その女、女狐につき。

高殿アカリ

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7.嵐の前の何とやら

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 こうしていつも通りの日常は過ぎていった。



 外の空気は次第に熱気を帯び、青く高い空に入道雲の浮かぶ季節がやって来た。



 からっと晴れた夏の空に、私は何もかもを放り出してしまったのかもしれない。



 あるいは、入道雲のその丸く白い、無邪気な姿に騙されたのかもしれない。



 嵐の前の何とやら、って言うのにね。



 入道雲は、夏の雨の前兆だって知っていたのにね。



 ミーンミーン。

 ミーンミーン。



 いつから鳴き始めたのか、蝉が五月蠅くその生命力を歌っていて。



 ストロベリー味のピンク色をしたアイスクリームは暑さに溶けて消えてしまい。



 私たちは、夏休みを迎えた。



 何かが起こりそうな予感がしたのは、私が嵐を待ち望んでいたからなのだろう。
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