その女、女狐につき。

高殿アカリ

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9.同盟の結び方

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 耳に手を当てて、涙目になりながら威嚇する私を、市川は余裕の表情で見下ろしてくる。



 くっ、不覚だったわ。

 そうよ、あいつがそんな生温いことで動揺するはずがなかったのよ。



 悔しくて、私はふっと力を抜いた。

 そして何事もなかったかのように立ち上がり、



「市川先輩、朝ご飯です」



 にっこり笑い返してやった。



 ……だって一人だけ気にしているのって余計恥ずかしいじゃない?



 こうして毎朝恒例の戦いを終えるのだ。

 今のところ負け続けだけど。



 その後は、メイドさんたちの指示に従って、料理のお手伝いをしたり。

 何故かその料理をあいつにあーんして食べさせていたり。



 どうやらそれも真面目な仕事の内のひとつらしい。

 市川は、朝起きるのが酷く苦手で(絶対嘘よ)、まだ寝ぼけ眼の頭では上手く食器を扱えないとか。



 そんなこんなで、二段階の屈辱を毎朝味わった後、私はようやく仕事に集中できるのだ。



 午前中は洗濯機を回し、洗濯物を干し、メイドさんたちと雑談する。



 午後は広い庭の中を番犬たちと共に練り歩く。

 防犯の見回りと犬の散歩を兼ねて。



 しかし、どうしてかしら。

 私は今、幻覚を見ているのかもしれないわ。



 だって、番犬たち3匹に半ば引き摺られるような形で歩く私の横に、市川がいるんですもの。



 一体、今日はどういう風の吹き回し?

 いつもなら私と市川が顔を合わせるのは朝だけの話なのに。



 だから案外楽だな、なんて思っていたのに!



 そんな風に意識を飛ばしていたからだろうか。



 がくん、と身体が強く引っ張られて、慌てて犬たちを見れば。

 何に興味を示したのか、強面の犬が嬉しそうに尻尾を揺らしながら爆走していた。
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