その女、女狐につき。

高殿アカリ

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9.同盟の結び方

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あれから一時間以上は経つだろうか。


「大変、感動的でした……ぐすっ、わんわんが実に健気ですね」

ハンカチで涙を拭う副会長さま。


「くそぉ、この俺を泣かすとは……真の忠犬じゃねーか、ノラのくせに!」

ティッシュで鼻をかみながらよく分からないことを言う会長さま。


「犬が人間になるのって本当に大変なんだねー、わんわん君ってば偉いよね!」

いえ俺は最初から人間ですよ、会計さま。


「海賊に誘拐された先輩を救うため、剣をくわえて必死に戦う姿が素敵でした!」

え、何それ。そんな場面あった?



ホール前方、舞台側の壁一面に設置された超大型スクリーン。
今そこに映し出されているのは幼い頃の書記さま、そして雑種の野良犬にオーバーラップする……俺の写真。
静かに流れる音楽がやたらと人を切ない気持ちにさせる。

えーと、うん。何だこれ。

『書記さまと雑種のノラ犬』の出会いと別れ、そして数々の試練や冒険。
全てを乗り越えついに人間となった元・ノラ犬が書記さまと再会するまでを描いた、感動巨編(映画)
――が、何故か延々さっきまでスクリーンを埋め尽くしていたんですけど。

しかもTVで観たことのある有名な役者さんが普通に出てくるし。特に、幼い頃の書記さまを演じていたのって今凄い人気の天才子役だよね?
他にもCGやアニメ、音楽など超一流のクリエイターやアーティストが制作に参加してますが。
ああほら、今エンドロールで確認したから間違いない。うわ、演出・脚本家もよく聞く名前だ。監督に至っては何度も海外で映画賞とか貰ってる人でしょ。えええっ!?


再度言うぞ、何だこれ。
それにこの場合、全校集会じゃなくて単なる映画鑑賞会だよね。

客席に座ってスクリーンを見る全校生徒たち。その最前列を陣取っているのが生徒会役員さま方だ。
……本当に何やってんだろ、この人達。

かくいう俺は舞台そで、幕の裏側にいます。だって強制的に連れ込まれたし。
パイプイスを並べ、書記さまと二人隣り合って座っている。膝上じゃないだけマシだけど、何故か書記さまと手を繋いだ状態に。

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