その女、女狐につき。

高殿アカリ

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8.嵐の中の夏休み

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 でも、興ざめね。

 そんなつまんない理由だったなんて。



 あんたの話より、こっちの方がよっぽどつまんないわよ。



 なんて、タイシに言えたらストレスも溜まらないんだろうけど。



 私はふんわり笑って、



「なるほどです。確かにそっちの方が楽しそうですね!」



 私の笑顔にやられたのか、タイシが顔を赤くしてそっぽを向いたことには気付かないフリをした。



 だって面倒くさそうじゃん。



 フウガが私に落ちかけている今、あんたには興味がないのよね。



 私はタイシの隣に座っていて、横の二つの席にはケイとフウガが座っている。



 ケイはパソコンと睨み合い(何がそんなに楽しいのか)。



 フウガは目を瞑っていて、寝ているのか考え事をしているのか。



 タイシは私と話しつつも、後ろの下っ端くんたちとじゃれつきたいのか、先ほどからそわそわと落ち着きがない。



 恐らく、時間の問題なのだろう。



 ここで私はふいと視線を逸らして、後部座席に座っている一花の方を見た。



 彼女は後部座席の一番後ろ、五人席の真ん中に座っていた。



 その様子からも分かるように、未だフウガの一花への疑いは晴れていないようだ。



 私にとってよろしいことこの上ない。



 なのに、彼女はどうしてそんなにも楽しそうに笑っているの?



 もっと悲しむべきじゃないの?

 そんなにも黒閻が楽しい?



 ずっと黒閻にいたい?



 ねぇ、一花……。



 山田先輩と良い雰囲気だと思ったんだけどなぁ。

 それよりも黒閻にいる方が良いのかしら?



 だったら少し計画を変更する必要も出てくるんだけど。



 ……虚しい。

 あの子の楽しそうな笑い声が耳に入る度、私は漠然とそんなことを思う。



 どうしてかは分からない。



 ただどうしようもなく、自分のやっていること全てが無駄に思えて仕方がなかった。
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