言え、そして幾ら広い敷地とは言え、従業員はたくさんいるわけだし、セキュリティーもしっかりしているわけだし。
番犬たちを見失ったところで、誰も私を責めないだろうに。
だけど、もう遅い。
だって、既に池に向かって飛び込もうとしているのだから。
「うわあああ」
なんて色気のない声を出しながら、目を瞑っていたら。
誰かの腕が横から飛び出してきて、私はそのままその人の胸に抱かれた。
そして仲良く、一緒にどぼん。
水の中、その人は強く握りしめていたリードを私の手から離し、そして再び抱きしめられたかと思うと、私は外の空気を吸っていた。
ぷかぷかと浮かびながら、荒い呼吸を整えて、助けてくれた人物を見上げる。
なお、私は未だその人の腕の中にいる。
きらきらと落ちてくる水滴が、太陽の光を浴びて眩しく輝く。
「大丈夫か」
聞き慣れてしまったその声に、私は誰が助けてくれたのかを知った。
……市川だ。
そうだと思った瞬間、私は彼の顔を見ることが出来なくなった。
慌てて俯くと、ただただ揺れる水面を見つめていた。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

はずれのわたしで、ごめんなさい。
ふまさ
恋愛
姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。
婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。
こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。
そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。
【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね
江崎美彩
恋愛
王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。
幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。
「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」
ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう……
〜登場人物〜
ミンディ・ハーミング
元気が取り柄の伯爵令嬢。
幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。
ブライアン・ケイリー
ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。
天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。
ベリンダ・ケイリー
ブライアンの年子の妹。
ミンディとブライアンの良き理解者。
王太子殿下
婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。
『小説家になろう』にも投稿しています
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

出生の秘密は墓場まで
しゃーりん
恋愛
20歳で公爵になったエスメラルダには13歳離れた弟ザフィーロがいる。
だが実はザフィーロはエスメラルダが産んだ子。この事実を知っている者は墓場まで口を噤むことになっている。
ザフィーロに跡を継がせるつもりだったが、特殊な性癖があるのではないかという恐れから、もう一人子供を産むためにエスメラルダは25歳で結婚する。
3年後、出産したばかりのエスメラルダに自分の出生についてザフィーロが確認するというお話です。
いつか彼女を手に入れる日まで
月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる