その女、女狐につき。

高殿アカリ

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8.嵐の中の夏休み

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 にぃっと釣り上がった男の口元に、ふと既視感を覚える。



 その些細な違和感を私が掴み取る前に、男が話し始めた。



「今から、面白いゲームをしようか」



 白豹のリーダーは、勉強机の椅子を私たちの目の前に持ってくると、優雅に腰を落ち着けた。



 不敵な笑みを一つ浮かべると、それが合図だったのか、黒い仮面の人物が一花とユマさんの猿ぐつわを外した。



 一体何が始まるのか。



 下手なことを言えば殺されるかもしれない。

 ううん、殺されるよりも酷いことをされるのかもしれない。



 生きていることが絶望にしかならないような、そんなことを。



 そういう恐怖が、私たちの口を閉ざしている。



 その様子に、ご満悦な笑顔を浮かべて、白豹のリーダーは提案をする。



「一つ、賭けをしようじゃあないか。ルールは簡単さ。君たちは何もしなくていい。ただ、助けを待つだけ」



 彼の説明に安堵を見せる一花とユマさん。



 駄目よ。

 相手はあの白豹なのよ。



 そう簡単には問屋が卸さないわよ。



「ただし、助けてもらえるのは三人の内の二人だけ。どう? 面白いと思わないかい?」



 楽しそうに笑う男。

 最低最悪の奴だとは思うけど、どうしてだか目が離せない。



 さすがは革命者ってところかしら?



 ちっとも面白くないゲームを提案してくるところはマイナスポイントだけどね。



 私はここにきて、恐怖を感じなくなっていた。



 恐怖のバロメーターが振り切れてしまったのか、あるいは――。



 私はゆっくりと口角を上げて、奴を見据えた。



 彼の思惑が少し分かった気がした。

その理由までは分からないけれど。



 そして、その未来を変えられないというのならば、私の取るべき手段は一つだけ。



「残った一人はどうなるの?」
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